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金貨の正しい使い方

 ***  その日、いつもと同じようにぶらぶらと市場を歩いていた俺の耳に、「きゃあっ」と甲高い子どもの声が届いた。 「やだっ、やめてぇっ」 「ミリアを放してっ!」  チッ、またアイツらなんかヘマしたのか!?  走る俺の脳裏に嫌な予感が掠める。  いや、アイツらのヘマじゃないかも知れない。  警備兵の奴らが俺を引っ張り出すために、アイツらに手を出したんだとしたら……。 「何してるっ!?」  駆け付けた先に居たのは、チビ達と、この間俺を捕まえようとしていたごろつき連中だった。 「ゼス!」 「ゼスっミリアが!」 「ごめんなさいぃぃぃゼスぅぅぅっ」  この状況は……?   地面には屋台の商品が散乱している。  陶器の店だったのか、割れてダメになってんのが多いな……。  つーかこんなとこにこんな店あったか……?  昨日はなかったよな……?  ロドルが俺に謝ったとこをみると、なんかアイツがヘマでもしたのか……? 「チビ達が悪さをしたなら俺が謝る。ミリアを放してくれ」  ミリアの髪を掴んで持ち上げている背の高い男に向かって、俺はそう言って近付いた。 「ほらよ」  男がミリアを投げ寄越す。 「きゃあぁっ」  俺は両腕で何とかミリアを抱き止める。  くそっ、何てことすんだよ、まだ小さな女の子だぞ!? 「ミリア、大丈夫か?」 「ぅ、う、ぅうううぅぅぅ……」  ミリアは痛みと恐怖で涙が堪えられない様子だが、それでも俺に頷いて返してくれた。 「ラエル、二人を連れて戻れるか?」 「うんっ!」  ギルがいたら知らせてくれって言いたいとこだが……そのせいでチビ達が狙われるとマズイか。  俺は伝言を諦めて、三人を逃す。  ごろつき連中が誰もアイツらを追わないか、他に隠れてるような奴で動くのはいないか、俺は全神経を集中させて周囲を探る。  その間に、ごろつき連中は俺をジリジリと取り囲んだ。  まあチビ達を逃した時には既にほぼ囲まれてたからな、これは仕方ない。  アイツがミリアを投げたのは、俺が輪の中央に出て受け止めるしかない状況にするためだろう。  こんだけ地面に皿が割れてるようなとこに落ちたら、可愛いミリアが傷だらけになるからな。 「ゼスよぉ、この状況が分かってんのかぁ?」 「こんな大量の皿を割ってくれたんだよなぁ、あのチビ達がさぁ?」 「一枚いくらするんだろうなぁ? お前の体じゃ足りねぇだろぉよぉ?」  俺はあくまで落ち着いた声で返す。 「足りなきゃどうする気だ?」 「当然、体で返し終えるまで、お前には俺達全員の面倒を見てもらわねーとなぁ?」  結局それかよ、お前らも飽きねーな。  つーかそのためだけにこんな凝った仕込みしたのかよ。  こんだけ用意すんのに、どんだけの金……。  いや、こいつらにそんな金はねーはずだ。  て事は、この茶番はこいつらだけで準備できるモンじゃねーって事か……?  気付いた事実に背筋を悪寒が走る。  マズイな。  これはなるべく早くここを去った方がいい。 「分かった。この損害分は俺が弁償する」 「はぁ!? 出来るもんならやってみ――」  俺の襟首を掴みにくる男の腕を避けて、その上に飛び乗る。  俺の足を取りに来た腕を避けて頭の上に乗ると、手近な屋台に飛び移る。 「ほら、受け取れ!」  俺はごろつき連中を全員見渡せるような位置から金貨を一枚放ってやる。 「金貨!?」 「金貨だと!?」 「ゼスがそんな大金持ってるはずがねーだろ」 「いや、見ろ! 本物だぞ!?」  男達が金貨の真偽に納得したところで、俺は鋭く言い放つ。 「その屋台ならそれで十分釣りがくるだろ、これでこの件はチャラだ。いいな?」 「なっ、何を……っ」 「それと、こんな事はこの一度っきりだからな? 次同じような事やってみろ、お前達全員のを噛みちぎってやっからな?」  こーゆー時、金があれば体は売らなくていいんだよな。  まあギルもそのために渡してくれてる金なんだし、この使い方で正しいんだろう。  それでも俺の金貨が一枚失われた事にかなりの喪失感を抱えつつ、飛び去ろうとした俺の背に「ゼス!」と嫌んなるほど聞いたダミ声がかかった。  もう駆けつけてきたのかよ警備隊長、早すぎんだろ。  あー……って事はこいつらに金出したのはアンタか。  くっそ……それがわかってりゃ俺の可愛い金貨を出したりしなかったのによ……。 「お前を器物損壊の罪で逮捕する!」  はぁ? 俺は壊してねーし。  もーなんかこのまま逃げ出してーけど、今回はなんかなるべく理不尽に捕まんなきゃダメなとこだよなぁ……。 「警備隊長さん、この件は俺が弁償して丸く収まったところなのでご安心ください」 「弁償……だと? この量の損害を……?」 「はい、彼らに聞いてください、俺から金貨を受け取っていますから」 「金貨だって!? お前ら、受け取ったのか!?」  警備隊長に鬼の形相で迫られて、ごろつき連中はぶんぶんと首を振る。  おいおい、もらってねーって言うなら返せよ、俺の金。  俺は周囲をじっくり確認する。  町の外れとは言え、チビ達の泣き声は十分に人目を引いたし、俺は金貨を目立つ高所から投げた。  アイツらが本物だと叫んだところも、それを懐に入れたところも何人もが目撃している。  ……まあ、今ここで口にできるほど身の程知らずの奴はいねーだろーけどな。  後からギルが調べてくれれば話してくれる奴もいるだろーよ。  まあこれで、俺は弁償したにも関わらず不当に連行されることになるわけだ。 「受け取っていないそうだぞ? ゼス」 「そんな……」 「ぐふふ、お前はそんな顔も本当に可愛いな……? 話はじっくり隊舎で聞こう、さあおいで」  警備隊長はニタニタと顔の緩みを隠しきれないままに、俺の腰に腕を回してくる。  おいおい、おっさんもう涎垂れかかってんぞ、大丈夫かよ。  内心で突っ込みつつも、俺は沈鬱な表情を浮かべて俯くと「はい……」と答えた。  準備は済んだぜ、ギル。  あとはお前に任せたからな。  ……俺が警備隊長に抱き潰される前に、来てくれよ……?

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