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第15話 昔の話(クロード)

初めて彼が王宮へ来た日を覚えている。 まだ10歳にも満たない彼は、天真爛漫で陛下や王太子にはもちろん、俺やメイド・家来たちにも笑いかけてくれた。 こんな天使のような子がこの世にいるのだと、そんな彼を陛下の息子だからと易々と手に入れられる従弟が憎いと、そう思った。 そんな可愛らしい彼からどんどん表情が抜け落ち、どんな時も落ち着いて椅子にじっと座っているようになり、どんどん変わっていく。 それでも、王太子も皇后も彼に冷たく当たる。 そんな彼が放っておけなくて、俺はことあるごとに彼に話しかけた。 表情はなかったけれど、話しかければ返事を返すし、学園での出来事も話してくれるようになった。 けれど決して皇后や王太子、王家の悪口は言わなかった。 そんな健気な子にどうしてこんな仕打ちが出来るのか… ずっとそんな風に考えていたから、王太子との婚約破棄は俺からしたら僥倖だったのかもしれない。 俺は、王家として育てられ、教育を受けはしたものの、王宮全体からは、王位継承権のない空気のような存在として扱われていた。 俺がどう扱われていたかなんて、賢いユーフォルビアは察していたはずなのに、皆にするのと同じように接してくれた。 いまでこそ、騎士としても活躍しているし、婚約者もいなかったため、ご令嬢は群がって来ていたが、彼だけはずっと変わらない。 本当は自分に王宮や王族なんか嫌いで、さっさと騎士団にでも入って王宮を出たかった。 その辺の貴族の養子にでも行きたかった。 だが、ユーフォルビアを王宮に置いて自分だけ逃げるなんて嫌だった。 そこまで考えて、ちらりと視線を最愛に向ける。 ユーフォルビアの寝顔を見るのは初めてだ。 どんなに疲れていても、王宮や外出先では決して居眠りすらしない。 全く隙を作らない。 そんな完璧な王家の婚約者の姿を今でも崩さない彼。 でももう、この家では俺の前では、完璧な自分を演じず肩肘張らずに生きてほしい。 そう願ってはいるけれど、簡単に崩せるものではないだろう。 だから、何か異変があったらすぐに気づいて先まわりするようにしようと思っていた。 王太子の婚約者だったころはどれほど褒めても、完璧な笑顔を張り付けて「ありがとうございます」と言うだけだった。 しかし、最近は距離を詰めれば顔を赤らめて困惑したり、褒めればお礼をしつつも狼狽えるようになってきていて、だんだんと表情が戻って来たかもしれないと喜んでいた。 すやすやと寝息を立てる彼の額を撫でる。 肌荒れひとつない白い肌。 枝毛の一つもない真っ白な手触りの良い髪。 そんな繊細な彼が寝落ちるまで疲れていたことに気付かないなんて… ーーーーーーーーー ゆっくりと意識が浮上してきて目を開ける。 なんだか幸せな夢を見ていたような… 真っ先に目に映った天井に見覚えがなくて跳ね起きた。 あ、そうだ、新居に越して来たんだ。 それで…、私は寝落ちして… 早くクロード様のところに行かなくては、とベッドを飛び降りようとしたところで右手にぬくもりを感じた。 手が繋がれている。 そのまま手の先をたどると、椅子に座ったままベッドに突っ伏して寝ているクロード様に気付いた。 え、え?? どういう状況? と困惑しつつも、こんな体勢で寝ていたら体に良くないと思い、クロード様の肩を反対の手で揺さぶった。 「クロード様、起きてください! 体痛めちゃいますよ!!」 何回か揺すると「うーん」とクロード様が唸り声をあげ、目を開いた。 「あ、お、おはようございます。 すみません、私…、寝落ちてしまったみたいで」 そう謝るが、彼は若干寝ぼけているみたいで、目が合うとポヤポヤしたままほほ笑んだ。 「ユーフォルビア」 「え、ええ、はい。ユーフォルビアです」 「可愛い、俺の…」 そう言って彼はつないだ手を口元に持っていき、私の手の甲に唇を落とした。 「えっ、ええ!?ちょ…」 と私が焦っていると、彼はそのまま、また寝ようとしたので手を引っ張る。 「クロード様、せめてベッドで寝てください! 私が退きますから、ほら、ベッドの上に!」 絶対にビクともしないであろう彼の腕を引っ張る。 すると、彼は迷惑そうに眉間にしわを寄せつつも、ベッドに上ってくれた。 よし、次は私がベッドから降りれば…、と這い出ようとしたところで彼の腕に捕まった。 彼は私を抱きしめたまま離さず、寝息を立てている。 こ、これ、ヤバイんですけど!? 今まで、旋毛やら頬やら手やらに口づけをされたり、肩や手に触れられたり、ちょっとした接触ならあったけれども、こんな風に抱きしめられたのは初めてだ。 彼の逞しい胸板や腕、体温を直に感じて頬が熱くなる。 それに、αの…、クロード様の香りをもろに感じて頭が沸騰しそう。 じゅわっとなんとなく後ろが濡れた気がした。 やばい、発情しちゃう…

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