10 / 11
2-3
翌朝、寝坊せずに起きた光輝は朝食の際に、執司の部屋へ勝手に入ったことを謝った。
「そういうことなら仕方ないな」
叱られるかと思っていたけれど、意外とあっさり許してくれた。それならと、光輝はさっそく探りを入れていく。
「なぁ、教科書にアクスタ挟んであったんだけど、あのV好きなの?」
テーブルの向かいに座った執司は食事の手を止めて、光輝の方をまっすぐ見る。
「そうだ、好きだよ」
瞳をとらえて言ってくるので、まるで光輝に言われた気がし、落ち着かなくなってしまう。
「そ、そっか! 俺も見てるんだ、面白いよな」
「登録者ひと桁のときから見てる。推しが育っていくのは嬉しいな」
一見趣味もなさそうな執司の口から、『推し』という言葉が出たのは意外だった。そして、長いあいだ自分を応援し続けていてくれたと知り、光輝は嬉しくてたまらない。
思わずにやけそうになる口元へ、力を入れて押しとどめる。
しかし執司は光輝がその演者だとは気づいてはいないようだ。
(俺かもって疑ってたら、きっと聞いてくるよな?)
だが、VTuberのファンの中には、正体を知りたくない者も多い。それにVのキャラはキャラとして生きており、中の人がいるという話はしないのがマナーととらえる者もいる。
(いやいや待て、ならねこまるが俺だってばれたら執司はがっかりするかも?)
だとすると、執司にばれることなく配信するには、執司のバイトがない日の夜は難しい。毎日配信をして収益停止解除後に備えたいけれど。
(壁1枚向こうにいるんじゃ、聞こえるよな。どうしよ、シフト聞いて予定組むか?)
「あ、えっと、執司って夜バイトある日いつ?」
やや首をかしげたように見えたけれど、テーブルの端に置いたスマホを取り、シフトを確認してくれている。
「今日はない、明日明後日はある。だけどバイトのない夜は1階で仕事するから、気にするな」
「そっか、了解。え、お前家でも仕事してんの?」
「パソコン使ってちょっとな。お前が寝るまで下にいるから、好きにしろ」
ひとり暮らしを維持するには金がかかる。それは光輝も理解しているけれど、執司は実家なので家賃はかからないはずだ。食費もろもろは自分でまかなっているのだろうか。
「寝るとき、声かけようか?」
「俺もキリのいいところまで作業するから、気にしなくていい」
思いがけず、配信しても支障のない状況が整ってしまった。
「光輝が寝るまであがらないから、心配するな」
「お、おう……」
不思議な念を押され、逆にその間は階下へおりてくるなと言われたようにも感じた。
ともだちにシェアしよう!

