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大袈裟過ぎる男

「ギル、これ食うか?」  何となく試してみたくなって、オレンジ色の実をひとつ差し出してみる。 「ああ、ありがとう」  受け取って、ギルは「確かに、果物屋にも尋ねたな……」と苦笑を溢した。  そこはすぐ気づくんだな。  ギルは果実を鼻先に運んで「良い香りだ」と小さく微笑んでから、皮を剥いて口にした。  一応視覚と嗅覚のチェックは入れたっぽいが、最初の一口が思ったより多かった。  もし毒が入ってたら、もう半分以下にしてねーと即死する量だろ。  何も警戒せずに食ってるってわけでもねーみたいなのに。  ……リスクを分かった上で、あんだけ口に入れたんだとしたら……。  ……ギルは、俺のこと、信用してくれてんだな……。  そう思ったら、心臓のあたりがぎゅうと苦しくなった。  あー……、これはよくねーな。  ギルは多分、ここでの任務が終わったら姿を消す。  だから、あんまり心を寄せちゃダメだ。  俺は自分に言い聞かせながら、ギルに続いて宿の扉をくぐった。  途中でちょっと宿の水場を借りて、俺が口の周りタレを落とすと、ギルも倣っていた。  どうやらギルは朝から聞き込みの情報料代わりにあちこちの屋台で食ってたらしく、さっきの串を俺に譲ったのはもう満腹だったからのようだ。  部屋に通されて、俺はベッドに腰掛けると尋ねる。 「あのさ、ギルはチビ達の事を調べてどうする気だったんだ? 俺のことが知りてーんなら、俺に直接聞けよ」  ギルは肩こそ揺らさなかったが、その顔が緊張に強張る。  んー……ハッタリかますか……? 「ギルは俺の事舐めてんだろ? 俺はお前が商人じゃねぇって事どころか、ヴィブロンド家の出だって事も、ここに仕事で来てるって事も知ってんだけど?」  とはいえ、仕事の内容までは知らねーし、ヴィブロンド家に今も居るのかもわかんねーし、ヴィブロンド家が今も変わらず伯爵家かどうかもわかんねーから、その辺はぼかしつつだが。 「なっ……」  俺の言葉にギルが瞠目する。  わかりやすいのはありがてーんだけど、お前はもうちょい色々呑み込めるようになった方がいいぞ? 「あーあ。俺は、ギルの出方次第で、ギルに協力してやろうと思ってたんだけどなぁ……? 勝手に俺の周りを探ろうとするような奴じゃ、流石に信用できねぇなぁ……?」  ギルは俺の言葉に一瞬泣きそうな顔をして、即座に俺の足元に跪いた。 「っ、すまない。ゼス、許してくれ。私が手段を誤った……」  ギルはベッドに腰掛けて脚を組んでいた俺の爪先へと額を寄せてくる。  っておい、そこまでしろとは言ってねーって!  つーか曲がりなりにもヴィブロンド家次期当主が、そんな簡単に頭を下げんじゃねーよ。  家格ってもんがあんだろ……? 「おい、やめろ」  俺の口から出た声は、俺が思ったよりもずっと冷たかった。  ギルはびくりと肩を揺らすと、大きな体を縮こまらせて、俺から一歩離れた場所に控えた。 「ゼスに対して礼を欠く行いだった。深く反省している……」  いや、そもそも俺に礼を示す必要ってあんのか? 「私はゼスの言う通り、この町の悪を倒し民の苦しみを消すために、王都から派遣されている……」  ……俺はそこまで具体的なことは言ってねーからな?  つーかお前自分のこと正義の味方だと思ってんのかよ……。  なんなんだよおい、純粋過ぎんだろ。  そんな夢見がちなこと言ってて務まんのかよ。  悪ぃ奴の裏をかかねーとダメな仕事じゃねーかよ。  そんでもやっぱ、町にこっそり視察隊がきてるらしいってのは事実だったわけだ。  ただ、それが漏れてる時点で全然こっそりじゃねーんだよな……。  実際、警備兵の奴らもここんとこすっかり大人しいしな。  ……まさか、隠密行動の足を引っ張ってんのはギルなんじゃねーか……? 「商人だと言ったのは、真っ赤な嘘だ……申し訳ない……」 「別に俺に嘘ついた事を怒ってるわけじゃねーよ」  むしろ嘘なら、俺の方がずっと多い。  お前の人生に関わるような嘘を、俺は抱えてる。 「子ども達を調べていたのは……、その……ゼスと、警備隊長が……恋仲なのだと、聞いて……その真偽を……」 「…………は?」  思わず漏れたね。心の声が。 「ち、違うのか……?」  ギルにおずおずと尋ねられて、俺は叫んでいた。 「だぁぁぁぁぁぁれがあんな気色悪ぃおっさんと恋仲になんかなるかよ! 死んでも嫌だね!!」  俺の心からの叫びに、ギルはあからさまにホッとした顔をした。  ……マジかよ。  俺って義兄からあんなクソ髭変態野郎と付き合ってるって思われてたのかよ……。  正直ショックなんだが……?  あー、そっか。  ギルは俺がチビ達を庇ったとこでも見てたのかも知れねーな。  ……えええええ、だとしても、俺とあのおっさんがそんな良い雰囲気に見えるか……?  確かに愛想良くニコニコしてたつもりではあるが、ギルからそんな風に見えたなんて、心外すぎる……。 「一体誰が、俺とあのおっさんが出来てるなんて言ったんだよ……」  俺が大きくため息を吐くと、ギルが小さく息を呑んだ。  ん? 「大変申し訳ない思い違いをした。ゼスに許してもらえるのなら、私は君の望みを何だって叶えよう」  ギルは紳士的な仕草で俺に頭を下げる。  だからそんな簡単に頭下げんなってんだよ。 「じゃあさっさとあのおっさんをとっ捕まえてくれよ」  俺の言葉に、ギルは優しそうな眉をへにょんと下げてしょんぼりと答える。 「それは……鋭意準備中だ……」  真面目に答えるギルが可愛くて、俺は苦笑する。 「んじゃあしょうがねーな。疑いをかけた俺と巻き込んだチビ達連れて、お前の財布で買い食いでもすっか」 「……そんな、事くらいで、許してくれるのか……?」 「はぁ? 育ち盛りのチビ達の胃袋甘く見んじゃねーぞ? ちゃんとギルがチビ達エスコートしてやるんだぞ?」 「ああ、わかった。身命を賭して務めよう」  胸に手を当てて答えるギルがとても嬉しそうで、俺は「大袈裟過ぎんだろ」と突っ込みながらも、思わず目を細めた。

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