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第21話 ネックガード

ずっと、ふわふわと心地が良かった気がする。 まだ起きたくないけれど…、そろそろ起きなきゃ。 そんな使命感で目を開くとまた見慣れぬ天井があった。 「起きたか?」 すぐ隣から声が聞こえて慌ててそちらに目をやる。 半裸のクロード様が、ベッドに横たわったままこちらを見ていた。 「あ、えっ、え!? おはよう…、ございます」 一瞬、何が起きているか分からず反射で挨拶してしまった。 彼はクスクス笑うと「おはよう」と返す。 「体は平気かい? ヒートはもう落ち着いた?」 そう問われて、自分がヒートだったことを思い出す。 なんとなく、香りを辿って彼の部屋に突撃してしまったことは覚えているけれど、正直それ以降は曖昧だ。 「も、申し訳ございません!! その…、私、ご迷惑をお掛けしましたよね?」 クロード様は驚いた顔をした後「覚えてない?」と問う。 「えっと、ほとんど覚えていません。 お部屋の前まで行ったことは覚えていますが… やはり、ご迷惑をお掛けしましたよね? だって……、!!?」 クロード様は半裸だし、と続けようとしたところで自分が全裸であることに気付き、慌てて布団を頭まで被った。 絶対、間違いなく、ヤった。 ヒートが明けてすぐなのにやけにスッキリしているし、全身が筋肉痛のようになっていて、後ろに若干の異物感がある。 クロード様から手を出すわけがないんだから、私が誘ったに決まっている。 どうしよう… シモの世話をさせてしまった!!! 「申し訳ございません!! 私が誘ったんですよね!? ヒートトラップってやつで。 本当にすみませんっ!!」 「あんなに可愛いく誘って、甘えてくれたのに覚えていないだなんて残念。 他の誰でもない、俺を頼ってくれて嬉しかった。 まあ、俺も我慢が効かなくて三日三晩抱いちゃったけど」 そう言われて仰天する。 三日三晩!? 通りで体に違和感があるわけだ。 「ユーフォルビア、顔を見せて。 久々にシラフの君が見たい」 布団越しに頭を撫でられ、私は恐る恐る顔だけを布団から出す。 優しく微笑む彼と目が合った。 「妖艶な君もとても素敵だったけれど、無垢で清廉な君も可愛らしい」 そう褒められて顔に熱が集まる。 私は、他のΩに比べて地味だし、男にしては頼りない。 どっちつかずの見た目だと思う。 それでも…、嘘でも、私に見た目がクロード様の好みなら嬉しい。 それで少しだけホクホクしていると、彼がおもむろに革製の何かを取り出した。 「これを」 受け取りながらも、これが何なのか見当もつかずに「これは?」と訊く。 「ネックガードだよ。 俺が万が一にでも許可なく君の首を噛まないように」 今回はなんとか理性で押しとどまったけれどいつどうなることか…、なんてクロード様がベラベラと喋っているがすべて耳を通り抜けていく。 クロード様は、私の項を噛みたくない。 つまり、番になりたくないのだ。 冷水を浴びせられたように、心が急速に冷えていく。 私はにっこりと笑って「ありがとうございます」とそれを受け取った。 そして、手早くベッドわきの台に用意されていた肌着を身に着ける。 このままクロード様と過ごすために用意されたからか、かなり薄着だ。 急にテキパキ動き始めた私を驚いてみていたクロード様がハッとして「そんな薄着で廊下に出てはだめだ」と制止したが、振り返らずに廊下に出た。 「ユーフォルビア!!」と呼ぶ声を聞こえないふりする。 駆け足で自分の部屋まで戻り、ドアを閉めて念のため鍵を掛ける。 まだ心がぐちゃぐちゃで、クロード様やメイドたちに顔を合わせられない。 ずるずると床にへたり込む。 右手にはネックガードが握られている。 皮の中に金属の板が入っているようで、αといえど人間の歯は貫通しないようだ。 正面に当たる場所に緑色に深く輝く石がはめられている。 デマントイドガーネット… いつかの高価な石だ。 番になりたくないのに、こんな高級品は下さるなんて、一体どういうおつもりなんだろうか… 私は涙で視界を滲ませながらもそれを自分の首につける。 貴方が番になりたくないというのなら一生首からは外しませんからね。 と、誰に言うでもなく心でクロード様に宣言してやる。 …なんて言ったところで彼は「それなら安心だ」と笑うのだろう。 悲しい。

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