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俺の涙*

 牢屋の壁に取り付けられた重そうな鉄製のハンドルを隊長がキィキィと音を立てながら回す。  俺の体は縄にギッチリと固定され、もがくことも許されないままに、ゆっくりと宙に浮いた。  後ろ手で固定された背中側の縄を引き上げられているので、俺の姿勢は自然と前傾になる。  首と両肩にも姿勢保持のために縄が張られているのだろう。  足が床から離れると、ガクンと揺れた姿勢の反動で首を一気に後ろに引かれた。  息が詰まって思わず咽せるも、身を屈めることすら許されない。  上へ上へとゆっくり吊り上げられるにつれ、それぞれの縄がギシギシと引き合い、俺自身の体重で肌に深く食い込んでゆく。  じわじわと縄がきつく締められてゆくような感覚に、あちこちの血流が途切れてゆくのがわかる。  くっそ、これぜってー痕が残るやつだろ……。  しかもどんだけ耐えても金も貰えねーとかマジで萎えるんだが……。  ああ……なんかもう……死にたくなってくるな……。  咽せた際に滲んだ涙で、視界は薄ぼんやりとしていた。  あちこちへ加わる痛みに、このまま死ねたら良いのになと頭の隅で思う。  こんな無様な姿をギルに晒すくらいなら、死んだ方がずっとマシなのにな。  ……いっそギルが、同意の上でこんな姿になったと言う俺に怒り狂って、俺を斬り殺してくれたらいい。  こんな俺を、今も昔も大事にしてくれた義兄の手で死ねるなら、それは何だかとても幸せなことのようにも思えた。  しばらく俺をあらゆる角度から視姦しては絶賛していた隊長が、おもむろに俺の胸を撫でた。  うっとりと俺を見つめる隊長の股間は既に臨戦態勢だ。 「むふふふ、そんなに瞳を潤ませて、可愛い子だ……。ずいぶん待たせただろう? さあ、赤い花弁と縄で美しく芸術的に彩られたゼスを、たっぷり可愛がってあげようなぁ?」  隊長の指が俺の剥き出しの後ろへと触れると、遠慮なく俺の内側へと入り込んだ。 「……っ、ん……」  痛みと圧迫感に小さく悲鳴が漏れる。  せめて濡らせよおいっ!  くっそ……今日は何も準備してねーから後ろもキツイなこれは……。  猿轡がなきゃ、濡らしてくれってくらい言えんのにな……。  俺は今、目の前の男に体の自由を全て奪われて、完全に支配されている。  そんな認めたくない事実が、俺に重くのしかかる。  男の薄汚れた指が二本三本と性急に増やされる。  乱暴に中をかき回されると、痛みに汗が滲んで苦しい息がいくつも漏れた。 「よしよし、もう私が欲しいだろう? 今やろうなぁ?」  カチャカチャと音がして男がズボンと下着を下ろした。  俺だけ素っ裸にしておいて、お前はそこしか出さねーのかよ。  あまりに待ちきれない様子の男に内心で呆れを浮かべていると、不意に扉の外から鋭い声がかかった。 「シュルツヴァル!! ここを開けろっ!!」  いつもよりも低く呻るような声だが、これはギルの声だ。  ああ、助けに来てくれたんだ……。  安堵感が胸に滲むと同時に、恐怖が全身を包んだ。  あ……、ダメ、だ……、ダメだっ!!  ギルと顔を合わせても、俺はギルを傷つけてしまうような事しか言えない!!  お願いだ、ギル、来ないでくれ!  なあ……頼む…………こんな俺を……見つけないでくれ…………っ。  視界が急激に滲んで、俺は自分が泣いているんだと気付いた。  生理的な涙以外で、最後に泣いたのはいつだっただろうか……。  鍵のかかった重い扉をガンガンと叩く音が響く。 「ヨヒト! 鍵はまだか!?」 「待ってくださいよギルフォードさんっ、今持って行きますから!」  ギルの後から聞こえた声は、どこかで聞いたような気がする。  不意にぐんっと視界が揺れて、俺はさらに上へと吊り上げられていることに気づいた。  見れば隊長が大慌てで鉄製の重いハンドルを巻いている。 「早く開けてくれ!」 「今開けますから、もうちょっと待っててください」  ああ、そうだ。雰囲気こそ違うけど、これはさっきの男の声じゃないか……?  さっきの……、冷たい目で、俺を脅した男…………。  俺の背筋を伝ったのは、冷たい恐怖だった。  今も、俺はあの男に孤児院の皆の命を掴まれているという恐怖。  それは、自分がギルに憎まれるだろう恐怖よりもずっと大きい。  あの男が来るのなら、俺に失敗は許されない。  ほんの少しも、ギルに助けを求めるようなそぶりを見せてはダメだ。  俺は喉元に刃を当てられているような感覚に、小さく息を呑む。  ガチャリ、と鍵の開く音と共に、重いはずの扉は勢いよく開かれた。 「ゼスッ! 無事か!?」  部屋を見まわしたギルが、一瞬後に、高い位置に吊り下げられている俺に気づく。  くっそお前、なんでそんなすぐ上に気づくんだよ……っ。  俺は悲痛に見開かれたギルの視線に耐えきれず、思わずぎゅっと目を閉じた。  途端、目に溜まっていた涙がポロリと落ちる。  思わず薄目を開けて落としてしまった涙の行方を追うと、それはギルの手の中に吸い込まれるように落ちた。

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