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第7話 好きになりたくないのに

「か、考えさせて…、ください」 本来、格上の貴族どころか王族からの婚約の申し出があれば、こちらから断るわけにはいかない。 それでも…、すぐに返事をすることが難しかった。 私の顔が強張っているからか、クロード様はふっと息を吐いて笑った。 「ユーフォルビアが断れない立場であることを分かっている。 でも、状況が状況だから…、断ってもらっても構わない。 二度と王宮の土を踏みたくないだろうから」 そう困ったように笑うクロード様に、私は緩く首を横に振った。 「私のような傷物に、クロード様のような高貴なお方が求婚してくださるなんて、身に余る幸福です。 し、しかし…、私はもう、婚約破棄を言い渡されたくないのです。 申し訳ございません…」 私が頭を下げると、「よしてくれ」とクロード様が頭を上げるように言う。 「頭を下げなきゃいけないのは、こちらの方だから。 王族じゃなければ、勝手な理由での婚約破棄は罰せられても仕方がないくらいのタブーなんだから」 そう言われて私は頷いた。 「さあ、ケーキでも食べようか。 ここにはユーフォルビアの好物のイチジクのたるとがあるんだ」 王太子は私の好みなんてちっとも興味がなかった。 未だに何が好きで嫌いかなんて、ご存知ではないだろう。 でも、クロード様は、私の好物も好きな色も曲も全部覚えている。 私が話の中でポロリとこぼした言葉や覚えていて、「欲しがっていただろう?」とあれやこれやを次に会う時までに持ってきたりすることもあった。 改めて、クロード様は素敵な方だ。 私なんかでは到底釣り合わないくらいに。 暗い気持ちになるのを、目の前のクロード様とイチジクタルトで払拭する。 とりあえず今は、この時間を楽しもう。 そして家に帰ってうんと悩もう。 それから、ケーキとコーヒーを胃に納めると街中を見て回ることになった。 街を見て回るなんて久々で、私はことあるごとに足を止めて商品や本などを見てしまう。 そのたびにクロード様が「買おうか?」と訊いてくるので断るのが大変だった。 どうしても気になった本や文具は、自分で買ったけれど「せめて俺が持つ」と言って、クロード様が荷物を持って隣を歩く。 王族に荷物持ちをさせるなんてとんでもないけれど、どれほど断っても、自分で持とうと紙袋を引っ張っても、持たせてくれなかった。 帰りも、「うちの馬車に乗っていけばいい。送らせてくれ」と言われ、恐縮しつつも家紋の入っていないお忍びの王家の馬車に乗せられ、クロード様が自宅まで送ってくれた。 紙袋を持ち、家に帰るとリーリアが迎えてくれる。 「お兄様、お帰りなさい。 クロード様が送ってくださったんですか?」 と、目を輝かせて言う。 弟なりに私の恋路というか未来を心配しているのだろう。 クロード様(王太子の従兄)と会うことは家族には周知させていた。 「ただいま。そうだよ」 特に隠す必要もないのでそう言う。 今日のプロポーズ(?)を思い出して動揺しそうになる。 でもあれは…、私を好きだとかそういう話ではなく、お互いの利害の一致的な奴だ。 私自身が自惚れないことは勿論、家族にも変に期待をさせないようにしないと。 「お兄様は、クロード様のこと好きですか?」 直球で訊かれて、早速返事に窮する。 「ど、どうでしょう。 私は婚約破棄されたばかりでまだそういう気持ちには…」 私がそう言うと、リーリアは「あ…、ごめんなさい。そうですよね」としゅんとする。 私は苦笑しつつ「いいえ。気にかけてくれてありがとう」と頭を撫でた。 婚約や結婚というのは、私一人の問題ではない。 レイネル家全体の話なのだ。 だから、自分の気持ちやプライドなんかではなく、もっと広い視野で考えないと… でも、今日はなんだか頭がごちゃごちゃして考えられそうにない。 自室で好きな本を読んでリフレッシュしよう、と決めて自室に引っ込んだ。 それからまたすぐにクロード様からお誘いの手紙が来た。 行きたい自分とこれ以上彼を好きになりたくない自分で揺れる。 葛藤しつつも毎回”行く”と返事をして、何度もデートを重ねた。

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