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第5話 お誘い

それからすぐに、クロード様からお手紙が届いた。 母は、名前を確認して顔を歪める。 「ユーフォルビア、王家からお手紙よ。 全く…、婚約破棄しておいて手紙を寄こすなんてどんな神経をしているんだか…」 私は苦笑しながら受け取った。 「従兄のクロード様は、王太子様とは全然違いますよ。 王族らしくないですし」 私がそう言うと、彼女は目を丸くした。 変なこと言ったかな、と思い首を傾げる。 「貴方が王族を庇うなんて…、と思ってね。 この方が好きなの?」 核心を突かれるような質問をされ、「違います!!!」と慌てて答えたが、あまりに必死過ぎて嘘だとバレただろう。 お母様は困ったように微笑む。 「貴方には、小さいころに無理矢理王太子様との婚約を結び付けてしまったから、私もパパもとても申し訳なく思っているの。 貴方は誰でも好きな人と結ばれる権利があるわ」 母の言葉は優しく響き、心を温かくした。 けれど 「クロード様はだめです。 確かに私は、彼を好ましく思っているかもしれません。 けれど、彼は凄くモテるんです。 言い寄ってくるご令嬢は星の数でしょうから、私なんて相手にされません。 万が一、上手くいったとて、彼にまた婚約破棄されるようなことがあれば…、私は正気ではいられません」 王宮で妃としてのお勉強に励む間、私を嫌う王太子は全く相手をしてくれなかった。 そんな時に、一緒に休憩中にお茶を飲んだり昼食を取ってくれたのはクロード様だった。 彼がそんなこと(婚約破棄)をするような人間ではないと、長い付き合いの中で分かってはいるけれど、だからこそ裏切られた時が怖い。 「そう…」と、母上は悲しそうに俯く。 が、表情を切り替えて明るく言った。 「こないだの夜会に参加したおかげで、釣書が沢山届いているの。 私も一生懸命吟味するから、貴方も前向きに色々見てみなさい」 「はい。ありがとうございます、お母様」 そう言ってほほ笑み合う。 「私は、自室でクロード様にお返事を書いてきますね」と言ってリビングを後にした。 こないだ急に帰ってしまった非礼を詫びなくてはいけないし!と、また言い訳をしながら丁寧にシーリングを外す。 シンプルな便せんに、思っていたよりも繊細な字が並んでいる。 夜会での私を褒める文に続き、どこかでお茶か食事でもしないか?というお誘いがあった。 人目を気にしないのならどこか外食でも良いし、人目を気にするならクロード様の客人として王宮に来てもいい、それが嫌でお邪魔でなければ我が家にも赴くと。 個人的なお誘いに胸が高鳴るのを自覚する。 「行きたいです」と応えたい自分を律する。 先日の非礼を詫びる文に始まり、同じように彼を褒め、お気持ちは嬉しいがまだそういう気分には慣れないと断る文章を書いた。 これでいいんだ、と自分に言い聞かせる。 じゃないと、すぐにでも書き直し、OKの返事を送ってしまいそうだ。 従者に手紙を渡す。 渡してしまってから、封筒の色を深緑にしたことに気付いた。 無意識に彼の色を選んでしまったようだ。 「あ…」と固まる私に、「書き直されますか?」と従者が訊く。 ここで引き留めてしまったら、私は違う内容で手紙を書いてしまうかもしれない。 少々後悔しつつも「いえ、大丈夫です。よろしくお願いします」とそのまま渡した。 そのあともずっと、あの封筒が気になってしまって、少々食が細くなってしまった。 それからまたすぐに、彼からの手紙が届く。 今度の封筒は薄桃色で、明らかに私の瞳の色を表わしていた。 赤面しながら封を切ると、『確かに書面では断られたが、私の色を使ってくれたということは、期待していいのだろうか?』と書いてあった。 だめか?とか、期待していいか?とか…、クロード様の訊き方はとてもズルい。 簡単には否定できない言い方をする。 そしてまた、『どこでもいいから、2人きりで会いたい』と書いてあった。 一度会うだけ… うん、一度会うだけなら。 きっとバチは当たらないし、思わせぶりにもならない、うん… 膨れ上がる自分の気持ちを無理矢理フタで押し込めて(正直、まったく押し込めていない)、私は日にちと場所を記した。 『〇日の14時、△△というパーラーでお待ちいたします』 彼の予定は聞かない。 来れないならすっぱりと諦める。 そう決めて、私は白い封筒に薄桃色の蝋を垂らした。

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