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第10話 手遅れです
離れが出来るまでの間、私は再び王宮に赴いて王家に入るための勉強をすることになった。
クロード様の心遣いで、王太子はもちろん、ともに勉強中のダリア嬢とは会わないように手を回していただいた。
おかげさまで、一週間経つがその二人とは顔を合わせていない。
しかし、講師は共通の様で…、妃として勉強していたころの仲の良い先生方がたまにダリア嬢の愚痴を漏らしていた。
どうやら本当に遅れているらしい。
そればかりでなく、マナーを教えてくれる講師を王太子にお願いして辞めさせたと言う。
その講師は、とても厳しい女性だったけれど、きちんと覚えれば褒めてくれるし、宮中のマナーの知識に置いて彼女の右に出る者はいないくらい優秀だった。
私を含め宮中が畏敬の念を抱いていたので、まさかダリア嬢の我儘で辞めさせられるとは思っていなかった。
残っている講師は皆温厚で、私が何をしても褒めてくれる。
有難いけれど…、やりがいに欠ける。
そもそも、王家に嫁ぐならピリッとした空気、失敗を許されない状況で厳しくやらないと。
なんだかなぁ…、と思いつつ休憩時間にお茶を啜る。
と、いつもの如くクロード様が覗きに来た。
「浮かない顔をしているね。
何か勉強で不安な事でも?」
そう訊かれて私は緩く首を横に振る。
「いえ、勉強の内容というよりは先生方が…」
「何!?
講師に何かされたのか!?
ユーフォルビアは美しいから…、セクハラか!?」
とんでもない方向に勘違いされて、私は慌てて「違います!!」と言った。
「優しすぎて不安なんです。
私は、幼少期から基礎を学んできましたけれど…、あの教え方でダリア嬢が今から妃教育を終えられるとはとても…」
私が言葉を濁すと、クロード様は「ああ。皆そう思ってる」と頷いた。
「だが、俺がそんなことを指摘しようものなら『じゃあユーフォルビアを差し出せ』と言われてしまう」
と困ったように微笑む。
「確かにそれは困りますね」と呟いてしまってから、これじゃクロード様と離れたくないと言っているみたいでは!?と気づき、慌てて「もう二度と王太子様のお顔は見たくなかったので」と付け加える。
クロード様は一瞬ポカンとした顔をしたけれどすぐに困り顔になって「そうだね。そうはさせないから安心して」と言って笑った。
いまひとつクロード様の真意が読めず、首を傾げる。
「あ、でも、クロード様も私が不要になったら遠慮せずに言ってください。
ちゃんと…、受け入れますから」
本当は嫌だ。
二度婚約破棄をされることよりも、うっかり恋に落ちてしまった相手から婚約破棄されることの方がキツイ。
でも、もし、従弟がしてしまったことへの責任感から私に婚約を申し込んでいるのならば、それは気にしないでほしい。
だって彼は凄く素敵で良い人だから幸せにならないと。
「ユーフォルビア。
俺のプロポーズの言葉を忘れたのかい?
俺は君じゃなきゃ嫌だし、君じゃなきゃ結婚なんてしなかった。
まあ、君は俺の事なんかなんとも思ってないだろうけど」
一瞬何を言われたのか分からなくて首を傾げたが、”君じゃなきゃ””君は俺の事を何とも思っていない”という言葉が腑に落ちた。
つまり、クロード様に興味のない私が良いということか。
ご令嬢たちからのアプローチにうんざりしていると言っていたし、自分を好きにならず、アプローチを断る為の盾が欲しいと。
…、クロード様手遅れです。
私はもう…
でも、他の誰かとクロード様が結婚して番になって…、なんて想像したら居ても立っても居られない。
絶対に気持ちを悟られないまま上手くやらなきゃ。
幸運なことに表情をコントロールすることには長けている。
けれど…、この結婚って幸せなの…?
そんな気持ちに蓋をして私は笑顔を作る。
「変なこと言ってすみませんでした。
私は私のやるべきことをちゃんと遂行します」
すると、クロード様がおもむろに席を立ち、お茶を飲むために座っている私の頭に手を置く。
数回撫でたかと思えば、「あまり無理をしないように」と言って旋毛 にキスを落とした。
見えなかったけど絶対そう。
ちゅって!!リップ音がした!!
ポカンとしていると「じゃあ、この後の授業も頑張れ」ともう一度頭を撫でてから部屋を出て行った。
私は、彼が部屋を出て行った後も数秒固まり、ようやく脳が追いついた頃に机に突っ伏した。
無理!!!
気持ちを悟られないようにとか、絶対無理!!!!
そうして気持ちを落ち着けていると、次の授業の講師が来た。
私を見るなり「体調がお悪いですか?本日は帰られますか?」と生ぬるいことをおっしゃるので「いいえ。弛 んでおりますのでビシバシとお願いします」と頭を下げた。
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