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第5話

 二階は生活空間になっているらしく、そこにも風呂はあるらしい。なのに、澪は地下一階の実験室に連れて行かれた。 「こっちのほうが、風呂が大きい。風呂というより、温水プールのようなものだな」  実験室の半分以上を占める浴槽は、深さも充分にある。学校にあるプールを連想させる大きさだ。  澪は、浴槽に手を入れた。温めの湯が手に纏わりついた。 (水質は軟水、温度は三十五度前後、混ぜ物なしの水道水か)  八瀬童子である澪は、触れただけで水の性質がわかる。温水プールという表現は間違っていない。 「水より、湯のほうがいいのか?」  人魚には、川で生きる淡水系と海で生きる海水系がいる。いずれも冷たい水を好む。温水を好む人魚は初めて会った。 「冷たいより温かいほうが楽なんだ。その辺りは人の性かもな」  衣服を脱いで全裸になると、泡沫が湯の中に沈んだ。ぽこぽこと水泡が上がる。 (沈んじゃったよ。やっぱり、水の中でも息が続くんだ)  しばらく待っていると、泡沫の手が浮かんできた。何かを掴むような仕草をしている。 「え? まさか、溺れてんじゃないだろうな」  泡沫の両手がバタバタと水を乱暴にかく。 (人魚が溺れるとか、あり得るか? いやでも)  迷いながらも、澪は暴れる手に手を伸ばした。  必死に何かを掴もうとする泡沫の手を握る。その瞬間、湯の中に引きずり込まれた。 「ちょっ……待て」  引っ込めようとした手を強く引かれて、澪は水槽の中に落ちた。 (何だ、この水……さっき触れた時と、違う)  軟水の温水には違いない。水が肌に纏わりついて、肌が熱を増す。心臓が鼓動を早める。体の芯が熱を持って、疼く。股間が硬さを増して、澪は足をすり合わせた。 (そうだ、呼吸が)  うっかり、息苦しいのを忘れた。必死に泳いで、水面に浮かぼうとする。 (ダメだ、息が続かな……)  息を止めるのが限界で、口を開いた。大きな気泡が幾つも浮かんでいく。なのに、苦しくない。 (あれ、息ができる?)  口から空気を吸い込めるわけではないのに、苦しくない。澪は湯の中で自分の手足を眺めた。 (皮膚で息をしているみたいだ。この水に、何か混ざっているな。さっきは感じなかった。泡沫が入ってから……)  後ろから手が伸びてきた。澪の背中に泡沫が抱き付いた。 「面白いだろ」  湯を伝って、声が聞こえる。澪は後ろを振り返った。 「なっ……」  泡沫の足が、尾ひれに変わっている。しかも一本ではない。人間の足にそのまま尾鰭が付いたように、二本ある。 「ツインテールの人魚……お前、希少種か」  二つの尾を持つ人魚は見た目も珍しいが、生態も珍しい。軟水と海水を自在に生き分ける。 「水に俺の媚薬が混ざると、捕食対象も水中で息ができる」  泡沫の口端が妖艶に上がる。 「捕食って。あくまで俺は餌なわけね」  さっきから、股間が熱い。泡沫が触れる部分の皮膚が粟立って、早く欲しいと体が悲鳴を上げる。  泡沫の唇が澪の唇を覆った。するりと入り込んだ舌が、濃密な媚薬を流し込んだ。 (あ、これ、ダメだ)  絡まる媚薬で舌が痺れる。無意識に伸びた手は、泡沫の尻を弄っていた。  泡沫の指先が肌に触れるだけで、快楽が背筋を昇る。いつの間にか、服を脱がされていた。 「ぁ……んっ」  澪は自分から舌を絡めて、股間を押し当てた。 「これだけ濃いと、流石の八瀬童子も狂うか」  耳元で、泡沫の吐息が笑んだ。 (八瀬童子だからだ、馬鹿野郎)  水と親和性の高い半妖だからこそ、過剰に反応する。逃げ場のない状況で全身を侵されたら、抗えない。  朦朧とする意識で、澪は泡沫の胸に吸い付いた。 「ぁん」  感じた声が泡沫から漏れる。体が震える淫靡な様に、澪の体も震えた。熱くそそり立ったモノを泡沫の中に押し込んだ。泡沫の下の口は、澪をするりと迎え入れた。 「……あっ」  今まで感じたことがないような快楽が全身を駆け巡る。奥を突くたび、先から痺れにも似た快感が昇ってくる。また欲しくて、動きを止められない。 (こんなの、善すぎて、頭がおかしくなる。しかもコイツ……)  湯の中で揺蕩う泡沫の髪を撫でる。わずかな光を受けて輝く色素の薄い髪も、端を赤く染めた黒い瞳も、頬だけを上気させた白い肌も。 「何もかも全部、美しい」  泡沫の体を引き寄せて、言葉を流し込むように口付けた。 (全部を俺のものにしたいと思うのは、泡沫の媚薬のせいか)  腰を打ち付けるたびに昇る快感のせいで、射精が止まらない。欲が収まらなくて、泡沫がもっと欲しくなる。 (いっそ、愛してしまいたい)  口に出しそうになった言葉を、ギリギリの理性で飲み込んだ。  水を蹴って揺れる尾から、オーロラのような光が零れ落ちる。浴槽の下に、落ちた光が溜まっていた。 (あれは、鱗……自然に剥がれ落ちるのか)  伸びそうになった澪の手を、泡沫が握った。 「澪……もっと、出して」  首に縋り付いた泡沫が媚びた声で囁いた。その声に誘われるように、澪は泡沫の腹の中に射精した。  澪の足と泡沫の尾が擦れるたび、宝石のような鱗が剥がれ落ちる。 「痛く、ないのか」  水底に沈んでいく光を追った視線が、澪に向いた。 「痛みはない。必要ないから、剥がれる。俺にとっては、ただのゴミだ」  何の感慨もなく、泡沫が吐き捨てた。 「そうか。泡沫が痛くないなら、いいよ」  この美しい体がこれ以上、傷付かないといい。そんなことを頭の隅で思った。 (媚薬の成分とか、下半身の構造とか、もっと観察してぇのにな)  頭の中は、それどころではない。ただ泡沫が欲しくて、それ以上の思考が働かない。 「お前の媚薬は……厄介だ」  泡沫の首筋に噛みつく。 「ふふ……大人しく俺を、犯して、善くなっていろ……ぁっ」  笑うような嬌声を零して、泡沫が澪の頭を抱いた。 (これじゃ、俺が抱かれているみたいじゃないか)  喰われているには違いないが。抱いているのは、澪なのに。そんな些末な不満は、すぐに快楽に流されて、どうでもよくなる。 (流されてやるのは、今だけだからな)  嘘みたいに美しい人魚に抱かれて、澪はその腹の中に己の欲を限界まで吐き出した。

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