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 中2になったある放課後、光輝は教室でひとり学級日誌を記入しつつ、イチゴオレのパックジュースをひと口飲む。  校舎の三階だが、窓を開け放っているからか、運動場で部活をする学生たちの声が反響してここまで届く。  光輝もこのあと部活へ行くけれど、日直の仕事を理由に遅刻する連絡をしてあった。 (この時間、ちょーっとだけ優越感)  学生たちがいっせいに部活に励むなか、その隙間でひと息つくことはちょっとしたぜいたくで、光輝は気に入っている。  中学2年になっても、執司は誰とも付き合わなかった。  誰かが執司に振られたという噂は何度か流れ、興味がないと断るなんて、とグチを言い合う女子たちの姿を見たこともあった。 (結構キツイ断り方すんのな)  高嶺の花な先輩女子からの告白も断ったらしく、『よほどの歳上好き』とか『実は遠くに恋人』がいるとか、根拠のない妄想を広められていたこともあった。  対して光輝はというと、いいかもと思う女子がいても、たいていすでに彼氏のいるケースばかりで、思い続けることすら許されない状況だった。  だからといって彼氏から奪おうという気概もないし、そこまで好きでもなかったと納得してあきらめていた。  光輝は執司と自分の大きな違いにため息をつく。  もう少しゆっくり書いてやろうかと手を止めると、教室の入口で声がした。 「光輝」  執司だ。中2になりさらに顔を合わすことが減っていて、返事はしたものの何を話せばいいか迷ってしまう。  すると執司は遠慮なく教室へ入ってきて、光輝が座る机の隣に立った。 「部活は?」 「日直の仕事終わってからな」 「それ、休み時間に終わらせられないのか」 「ゆっくり書きてーの。いーだろ、これくらい」  すると、机に置いた飲みかけのイチゴオレのパックを執司にとられる。 「ひと口もらっていい?」 「え? ああ、いい、けど」  返事をし終える前にストローをくわえられた。半透明のストローの中を、ピンク色の液体が執司の口へ吸い上げられていくさまを、つい見入ってしまう。 「あま」 「それがうまいんだろ、やなら飲むなよ」 「早く部活に行け」 「わかったって」  執司は礼を言ってパックを机へ戻すと、教室から出ていった。  執司の姿を見送ったあと、視線は自然とイチゴオレにいく。まだ中身は残っているけれど、なぜか口をつけるのをためらってしまう。 (こんなの部活でも普通にやってんじゃん)  部活中にドリンクの回し飲みをしたり、帰りに食べ合いをしたり、ということは日常的にやっている。にもかかわらず、執司が口をつけたストローを前にしてなぜか緊張してしまった。 (前はやってただろ、何緊張してんだよ)  確かに執司とも、小さい頃は飲み物の交換などもためらいなくしていた。  光輝は自分に言い聞かせ、覚悟を決めてひと口飲む。わずかにジュースを口に含んだだけで、すぐに離した。 (っだよ、おかしーだろ!)  部員たちとのときとは違う。さらには小学生の頃の執司としたのとも違う。  心臓をつかまれて苦しいような、それでいて浮き上がるような嬉しさがある。 (わけわかんねー!)  おかげで書かなければならない日誌は進まず、この日は部活へ大幅に遅刻してしまった。

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