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第20話

「んっ……ぁっ」  快楽に耐えるくぐもった声と、舌が絡む水音だけが部屋に響く。  唇を塞いだまま、腰を押し付ける。腹の奥を弄るたび、快感という痺れが背筋を駆け昇った。 (今夜は、媚薬が薄い)  お陰で泡沫の顔がはっきり見える。欲情し、快楽に塗れたこの顔を、覚えていられる。 「泡沫……」  濡れた唇で耳朶を食む。泡沫の首筋が、ピクリと震えた。  耳が弱いと知っているから、媚薬に犯されている時でも、澪は執拗に同じ場所を責める。 「いつもより、感じ易いね」  吐息にさえ体を震わせて、泡沫が顔を逸らした。 「お前が、しつこいから」  顔を隠しても、澪の腕から泡沫は逃げない。胸の奥をぎゅっと掴まれたような気持ちになる。 (今宵はやけに、泡沫が可愛い)  色素の薄い髪、白い肌、上気して火照った朱をさす頬。抱いている時の、いつもの泡沫なのに。 (体を重ねている時は、俺だけの泡沫だ)  こんな泡沫の姿はきっと、絃司は知らない。あの男が餌になっていたら見ているかもしれないが、恐らくそれはない。泡沫を抱いている澪には、わかる。胸の中に優越感が広がる。  澪は、一際強く腰を打ち付けた。 「あぁっ!」  泡沫の腰が浮いて、震える。逃げようとする腰を引き寄せて、更に奥を弄った。 「んっ……まて、はげしっ」  伸びた腕が澪の首に絡まる。抱き付いた泡沫の頭を、ゆっくりと撫でた。 「可愛い、泡沫」  頬に、首に、胸に、口付けを繰り返す。 「今宵は、変だ」  息を切らせて、泡沫が澪を睨んだ。 「何が?」 「いつもと、違う。しつこいし……余計なことを言う」 「まぁ、そうね。仕方ねぇよ。可愛く映るんだ」  泡沫の背中に腕を回して、胸をピタリと密着させる。素肌が触れるだけで、気持ちいい。 「他の男を喰うな。俺だけ喰ってろよ、泡沫。お前が満足するまで、出してやるから」  ひゅっと、泡沫が息を飲んだ。驚愕を灯した瞳が、澪を見上げた。 「それ以上……」 「え……?」  近付けようとした顔を、泡沫の手が思い切り押し返した。 「それ以上を言うなら、お前はいらない! お役御免だ、特殊係に帰れ!」 「賭けが終わってないんだ。帰るわけないだろ。どうしたんだよ、急に」 「終わりでいい。いらない。いいから、もう離れろ」  逃げようとする泡沫の体を掴まえる。 「今夜は俺のために抱かれてくれるんだろ。逃げんな」  泡沫の手が空を切った。  ――パァン  風船が弾けたような乾いた音が部屋に響いた。頬を打たれたのだと、痛みで気が付いた。 「お前に、そんな台詞、言われたくなかった」  澪の体を押し退けて、泡沫がベッドから降りた。 「待てよ、泡沫! そんな台詞って、どれ……?」  裸のまま服を掴んで、泡沫が部屋を出て行った。ベッドの上に取り残された澪は、呆然とした。 「何が、気に入らなかったんだ」  確かに今宵は、いつもなら言わない台詞を連発した。気に障ったのかもしれないが、それにしてもあまりに過剰だ。 「何なんだよ」  訳が分からないから、怒りが込み上げる。それ以上に不安が大きくて、澪は動けなかった。

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