21 / 31
第21話
昨晩はモヤモヤしながらも寝たらしい。
朝、目が覚めたらテーブルの上にホットサンドが置いてあった。
「チーズとトマト入り。俺の好きなやつじゃん」
前に美味いと褒めたホットサンドだ。隠し味のソースは秘密だと話していた。あの時の泡沫はちょっと得意げだった。
「素直じゃねぇな」
そう言いながら頬張る自分も素直ではない。なんて思いながら、美味しいホットサンドとコーヒーを味わった。
一階の診察室に降りたら、既に泡沫がいた。
「おはよ。朝飯、どうも」
とりあえず、いつもの通り声を掛けた。澪を一瞥した泡沫が椅子から立ち上がった。
「賭けは忘れていい。帰りたければ、好きにしろ」
言いながら、澪の隣を泡沫がすり抜けた。
「賭けは継続、帰らないって言ったら?」
泡沫が扉の前で立ち止まった。
「……好きにしろ」
扉を開けて出て行きそうになった泡沫の肩を引く。逃げないように、後ろから掴まえた。
「離せ」
澪を退けようと暴れる泡沫を、腕に囲う。
「泡沫を人に戻すまで、俺は帰らないし、逃げねぇよ」
泡沫が動きを止めた。
「そういう、ところだ」
「は? だから、何が……」
力任せに振り返った泡沫の顔を見て、澪は言葉を飲み込んだ。
「そういうところが嫌なんだ。お前はそうじゃないと思っていたのに」
潤み切った瞳から涙が一筋、流れた。
どうして泣いているのか、わからない。泡沫の言葉の意味も解らない。
(泣いている顔まで、綺麗だ)
澪の頭に最初に浮かんだ感想だった。ごくりと、息を飲み込む。
「今日は、外に行ってくる。帰らないなら留守番していろ」
涙を拭いながら、今度こそ泡沫が部屋を出て行った。
「そういうところ……?」
呟いて、澪は困惑した。人に戻すのは、泡沫との賭けだ。泡沫が言う通り、不死の人魚を殺す方法を探す気はない。だから、人に戻すと決めた。泡沫もそれでいいと言っていたはずなのに。
自分の胸に手を当てる。その奥に、大事な答えがある気がするのに、届かない。もどかしく感じながら、澪は泡沫が出て行った扉を呆然と眺めていた。
ともだちにシェアしよう!

