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第39話
朝陽が差し込む部屋で、澪はスマホと向き合っていた。
「……もう一回、言ってみろ」
電話の向こうから、特殊係十三課班長、須能忍の声が呻る。見えなくても、眉間に皺が寄っているのが想像できる。
「えっと、ですね。八瀬童子の禁忌術・水結を使いました。泡沫の命が俺と繋がりました」
忍が沈黙した。
「一応、伝えておくと、同意の上だからね。暴力ではないから」
「案じているのは、そうじゃない。お前はそれで、良かったのか?」
忍の声が心配している。
「泡沫は恐らく、希望が叶ったのだろう。最悪の結末を避けられたのなら、任務としては問題ない。だが、澪は大丈夫なのか。自分を犠牲にしたのではないだろうな」
澪は一瞬、呆けた。
(そうだった。忍さんは、そういう人だった)
班長でありながら任務の内容より職員の安否を優先する。どんな時も必ず力になってくれる人だ。
(忍さん自身も不死の身だから、泡沫は他人事じゃなかったんだろうな)
平安の世から令和までを生きる忍には、泡沫の苦労も辛さも自分事のように感じられたことだろう。
「俺もね、したいようにした結果だよ。ミイラ取りがミイラになっちゃったけどさ。まさか仕事で生涯の伴侶に出会うとは思わなかったよ」
電話の向こうで、忍が息を飲んだ。
「……そういうことだったか。ならば、口出しをする気はない」
「うん、ありがとね、忍さん」
「おめでとうと、言うべきだな」
じわり、と胸が熱くなった。忍の言葉が温かい。
「それでさ、忍さんに頼みがあるんだけど、いいかな」
「言うだけ言ってみろ。叶えられることなら、善処する」
「泡沫の診療所、十三課の出先機関って扱いにできないかな。勿論、十三課に貢献するつもりもあるし、泡沫も納得してるから」
特殊係と関わるのを嫌がってた泡沫だが、忍とは少なからず面識がある。澪を通じて繋がりができることを今更、嫌がりはしなかった。
「それなら、こちらとしても有難い話だ。すぐにでも構わないぞ」
「え? 何か軽くない?」
出向機関扱いとなると、様々な手続きもある。さすがに渋られるかと思った。
「泡沫には、以前から十三課に来いと声掛けしていたんだ。長寿の半妖は人の世では生きづらいからな。こういう形で縁ができるのは、互いのためになるだろう。十三課の中でも閉鎖的な治療室に出先機関ができるのは、十三課としても歓迎だ」
「そっか、良かったよ」
「それで、澪は泡沫の元に残るのか」
これから話そうと思っていた話の核心を、先に突かれた。忍は話が早い。
「残って、良いかな。これからも泡沫と生きていきたいんだ」
忍が笑った声が、小さく聞こえた。
「治療室からの無期限出向にしておく。いざとなれば泡沫と二人で戻って来い」
「何から何まで、助かります」
スマホの向こうに、澪は頭を下げた。
「泡沫の件、やはり澪が適任だった。本当に良かったな」
忍の言葉が、澪の胸に沁みた。目頭が、少しだけ熱くなった。
「俺にこの仕事、任せてくれて、ありがとうね、忍さん」
まるで澪には向かない任務だと、最初は思った。今は、他の職員に回されなくて良かったと、心底思う。
窓から差し込む柔らかい朝陽が、目に沁みた。
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