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「いって……」 「……好きな人がいるのか」  痛みで光輝がうめくと同時に、詰め寄ってきた執司の低い声が静かに響く。 「なこと、言ってねーだろ! いてーよっ」  例え話として流すつもりが真意を見抜かれてしまい、顔が熱くなってくる。  睨むようにまっすぐ見下ろされ、あまりの真剣さに光輝はたじろいでしまう。 「その言い方……、好きな人がいるに決まってる。いつからだ」  手を離させようと肩を動かそうとしてみるけれど、捕らえられてうまくあがらない。 「離せって、手、力強すぎっ!」 「だめだ、光輝に好きな人なんて……。そんなのだめだ」 「お前は恋人作ろうっつってんのに、何で俺は制限されなくちゃいけねーんだよ!」  一瞬傷ついた表情をした執司だけれど、何かに気づいた顔をして、さらに光輝へ迫ってくる。 「……お前の常連視聴者誰かだな、ねこまるのチャンネルの。コメントに優しい言葉かけるもんな」 「っえ、お前っ……なん、で……」  執司は、ミカン ねこまるの演者が光輝だととっくに知っていた。  おまけに配信をこまめにチェックしていて、常連のファンまで把握しているような口ぶりだ。  てっきりばれていないと思っていた光輝は、驚きのあまり抵抗をやめてただ執司の顔を見てしまう。 「あれは……光輝と俺の大事な……」  執司の手にいっそう力が入り切羽詰まった声を絞りだされた。 「しゅ、しゅうじっ、落ち着けって」  枕元にあった光輝のスマホからメール着信音が鳴る。  執司のひるんだ隙に、光輝は両肩に置かれた手をどけてスマホを手にする。相手は誰でもいい、助かったと思っていると、朗報が届いていた。 「や、やった!!」  通知は動画配信サイトからのメールの件名を表示している。  『収益停止解除について』とあり、以前のようにひとり暮らしの部屋で配信を続けられるということだ。 「誰からだ」  低くかすれた声で尋ねられ、メールの内容を簡単に伝える。待ち望んでいた知らせなのに、光輝は喜びきれない。 「じゃあ出ていくのか?」  先ほどとは打って変わって、執司は寂しそうな顔でこちらを見てくる。 (ん? 執司んちにいさせんの、俺の生活習慣整えるためって言ってなかった?)  まるで、ねこまるのチャンネルの収益停止を受けて、家に来いと言ってくれたように聞こえる。 (俺の生活がだらしないって理由は、あとづけか?)  執司と暮らしたおかげで、夜更かしと栄養の偏った食事をとりがちだった光輝だが、すっかり生活は整った。  またひとり暮らしに戻るとすると、この体の軽さは得られないだろう。  執司とのふたり暮らしを手放したくないのは、それよりも一緒にいる嬉しさだった。好きな相手がいつもそばにいて、息遣いを感じられる距離は、家を出てしまったらもう叶わない。  しかし、執司が恋人を作ろうとしている事実を思い出す。 「そうだな、世話してくれてありがと。お前も恋人できるんだし、俺がいなくなった方が家につれてきやすいし、いいだろ」  自分なら告白をして、相手と付き合えるように行動する。  口ではそんなことを言っておきながら、光輝は告白すらせずに執司のもとを去ることを決めた。

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