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第21話

 昨晩はモヤモヤしながらも寝たらしい。  朝、目が覚めたらテーブルの上にホットサンドが置いてあった。 「チーズとトマト入り。俺の好きなやつじゃん」  前に美味いと褒めたホットサンドだ。隠し味のソースは秘密だと話していた。あの時の泡沫はちょっと得意げだった。 「素直じゃねぇな」  そう言いながら頬張る自分も素直ではない。なんて思いながら、美味しいホットサンドとコーヒーを味わった。  一階の診察室に降りたら、既に泡沫がいた。 「おはよ。朝飯、どうも」  とりあえず、いつもの通り声を掛けた。澪を一瞥した泡沫が椅子から立ち上がった。 「賭けは忘れていい。帰りたければ、好きにしろ」  言いながら、澪の隣を泡沫がすり抜けた。 「賭けは継続、帰らないって言ったら?」  泡沫が扉の前で立ち止まった。 「……好きにしろ」  扉を開けて出て行きそうになった泡沫の肩を引く。逃げないように、後ろから掴まえた。 「離せ」  澪を退けようと暴れる泡沫を、腕に囲う。 「泡沫を人に戻すまで、俺は帰らないし、逃げねぇよ」  泡沫が動きを止めた。 「そういう、ところだ」 「は? だから、何が……」  力任せに振り返った泡沫の顔を見て、澪は言葉を飲み込んだ。 「そういうところが嫌なんだ。お前はそうじゃないと思っていたのに」  潤み切った瞳から涙が一筋、流れた。  どうして泣いているのか、わからない。泡沫の言葉の意味も解らない。 (泣いている顔まで、綺麗だ)  澪の頭に最初に浮かんだ感想だった。ごくりと、息を飲み込む。 「今日は、外に行ってくる。帰らないなら留守番していろ」  涙を拭いながら、今度こそ泡沫が部屋を出て行った。 「そういうところ……?」  呟いて、澪は困惑した。人に戻すのは、泡沫との賭けだ。泡沫が言う通り、不死の人魚を殺す方法を探す気はない。だから、人に戻すと決めた。泡沫もそれでいいと言っていたはずなのに。  自分の胸に手を当てる。その奥に、大事な答えがある気がするのに、届かない。もどかしく感じながら、澪は泡沫が出て行った扉を呆然と眺めていた。

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