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事の次第

 目が覚めた時、俺はギルの腕の中にいた。  ……いや正確には、抱き枕にされていた。  見慣れない部屋には窓がなく、時計もなかった。  部屋には俺の横たわる大きなベッドと、サイドチェストに応接セットとライティングデスクとクローゼットと本棚。  隅の衝立は着替え用か?  宿というよりも部屋の一室という感じだ。 「んん……? ここ、どこだ……?」  俺の言葉に、俺を背後から抱き締めていたらしいギルが声を上げる。 「ゼス、目が覚めたか! 良かった……っ」   俺はギルの腕の中でグルンとひっくり返されて、ギルと顔を合わせる。 「どこか痛む所はないか? 喉が乾いただろう? 腹は減っていないか?」  ちょっ、落ち着け過保護!  俺が体の調子を確かめるように手足を動かすと、ギルは邪魔にならないよう手を離してくれる。  ……でも、俺を軽く囲むようにしたままなんだな、その腕。 「ええと、痛いとこは……ねーかな。ん、手足の指も全部動くし、首も肩も大丈夫そうだ」 「そうか、良かった……」  俺の言葉に、ギルがホッと表情を緩めた。  あー……、やっぱギルは可愛いな。 「ああ、喉が渇いただろう、ずっと眠っていたからな」  言いながら、ギルがそそくさとサイドチェストの上に置かれていた水差しで水を汲んで差し出してくる。  俺は礼を告げて水を口にする。  一口飲み込むと体が渇きを自覚したのか、そのままゴクゴクと飲み干してしまった。 「もう一杯飲むか?」 「ああ、もらうよ」  俺がおかわりの水を受け取ると、ギルは応接セットのテーブルにあった紙袋からあれこれと卓上に並べる。 「腹は減っていないか? ゼスの好きそうな物と、消化の良さそうなものを買ってきている」 「おお、うまそうだな。どれでも食って良いのか?」 「もちろんだ。こちらに移動するか? ベッドに運ぶか?」 「そっち行くから、そこ広げといてくれていいよ」 「ゆっくり立ち上がってくれ、ゆっくりだぞ……」  俺にスリッパを差し出したギルがハラハラと俺の手を取り、腰まで支えて甲斐甲斐しく俺をソファーに連れて行ってくれる。  おいおい、過保護過ぎだろ。  ソファーに座って食べ始めた俺の横で、ギルが状況説明を始める。  俺が倒れたのは昨日で、あれから丸一日が経っているらしい。  今は夜だが寝るほどの時間ではないとのことで「じゃーなんで俺を抱いて寝てたんだよ」と尋ねると、ギルは恥ずかしそうにもじもじしながら、俺に触れていたかったからだと白状した。  ……まあ別に、服はちゃんと着てるみたいだしいーけどさ……。  孤児院を盾に俺を脅したヨヒトという銀髪の男は、視察隊の一員としてこの町に派遣されていたが、どうやら以前からこの町の警備隊長とは癒着していたらしい。  ヨヒトが雇ったごろつき共も一斉に捕まっているらしいが、その中にはあの見慣れない屋台を用意していた奴らも混ざっているようだ。  現在ヨヒトは身柄を王都の騎士団へと引き渡されたそうだが、調べればまだ他の地域の視察の際にも癒着があったのではと睨まれているとの事だ。  アイツどう見ても今まで相当非人道的なことしてきたツラしてたからな……。  叩きゃまだまだ埃が出んだろーな。  俺が警備隊長に連れ去られた事は、チビ達の中でお姉さんのラエルがギルを探して伝えてくれたらしい。とはいえ残り二人が七歳でラエルは八歳ってだけだけどな。  ラエルは俺が言わなくてもちゃんと俺の気持ちをわかってくれたんだな……。  そう思うと胸がジンとした。  ラエルのおかげで初動が早かったギルは、チビ二人を置いて孤児院を出てきたラエルに監視がついている事に気づいて、真っ先に孤児院に向かってくれたそうだ。  孤児院周辺に潜んでいたごろつきをあらかた捕らえたところで、俺が連行された件を耳にした酒場のマスターが、暇そうで腕の立つ酒場の常連客を引き連れて合流してくれたので、孤児院はマスターに任せてきたらしい。  さすがマスター、いざって時に頼りになるなぁ。  多分いつもの四人組も駆り出されたんだろーな。  アイツら普段はバカな事ばっか言ってっけど、あれで腕は良いからなぁ。  警備隊舎に走ったギルは、真っ先にアーヴァンという視察隊のリーダーに声をかけた。  ギルがヨヒトの気を引いている間に、ヨヒトが担当している不正書類の調査をもう一度行うようにと。 「なんでギルはそのヨヒトって奴が黒だって気付いたんだ?」  あの男はそういう隙って見せそうにねーのにな。 「ゼスのおかげだ……」  ギルはそう言って甘く微笑むと俺の頬を撫でた。  んん? 俺なんかしたっけ? 「前にゼスが『一体誰が、俺とあのおっさんが出来てるなんて言ったんだよ……』とぼやいていただろう?」  言ったっけ?  俺自身覚えてない程度のぼやきなんだが? 「それを聞いて気が付いた。町での聞き取りではゼスが隊長に執着されているという話は聞いたが、ゼスを『警備隊長の愛人』だと言ったのはヨヒトだった。それに、子どもを探るといいと助言したのもヨヒトだ。おそらくアイツはゼスの素性や性格を知った上で、ゼスに俺を警戒させようとしたんだろう」  まー確かに、ギルがもしギルフォードじゃなければ、子ども達を調べられた時点で距離を置きそうではある。  つってもギルはその時点で俺に大金積んでたからなぁ……。  けどまあ、それも結局は俺がこの見た目で、ギルがギルフォードだったから、か。 「ヨヒトが読みきれなかったのは、私とゼスが互いを信頼していた事だろうな」  いや、まあそーなんだけどさ『互いを』とかよく堂々と言えるな。  ギルはまあ、確かに俺のことを信頼してくれてんのかもしんねーけどさ。  俺って……そんなギルのこと信じてるよーに見えるか?  つーか、俺はお前に隠してる事ばっかりなんだが?  俺が半眼でギルを胡散臭そうに眺めると、ギルは優しそうな顔を悲しげに変えた。 「そんな胡乱な顔をしないでくれ。愛している、セレスティア」  突然の告白に、俺は食いかけのパンを誤飲しかけて咽せる。 「ばっ、……なっ…………はぁ……!?」  あまりに唐突すぎて、なんて返せば良いのか分からない。  そんな俺にギルは甲斐甲斐しく水を差し出して背を撫でてくれる。  いつから……? 一体いつから、こいつは俺の正体に気づいてたんだ!?  咳を続ける俺の視線で聞きたい事に気づいたのか、ギルが答えた。 「気付いたのはつい昨日の事だ。ゼスは私に避けろと言っただろう? 私の体格ならば、ゼスを受け止めることは容易だったのに。それで、おかしいと思った」  ……まさか……、まさか、あの、猿轡で何言ってんだかわかんねーような叫びから、俺の正体がバレるとは……。

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