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第17話 王宮の噂
侯爵という爵位を頂き、領地まで頂いたため、私も侯爵夫人として日々忙しくしていた。
王妃になる為に積んでいた教養が活かされて、こればかりは王家に感謝しなくてはならない。
どの程度の爵位を頂けるか分からなかったとき、クロード様は「俺は陛下たちに嫌われているから、大したものはもらえないと思う。もし、辺境に飛ばされたら…、その時は…、どうしよう」と頭を抱えていた。
でも、王家もこんなに腕の立つ高貴な男をそう簡単に手放せないのだろう。
王宮に近い我が家の周りが領地となり、王都を守りつつ領地を統治せよとのことだった。
クロード様は辺境に飛ばされることを回避できたし、私もこの素晴らしいお屋敷を手放さなくて良くなったことにホッとした。
しかし、王都にいると王宮やその周辺の噂が次々流れてくる。
夫人となったからには、他のご婦人方との交流も必須だし。
ダリア嬢のこと、王太子のこと、そして私たち夫婦の事。
クロード様が王家から離れたことで、私が強欲で厚かましいΩであるという噂は途絶えたようだった。
おかげ様で、クロード様への悪評も消えた。
まあ、Ωのために王家を捨てた盲人のような扱いはされているようだけれど…
そして問題はダリア嬢だ。
もう誰も手を付けられる講師が残っていないらしい。
彼女に厳しく指導すれば辞めさせられるし、優しく指導すれば彼女の身には何もつかず、師として無能だと辞めさせられる。
陛下も王妃も心労がたたり、ぐっと老け込まれたようだ、と。
「それで出ているのが、ダリア様を側室にして新たに妃候補を立てようという案ですわ」
口元をセンスで隠し、そう言い放つ伯爵夫人。
私は今、このご夫人が開催したお茶会に参加している。
この茶会は、王都付近に領地を持つ貴族の夫人が集っているようで、それほど規模が大きくない。
だからこそ、堂々と王家の噂話が出来る。
そのご夫人が私を見る。
「えっと…、それは大変ですね」
側近を置くなんて、この国の史上では聞いたことがない。
前例がないことをするということは、とても難しいだろう。多分。
「ドラコニア侯爵夫人は他人ごとではありませんことよ」
そう言われて私は「へ?」と首を傾げる。
王太子に側近がいようと愛人がいようと、私にはもう関係がないはずだ。
「分かりませんこと?」と夫人は目を剥く。
「今からまた別の誰かを教育するなんて、時間も講師も足りないですわよ。
そもそも、講師なんてろくに残っておりませんわ。
ですから、ドラコニア侯爵夫人を妃の座に戻すほかないですのよ。
それに、貴方を妃に戻したいという派閥までありますの」
それを聞いて今度は私が目を剥く。
「そ、そんなの困ります…。
私にも生活がありますし、その…、ク、お、夫を愛していますから…」
クロード様を”夫”なんて呼ぶのは初めてで少し言い淀んでしまった。
「あら、まぁ」と、伯爵夫人をはじめ、周りのご夫人たちがニヤニヤする。
勿論、扇子で顔の半分を隠しているが、目元で十分笑っているのが伝わる。
「ドラコニア侯爵様は王家を捨てるくらい、ご夫人を寵愛しているとお聞きしていましたが…、相思相愛でしたのね」
なんて言われて私は「逆です!」と慌てて訂正した。
「その、私がもともとお慕いしていたんです。
そこで私が婚約破棄されたのを身内の責任として求婚したので…、その、夫は私に陶酔しているようなことはないのです」
「いいじゃないですの、相思相愛で。
ねえ、皆さま」
伯爵夫人がそう言うと、皆がそれぞれ頷く。
でも、クロード様の名誉のためにもそんな噂は消しておかなきゃいけない。
「違うんです、本当に!
私の片思いなんです!!
彼が陶酔しているなんてことはないんです」
私が必死にそう言うと、夫人は「青いですわね」と笑った。
「まあ、お2人の関係がどうであろうと構いませんけれども、大好きな旦那様の元から離れ離れにならないよう、お気を付けなさることです。
そこここで変な動きが沢山起きているようですから」
彼女の言葉に深く頷く。
「ご助言、痛み入ります」
私の婚約破棄から、王宮では色んなことが起きている。
用心しておいたほうが良いだろう。
私はもう、今の生活を手放したくはない。
噂の種が自分たちだと苦しいけれど、こうしていろんな情報が得られることは大変有り難い。
頂いた情報を整理しながら、馬車に揺られる。
クロード様にも報告すべきだよなぁ…
でももし、陛下が、私を妃にと命を出したら、彼は私を差し出すのだろうか…
絶対に無いとは言い切れない。
この国にいる限り、王命は絶対だ。
熱っぽさを感じて額を窓にくっつける。
そういえば、ヒートが近かった気がする。
王宮にいたころは1人で何とかしていた。
王太子が、男のΩになんて触れたくもないと言ったから。
クロード様は、触れてくれるのだろうか?
そんな考えを打ち消す。
きっとお願いすればシてくれるだろう。
彼は優しいから。
でも、優しい人だからこそ、嫌なことを押し付けたくない。
結局、誰かと結婚したところで、ヒートを1人で過ごすことは避けられない運命なのかもしれない。
やっと生きてみたいと思ったところで運命は残酷なのだ…
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