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第6話
風呂から上がった澪は、丸一日動けなかった。
(もう出ないくらい搾り取られた。腰が痛ぇし怠い)
性交して、ここまで動けなくなったのは、初めてだ。動けない澪の代わりに、泡沫が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
(俺が抱いたんだよな。あれ……あれ?)
変わらぬ様子で動き回っている泡沫を眺めると、混乱する。
『お前は美味いから、しばらくは囲って喰いたいな』
極めつけにこんなことを言われると、益々わからなくなる。
(このままじゃ、食い潰されて終わるのでは?)
ぞっと怖気が走る。
湯の中で一心不乱に泡沫を抱いていた自分を思い出す。ベッドの枕に突っ伏した。
(めちゃめちゃ気持ち良かったけど、そうじゃないだろ。俺は何しに来たんだ。潜入捜査だろ)
連続失踪事件と関わりがありそうな泡沫について調べるために来たわけだが。
「いなくなった男は、泡沫の餌確定だろ。新たな被害者はいなそう、というか、今は俺が餌だ」
そこまで考えて、思い至った。
「あれ……解決じゃないのか、これ」
十三課には、人魚が捕食していた、で報告できる。命に関わる喰い方ではない。捕食の方法を協議すれば折衷案は見付けられる。
澪はスマホを手繰り寄せた。一先ず、ここまでの経過を班長の須能忍に報告した。
「泡沫との賭けは、終わっていないけどな」
潜入捜査が終われば、澪がこの場所にいる大義名分がなくなる。
「どうするかなぁ。不死の人魚の殺し方、か」
眉唾な方法なら、いくつか知っている。現実的とは言えない。泡沫が探しているのは、そういった方法ではないのだろう。
(何百年と生きている泡沫ですら見付けられない方法を探すなんて、どうやって)
命を屠る方法を探す。医者にとり大事な研究ではある。命を救うためには、殺す方法を知らないといけない。けれど、澪の中で引っ掛かっているのは、多分それではない。
(泡沫は本当に死にたいのか)
澪には、泡沫が本気で死にたがっているようには見えない。
「人に戻りたいとさえ、本当に思っているのか、わからないからな」
殺すのではない、人に戻すと宣言した時、それでいいと泡沫は素直に受け入れた。
「あの偏屈そうな男が否定しなかった。人に戻りたい……訳でもない?」
澪は眉間を指でぐりぐりと押した。考えれば考えるほど、わからなくなる。
(拗らせている奴の本音なんか、わかりようもねぇか)
澪は、ごろんと仰向けになった。
「俺は俺が良いと思う方法を提案していくしかねぇよな」
手に持ったスマホが、バイブを鳴らした。
「忍さんから返信、早い……え?」
書かれた文面を凝視して、澪は固まった。
『澪の命が危険でないなら、潜入調査を続けてくれ。困ったら、連絡してこい』
つまりは泡沫を調べろ、という指示だ。
泡沫の事情を把握しているような、いないような文面だ。忍に言われた台詞が、頭を過った。
『俺の勘が間違っていなければ、澪が適任だ』
あの言葉が今更になって、じわじわと沁みてくる。
「忍さんは最初から、泡沫を救うために俺を送り込んだ、んだろうな」
十三課外の者とはいえ、あの忍が泡沫のような存在を見捨てられるはずがない。
「俺が適任って忍さんが言うなら、俺のやり方でいいってことだ」
少し気持ちが、前向きになった。気怠い体を庇いながら起き上がる。
「乗りかかった舟、気持ち良く降りてやろうじゃねぇの」
まずはベッド周囲の本棚からと決めて、本を取り出す。丁寧に捲ると、腰を据えて読み始めた。
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