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「失礼しまーす」
光輝が借りている部屋よりも少し狭い、洋室だ。もとは父親の書斎だったらしい。パソコンデスクとベッドが並び、壁際にはコンパクトなタンスと本棚が並んでいて整頓されている。
机の上に積み上げられた本の背表紙を眺め、目的の教科書を探す。
(書きかけのレポートメモとか、ねーかな?ちょっと参考に……)
さすがにレポートの下書きなどは見つからなかったが、教科書は重なった本の中間に見つかった。
「借りて元どおりにしときゃ、わかんねーよな?」
なるべく積み重なった状態を崩さないように、そっと教科書を引き抜こうとする。だが、上部に重なった本は間に何か挟まっており、ぐらぐらとバランスが悪い。
「あっ、やべ!」
積みあがった本を半分ほど床へ崩れ落としてしまい、慌てて拾い上げようとした。
するとめあての教科書の隙間から、細いプラスチックらしきものがはみ出した。
「えっ……なんで執司がこんなもん……」
教科書からはみ出たのは、オレンジ色が基調のキャラクターがプリントされた、アクリルスタンドだった。
「ほんのちょっとだけ作ったやつなのに、まじか」
見間違えるはずもない、光輝がV活動で使っている猫耳ヒーロー『ミカン ねこまる』の全身イラストを使ったグッズである。
レポートに欠かせない資料に挟んであることからして、日常的に使っているようだ。
「あれが俺だって、やっぱり知ってんのか?」
Vtuberのモデルを依頼するとき、恥を忍んで小学生の頃に描いたヒーローのデザインを提出した。執司と一緒に考えて遊んだ、あのキャラ絵だ。
執司が家に来なくなり遊ぶ機会がなくなっても、そのときの絵を捨てられなかった。さらには執司の許可なく、光輝の分身にまでしてしまった。
「てか……執司、覚えてねーよな?」
もしかして執司に気づいてもらえたら。
一緒にいて楽しかった時間をなくしたくないと、ほんの少しだけ願いをこめていた。
「気づいてくれてたら……嬉しいけど……」
崩してしまった本を机の上へ重ね直し、教科書と挟んであったキャラアクスタを手に自室へ戻る。
キーボードの隣へ教科書を置き、見慣れたキャラクターのグッズを手に取って、眺めながら考えた。
(アクスタ持ってるからって、これが俺だってばれてるわけじゃねーよな)
知っているかと聞いたとき、執司は答えなかった。具体的にV名をあげて尋ねたわけではないので、尋ねたとはいいきれない。
それに、執司の口からVTuberが好きだとか、誰かのファンだか聞いたわけもない。
「それか、誰かにもらったんかな?」
帰ってきたらファンかどうかから探りを入れてみよう、そう考えに区切りをつけてレポートの続きに取り掛かった。
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