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第13話 別れ

レストルームに行く道中、ご令嬢3人組が話しているところを通りがかった。 自分の名前が聞こえてきてうっかり耳を澄ませてしまう。 「ダリア様が言っていましたわ。 私への当てつけで王宮に入ったと」 「幼少期からの積み重ねがあるからって、最近勉強を始めたばかりのダリア様に見せるつけてくるそうですよ」 「まあ!見目は美しいですけれど、お心は汚いのですね」 散々な言われ様。 王宮では授業をともに受けるどころか顔も合わせていないのに、見せつけるなんてこと出来るわけがない。 まあでも、私が悪く言われる分には構わない。 心が汚いと言われても何とも思わないんだから… くだらないと思い、立ち去ろうとした。 「でも、見かけだけの心が醜いΩに陶酔したクロード様も哀れですわね」 「確かにそうね」 と頷きあう声が聞こえて、思わず声を掛けそうになった。 が、そんなことをしても逆効果だと思い、口を噤む。 彼は私の外見に陶酔なんてしていない。 あくまでも利害関係が一致したからだ。 哀れなんかじゃない。 悔しくて唇を噛みしめる。 レストルームの鏡に映った私の顔は怒りに歪んで、とても醜かった。 深呼吸をして笑顔を作る。 本当に心を醜くしてはいけない。 もっと頑張って…、当てつけで結婚したΩ…、いや、それに陶酔した哀れなクロード様だと思われないように力を付けなくては、と決心した。 それからはがむしゃらに勉強して、決して見た目だけの妻だと思われないように努力した。 私が努力すればするほど、ダリア様の立場は追い詰められているようだけれど、私にとってはクロード様の評価の方がよっぽど大事だ。 そして、離れに家が出来て、私は実家を出ることになった。 王家の馬車がやってくる。 大した荷物もないけれど、18年過ごした家には無くてはならないものが結構ある。 迎えに来たクロード様が大きなカバンを馬車に乗せてくれた。 見送りに玄関を出てきた私の両親に彼が頭を下げる。 「ろくに挨拶もせず申し訳ない。 それと…、身内がご子息に失礼な真似をして心から申し訳なく思っている。 絶対に…、ユーフォルビアを幸せにします」 彼がそう言うと、母上が「頼みます」と笑った。 「初めは相当傷心していましたけれど、今はかなり生活に張り合いがあるみたいです。 きっと貴方のおかげなのでしょう。 親バカですが可愛い息子です。 幸せにしてあげてください」 母上の言葉にクロード様は強く頷く。 ちょっと泣きそうになってしまった。 「ユーフォお兄様」 呼び止める声が聞こえて振り返ると、リーリアが泣きそうな顔で立っていた。 「寂しいです…、お兄様」 そう言ってグスグスと鼻を啜るリーリアを抱きしめる。 「王宮からここはそう遠くはないですからいつでも会えるよ」 そう宥めても、彼はいやいやと首を振る。 「リーリア殿」とクロード様が声をかける。 泣いていたリーリアは、そちらに目を向けた。 「其方は成人したら王騎士になりたいと言っていたね。 そしたら存分にユーフォルビアを守ると良い。 それまでは、其方の大事な兄上を俺に守らせてくれ」 そう言うと、リーリアは涙を拭って力強く頷いた。 驚いた。 クロード様は子供の宥め方までご存じなのか… 「リーリア、これを」 私はこの日まで刺繍していたハンカチを彼に渡した。 「ユキヤナギ(ユーフォルビア)の花を刺繍してみたんだ。 あまりそうは見えないけれどね。 これを私だと思って大事にしてくれたら嬉しいな。 じゃあね」 今度こそ彼に別れを告げ、家族に手を振って馬車に乗り込んだ。 リーリアの手には私が渡したハンカチが握られていた。 彼らの姿が見えなくなるといよいよ実家を出たという実感が湧く。 寂しくなったらいつでも帰れると思うと心強い。 「俺もあのハンカチが欲しいな」とクロード様がぼやく。 「え!?い、いや、あれは子供だましみたいなもので…、私にお刺繍の才はないみたいですよ」 とやんわり断ろうとしたが、 「ユーフォルビアが作ったということが重要なんだ。 針も糸も布も一級品をそろえるし、報酬も払うから…、作ってくれないだろうか」 と食い下がられた。 素人以下の針子に、一級品の素材なんて分不相応すぎる。 「一級品も報酬もいりません。 ただし…、どれだけ不格好でも返品不可ですからね」 私がそう言うと、彼はたちまち笑顔になる。 「作ってくれるのかい!? この俺が君が作ったものを返すわけがない。 欲しいものがあったら何でも言ってくれ」 とクロード様はたちまち上機嫌になった。 まあ、喜んでるしいいかと諦めて、私たちは馬車に揺られていた。

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