6 / 11

1-6

 週末、光輝は言われるがまま執司の家へ引っ越した。  その日は夕食もとらず、与えられた元執司の部屋のベッドでうとうとし始めてしまう。 (このあと……配信やんねーとだけど……)  今日の作業はパソコンや機材、ひととおりの衣服と教科書などを運ぶだけで、執司が車を出してくれたこともありほとんど体力を使うことはなかった。  連日深夜までの配信が響いたのだろう。 (申請の返事まだこねーし)  ごろんとうつ伏せに寝転ぶと、自分の寝具とは違う匂いがする。  ベッドシーツや枕は新品に交換されているけれど、きっと執司のものが沁みついているのだろう。 (なんか……落ち着く……)  チャンネルの収益停止を受けてから今日まで、気の休まることはなかった。  後ろ向きになりそうになる気持ちをごまかしつつ過ごしたけれど、常に不安を抱えていた。 (また執司に助けられてんなぁ)  まぶたが重くなってくると、光輝は小学生の頃の夢を見た。  当時、夜勤のある職場で働いていた執司の母に頼まれて、土曜の夕方から光輝の家で執司を預かることが多かった。 「光輝、始まるよ。早く起きて」  光輝の部屋で一緒に寝ていた執司は日曜の朝になると先に起きた。ふたりで楽しみにしているヒーロー番組のため、光輝を揺さぶり起こす。 「ん……んん~」 「ご飯食べてから、ちゃんと見るんだろ。起きて!」  ふだんは寝起きの悪い光輝だが、はっと目を覚ましてベッドの上で起き上がる。ふたりして部屋の扉を開けると、階下からふわりと優しい朝食の匂いがただよってきた。階段を駆け下りて、ダイニングへと向かう。  朝食を急いで食べたあと、ふたりでわくわくしながら見たヒーロー番組の話題はいつもしばらく続く。 「かっこいいよなぁ~、俺も悪いやつやっつけてみてー!」  興奮の治まらない光輝はリビングでくつろぎながら、パンチやキックの真似をする。 「光輝ならできるんじゃない?」  執司はカーペットへ座って、にこにこと光輝を見つめる。 「そっかぁ? そうかなぁ?」  褒められたようで嬉しくなった光輝は、自分ならどんなヒーローになって活躍するか、その場で思いついた設定を興奮して話し出す。 「いつもは会社で働いてて、悪いやつが来た! ってなったら変身して出動すんだぜ」 「えーそれだと、さっき見たテレビと一緒じゃん」  笑いながら執司は的確なツッコミを入れてくる。 「じゃ、いつもはアイスクリーム屋さんとか!」  苦し紛れに自分の好きな食べ物から、設定をひねり出す。執司はまだ違うと言ってくる。 「いいいつもは猫カフェの店長やってて、悪い奴が出たって聞いたら変身してすぐに駆け付ける、スーツに猫耳ついてるヒーローってのは!」 「かわいい! 猫いいよ、光輝にぴったりだ!」  拍手されて調子に乗った光輝は、落書き用紙をひっぱりだしてカラーペンでイメージ画を殴り描いていく。 「あ……あんまうまく描けねーけど、変身したらこう!」 「じゃあベルトはこう」  執司も光輝の描いたヒーローイメージ図の上に、パーツを足していく。 「耳もっとかっこよくなんねーかな?」 「うーん」  それからというもの、光輝が変身するならどんなヒーローかを想像することが楽しくなった。日曜朝に限らず、放課後光輝の家に執司がいるときは、オリジナルヒーローごっこに夢中になった。 「やっぱ最初に考えたやつが一番かっこいいよな。!色かえたらふたりで一緒にやれるじゃん」  うなずきあって思い出しながら、最初に考えた猫耳ヒーローをもう一度描いていく。 「………ろ、夕食だ」  執司は何色が似合うかと考えていると、遠くの方で大人の男の声がする。  どうして今、大学生になった執司の声がするのだろう。 「起きろ、光輝。夕飯の時間だ」 「ん?執司……」  懐かしい夢を見ていたと理解したものの、光輝は再び眠りに落ちていこうとする。 「おい、寝るな。起きろ」  執司は遠慮なく肩をつかみ、揺さぶってくる。 「んんっ……、眠いからさぁ……夕飯いいや」  今度は顔を間近に寄せて、大きな声をあげられた。 「生活をきちんとしろ。寝るのは食事と風呂のあとだ、わかったな」 「は……はぃ……」  あまりの近さに、思わず顔が熱くなる。おかげで眠気はすっかりさめてしまった。  とまどいながら返事をすると、光輝は手首をつかまれ、ベッドから立ちあがらされる。引っ越しを手伝ってくれていたときとは、執司の様子が違う。

ともだちにシェアしよう!