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第24話

 絃司の話を聞いてから、澪は本格的に日記を探し始めた。  自分が寝泊まりしている部屋と、泡沫の部屋、診察室とその奥の書庫、地下の実験室の書庫までを一通り探したが、やはり見付からない。 「普通の場所には置いておかねぇよな。泡沫が隠しそうな場所って、どこだ」  不意に、診察室の机が浮かんだ。  前に、無理やり口付けた時、泡沫はやけに引き出しを手で押していた。 「あそこか……? いつも泡沫が座っているから、触ったことねぇんだよな」  処置室で桶を消毒しながら、考え込む。 「澪、おやつがあるけど、食べるか?」  泡沫が処置室に顔を出した。 「おやつ?」 「さっき、絃司が置いていった。練りきりだ」  泡沫が、手の中の箱の蓋を開ける。水無月と一緒に、夏らしい涼しげな菓子が並んでいた。 「もう夏越しの祓の季節なんだ。ていうか絃司、また来てたの? 頻繁過ぎない?」  澪がこの家に来たばかりの頃は影も見なかった。 「月に一度の納品の時期は、一週間くらい頻繁に出入りする。今回はお前の浴槽もあるから、来る頻度も高い。今日も隣の温泉室を見に来ていたぞ。忙しいからとすぐに帰ったが」  温泉室を見に来たというより、泡沫の様子を見に来たのだろう。ついでに澪の監視も兼ねている気がする。 「そういう時期ってことね」  泡沫が外出した日、絃司に送られて帰ってきた。しつこく連絡して泡沫の居場所を突き止めたのだろう。その執念には感服する。 (それにしても、温泉室、か)  泡沫は処置室の隣の部屋を温泉室と名付けたようだ。 (俺に温泉治療、本格的に任せてくれる気があるって、思っていいんだよな)    それはそれで、かなり嬉しい。 (俺の独断でできるから十三課より自由度が高いし、好きな湯が作れる。だから楽しいんだ)  泡沫の信頼を得ているのも、それなりに嬉しいとは思うが。 「そういえばさ、俺の薬湯に入ってみたいんだよな。今日、忙しくないなら作ろうか?」  泡沫の目が上向いた。光を帯びた瞳が、迷うように揺れた。 「そう……だな。頼む」  泡沫の喉が上下する。唾を飲み込む仕草が、やけに艶っぽく映った。 「あとさ。もう一週間近く、開いてるけど。平気なの?」  泡沫の首に、するりと触れる。  俺にも食わせろと言って泡沫を抱いた日は、中に出す前に逃げられた。泡沫は食事ができていない。 「あぁ……平気だ」  すぃと、泡沫が目を逸らした。頭に、嫌な予感が過った。 (この前の外出で、男を喰ってきたんじゃ……)  そう思い至った瞬間には、泡沫の腕を掴んでいた。 「なんだ」  泡沫が迷惑そうに顔を歪める。 「お前、この前……」  そこまで出た言葉を、澪は飲み込んだ。 (泡沫が他の男と寝ていたとして、それを咎める権利が俺にあるのか。泡沫にとっては食事だ。俺は泡沫の餌の一人で、賭けのために囲われているだけなのに)  外で男と寝ようが、浮気ですらない。そう思ったら、腕の力が抜けた。 「いや……悪い。何でもない。地下の浴槽に、準備してくるから。おやつ、用意しといてくれよ」 「わかった。煎茶と玉露は?」 「煎茶で」  短く言い捨てて、澪は地下への階段に走った。 「浮気って、何だよ。恋人ですらねぇのに」  自分の言葉に自分で傷付く。こんな関係で、他の男と寝るななんて、どうして言えたのだろう。 (思い上がりどころの話じゃねぇな)  顔が火を噴いて、ジワリと怒りが込み上げる。  泡沫と澪の関係を言い表す言葉がない。それが酷くもどかしかった。

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