7 / 11
1-7
「……どした、急に?」
表情を動かさず、執司は続ける。
「ここに住むからには生活態度を改めてもらう」
「え」
配信は夜中までするし、そのあと残った作業をすることもある。朝は寝坊するだろうけれど、執司の生活に迷惑はかけないようにやるつもりだった。
「言っただろう。お前の生活を整えるためだ」
「んなの、放っといてくれよ!」
手を振り払おうとしたけれど、手首をつかむ力が思いのほか強く、抵抗できない。
(まじかこいつ……こんな力強くなってんの……?)
自分を心配してくれているのはわかるし、世話になる身というのも自覚しているつもりだ。
けれど、大学生になって再会したこの1年と少しの間に見た、静かで口数の少ない執司とは雰囲気が違っていて、心配になる。
「下、行くぞ」
執司に腕を引かれるまま、与えられた二階の部屋を出てダイニングキッチンへおりると、テーブルにメニューがずらりと並んでいる。
「すげー! うまそう!」
自分の食事はコンビニへ出かけて何か買い、済ませる予定だった。けれどそれも面倒だったので、さっきは『寝る』と言っただけだった。
腹の虫が思わず鳴く、体は正直だ。
「これ、もしかして俺の分もあるのか?」
「当たり前だ。ろくな食事をしていないのは知ってる。だから食え」
栄養バランスまで考えて作られたであろう、色鮮やかで温かな料理たちに自然と吸い寄せられて、光輝は席についてしまう。
執司は確か、今年の4月からひとり暮らしを始めたはずだが、いつの間に料理の腕を磨いたのだろう。
(ひとり暮らしして2年目になるけど、全然料理してねーや)
ほぼ使われていない自室のコンロは、油汚れなどいっさいなく、ほこりをかぶっていることを思い出す。
テーブルの向こう側に執司が座り、光輝の方を見てくる。先ほどの厳しい表情ではないけれど、笑っていないし考えが読み取りづらかった。
「いただきます!」
大きくあいさつして光輝が料理を味わい始めると、執司も食べ進め始めた。中には光輝の苦手な食材を使ったメニューもあった。
けれど光輝の分としてよそわれているため、残すわけにはいかない気がした。そして仕方なく口にする。
「うま! え、俺ほうれんそうってちょっと苦手なんだけど、これうまい、食べれる!」
「そうか」
視線を外した執司はなんとなく嬉しそうな雰囲気をしている。料理を褒められると嬉しいらしい。
「いつからこんなに料理うまくなったんだ?」
「中学の頃から始めて、少しずつできるようになった」
ちょうど光輝の家で執司を預からなくなった頃だ。
「すっげ、この卵焼きの味大好き!」
「なら明日の弁当にも入れてやるな」
「え、弁当……?」
次々と箸を進めていた手を止める。
「俺の分のついでだ。ふたり分作ろうと、大した違いはない」
光輝が料理を褒めたことで、執司は気分がよくなったのだろうか。
今度はしょうが焼きをつつきながら、光輝は執司の顔色をうかがう。
今までは執司も学食で昼食をとっていたはずだ。
「めんどくね? 今までしてなかったじゃん」
「今まではな。けど今は必要になったから、作るよ」
それは光輝が自宅へ住むようになったから、と言っているようにも聞こえる。
「メシなんか、俺適当に食べるよ?今日は初めての夜だから、作ってくれたんだよな?」
「それがダメだって言っただろう。食事は栄養のある物を俺と食べる。いいな?」
再び厳しい表情になった執司に釘をさされ、光輝はおとなしくうなずいた。
生活を管理される、ということが本格的なようで改めて驚いたけれど、あたたかい食事が食べられるならいいかもしれないと、簡単にほだされてしまった。
ともだちにシェアしよう!

