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第6話:あらたふと青葉若葉の日の光③

「……」 曽良は視線を芭蕉に向けると、少し考えた後にこう言った。 「芭蕉が知りたいと言うなら、隠すつもりはないけれど—— 知っても楽しくなるような話じゃない」 「……ごめんね。曽良が話したくないと思ってることを無理に問いただすのは良くないって思うんだけど……。 庄助殿の話を聞いてしまった以上、 何も聞かなかった体を装って曽良と接する自信がないから できたら何があったか話してくれると嬉しいな、とは思う……」 芭蕉が歯切れを悪くしながらも 曽良に過去を語って欲しいことを告げると、曽良は「分かった」と短く答えた。 「俺には確かに妻がいた。 妻と言っても、誰かに認められた訳ではなく 互いを夫婦だと思いながら暮らしていただけだが……」 曽良は幕府お抱えの忍として任務をこなす傍ら、 手が空いている時は他の忍達と交代で 大奥の警護や町への同行など、女達の用心棒の仕事も与えられていた。 大奥の女——将軍の生母や側室たちは めいめいに侍女を付けており、身の回りのことは彼女達に任せていた。 その侍女の中で、曽良と何かと関わることが多かったのが『かさね』という娘だった。 かさねは、江戸の商人の家で生まれ育った町娘だが 両親の希望があり、行儀見習いの一環で大奥の侍女として仕えていた。 侍女といっても、大奥に仕えることができるのは庶民の中でも一部の層に限られ、 そこそこ裕福な家庭の出だったり、容姿や器量に恵まれた娘でなければ 簡単に採用されることのない職種でもあった。 そして侍女になると大奥で良家の者達と接したり世話をすることで 礼儀作法を身に付けることができ、 奉公を終えた後には『大奥で勤めていた』というキャリアがあるだけで嫁ぎ先に困らなくなるという。 さらに運が良ければ、将軍の目に留まり側室にしてもらえることもあったため かさねの両親もまた、彼女が将来良い結婚をできるようにと 侍女として送り出して来たのである。 「かさねは、よく気が付き器量も良かったから、 大奥内でも可愛がられていたようだった。 俺と関わることさえなければ、きっと今も生きて幸せに暮らしていただろう……」 曽良は声を落とすと、その後の出来事を話していった。 大奥の警護をする忍のことを日頃気にかける者はいなかったが、 かさねは曽良の姿を見かけると必ず声を掛けにきた。 今日は侍女の仲間達からお茶の作法を習った、だとか 中庭で育てていた樹木から花が咲いた、だとか 内容は他愛もないようなことばかりだったが 平凡で平和な話題を普段聞くことがなかった曽良は かさねの話を新鮮に感じ、珍しそうな表情で真剣に耳を傾けた。 そんな、他の者とは違った反応を見せる曽良にかさねも興味を持ったらしく 曽良についても色々尋ねてくるようになり、 曽良がかさねに心を許して少しずつ自分の身の上も語るようになると、 どちらともなく惹かれ合うようになっていた。 やがて恋仲になった二人は隠れて逢瀬を繰り返すようになり、 ついにはかさねは大奥での務めを終えて家庭に入りたい、 曽良にも忍の仕事を辞めて実家の商売を手伝って欲しいと望むようになった。 曽良は、これまで人を愛することや愛されることを知らずに育ってきたが かさねの優しさや想いに触れるうちに、 忍としての生き方とは異なる人生を歩んでみたいと願うようになった。 こうして互いの仕事での暇が重なった時を見計らい かさねの両親に会いに行ったのだが、 かさねが良家の商人や武士と将来結婚することを望んでいた彼らは曽良を歓迎しなかった。 忍は、時に人を殺すこともある穢れた仕事だと両親は言い 他所様に顔向け出来ないようなことをしている男を実家に婿入りさせる訳にはいかないと 曽良を強く拒絶した。 必死で両親を説得しようとしたかさねだったが、 あまりにも彼らが耳を貸さない様子を見てある決心をする。 子どもを身籠れば、両親も反対することはできないだろうと考えたかさねは 曽良と何度も身体を重ね、やがて一つの命が腹の中に宿った。 かさねが妊娠したことを知った両親は 苦々しい顔をしながらも、曽良が忍の仕事を辞めて過去を精算し、 商人として生きていくことを約束すれば かさねと夫婦になることを許すと告げた。 こうして曽良は、かさねと新しい人生を歩み これから生まれてくる我が子を守る為に生きようと 忍の仕事を辞めることを組頭に伝えに行った。 しかし組頭は一蹴する。 「忍として生まれた者は、死ぬまで忍だ。 忍には家族も愛も必要ない。 任務の足枷を自ら作るとは、まさかお主がそのような馬鹿な真似をするとは思っていなかった」 組頭はそう言うと曽良を他の者達に捕らえさせた。 そして牢に入れられた曽良の前に、 別のところで捕らえられていたかさねが 両手を縛られた状態で連れて来られた。 「今から、お主がしようとしたことの罪深さを その目でよく見て心に刻むがよい」 組頭はそう言うと、かさねの着物の帯を解き、腹部を露わにさせた。 そして、膨らみ始めていたかさねの腹部に鋭い一撃を加えた。 「ああッ……!?」 かさねは叫び声を上げ、激しく身悶えた。 組頭は再びかさねの腹部を目掛け、再び蹴りを入れた。 かさねはその場にどさりと倒れた。 しかし彼女は、縛られた両手で必死にお腹を守ろうとした。 曽良との間にできた大切な我が子を殺されたくない一心で、 かさねは地面を這いながらその場を逃げ出そうとしたが 組頭は容赦なく、その後も執拗にかさねの腹を狙って暴行を続けた。 かさねが胃液を吐き出し、そして下半身からじわじわと出血してくる様を見て曽良は全身から汗が流れ落ちていったが、 牢の中で繋がれた身では、かさねを助けに行くことは叶わなかった。 「やめて下さい……っ!! 忍を辞めるなんて二度と言わない。 だからかさねと、腹の子の命だけは——」 曽良は必死に叫んだが、組頭はその声を無視すると かさねが悲鳴を上げるたびに彼女の頬を平手打ちした。 「やめて……くれ……。 かさねを……傷付けないでくれ……」 曽良の声だけが、虚しく牢に響き渡る。 ——やがて、かさねが声を出すこともできないほど疲弊しきった頃、 組頭は曽良を閉じ込める牢の鍵を開けてこう告げた。 「この女は、お前に忍を辞めさせようと誑かした。 忍は皆、御上の為に己の命を捧げることを誓った身であるというのに…… この女は日本で最も高い身分の御方に反逆したのだ」 「かさねは——俺はただ、普通の幸せを望んだだけです……」 「曽良。今、この場で決めろ。 このまま私が女の命尽きるまで攻撃を続ける様を見守るか、 お主の手でひと息に殺し、死への引導を渡してやるか」 かさねの命を助ける、という選択肢を与えられなかった曽良。 そのどちらも選ぶことができずに深く項垂れていると、 微かな声でかさねが曽良に告げた。 「お願い……、私を殺して——」 かさねの切なる願いだったが、曽良は初めて愛した女を手にかけることなど到底できないと思った。 だが、曽良が決断を鈍る合間にもかさねのお腹には傷が増えていき、 瀕死の姿を見続けることも耐え難い苦しみだった。 「お腹の子……あなたとの子をこれ以上苦しめたくないの……。 だから首を絞めて殺して欲しい。 この子には傷を付けたくない。 どうせ死ぬのなら、あなたの手で終わらせて——」 かさねが曽良に懇願すると、曽良はとうとう覚悟を決めた。 曽良もまた両手を縛られた状態でふらふらとかさねの元へ近付くと、細い首筋に手を置いた。 だが、そこから動けずにいると 「人を殺すことには慣れているはずだろう?」 と組頭が囁きかけてきた。 「……愛する人を手にかけたことなんてありません。 あなたには——俺の気持ちは分からない」 思わず曽良が言い返すと、組頭は 「——どうやらお主にはもっと罰が必要なようだな」 と呟いた。 これ以上の罰なんてあるものか。 曽良はそう思ったが、悩んでいる間にも下半身から血を流し続けるかさねを見ていられなくなり、 とうとう彼女の首に置いた手に力を込めた。 刀や武器ではなく、素手で人を殺したのは初めてのことだった。 いつも自分に笑みを見せてくれていたかさねが 呼吸を止め、ふっと魂が抜けていく様を眼前で見届けた曽良は 全身から血の気が引いていくのを感じ、そのまま気絶してしまった。 ——次に曽良が意識を取り戻した時、そこにかさねの死体は無く 目の前には徳川幕府将軍・綱吉の姿があった。 「この忍が、任務に背く行為を働いたという話は本当か?」 綱吉は、曽良を後ろで拘束している組頭に向けて問いかけた。 「はい。この者は、忍として最もしてはならない罪を冒しました。 ゆえに相応の罰を与えなければなりません」 「そうか……。 相応の罰と言うと——何が良いものか」 綱吉が迷う素振りを見せると、組頭はこう提案した。 「御上は以前より、みちのくの藩や、そこに集う志士達に不審な動きがあると気にされていましたね。 倒幕の機会を狙う者達がいるようだ、と 私に命じて配下の忍達を各地に潜り込ませていたかと」 「ああ。調査中の藩もあるが、その中には我が幕府を倒す腹づもりの者がいることは確かだ」 「この男を処刑することは簡単ですが、標的を殺害することにかけては配下の中でも一、二を争う実力の持ち主でもあります。 命尽きる時まで御上の為に働き、忠誠を今一度示してもらう方が御上にとっての利は大きいことでしょう」 「……ふむ。確かに」 「どうでしょう?この男をみちのくへ送り込み、 その倒幕派の藩や志士達を抹殺してくる事を 罰の代わりにするというのは——」 「——こうして俺は旅に出てきた訳だ」 曽良が話を終える頃には、すっかり日は沈みきっていた。 芭蕉は長い息を吐き出すと、そっと曽良に目をやった。 灯り一つない闇の中で、曽良が今どんな表情をしているかは分からない。 だが、曽良がどれだけ悲痛な思いでこの旅に出てきたのか、 そして今も苦しみを抱えながら旅の道中にいるであろうことは芭蕉には理解できた。 「すまない。こんな話をされても、芭蕉もなんと返せば良いか分からないだろ?」 曽良が自嘲してみせると、芭蕉は慌てて首を横に振った。 「っ、ううん! そもそも話を聞かせて欲しいと言ったのは僕の方だし—— ただ、あまりにも想像を超えた……胸が痛くなる話を聞いて 何も言葉が出てこないのも事実で……」 「芭蕉まで心を痛めることはない。 これは俺が起こした問題なんだから」 「……問題だなんて……」 曽良が辛い思いをした、という話を聞いて自分も辛い気持ちになった。 けれども曽良本人が感じている痛みはもっと計り知れないもののはずだ。 僕は、こんな時…… 友にどんな言葉をかけてやれるのだろう…… 「——気になったことを聞いてもいいかな」 芭蕉は、曽良を慰める言葉が見つからない一方で ふと湧いて出てきた疑問を曽良にぶつけた。 「大切な妻と子どもを死なせるよう強制されて、 あまつさえ自分も命懸けの旅に出されて…… 忍組頭への恨みは感じなかった? その、僕が曽良の立場だったら…… 僕の力では組頭に反撃することはできないかもしれないけど 旅に出たふりをして、そのまま逃げてしまうんじゃないかなって思うから……」 「……」 曽良はそれを聞いて、考えるように項垂れた。 「ご、ごめん! 悩ませるつもりはなかったんだけど——」 芭蕉が慌てて言うと、曽良は「いや」と顔を上げた。 「……多分、かさねを殺した時—— 『ああ、俺にはこんな生き方しかできない』 と気づいてしまったから……かもしれない」 曽良は土を被せられた志士達の死体を見下ろし、小さく息を吐いた。 「元々、人の命を奪ってきた俺が幸せな人生を歩めるとは思っていなかったし、長生きする目的も無かった。 この旅を命じられた時も、もし道中で命を落とすことがあっても悔いは残らないだろうと思った」 「そんな……。こんなに若く、任務の過程で命を落としたら 悔いが残らないはずがないよ」 「……一番大切だった人をこの手で殺めて失った今、俺には生き続けたい理由が無いんだ。 だから組頭からの命を理由にして、この旅で人生を終わらせようと思った——のかもしれない」 曽良の話ぶりを聞くと、自身から湧き上がる確固たる意志の元旅に出たというよりは 自分の人生への希望を捨て、命じられるままに出てきた様子が感じられた。 自分ならば命令を無視して逃げる——芭蕉はそう言ったものの、 愛する女性が居たことも、人を殺めたこともない人生を歩んできた自分では どうやっても曽良の心を理解し、寄り添うことは困難に思えた。 だが、それでもどうにか曽良を励ましたいと感じた芭蕉は 暗闇の中手探りで曽良の側まで寄ると、彼の手を握り締めた。 「——僕に話してくれてありがとう。 聞いておいた上で、今の曽良の心情を全て分かってあげることができなくてごめん」 「いいよ。分かって欲しいと思って話したことじゃない。 ただ起きたことを伝えただけだから」 「……そうだよね」 芭蕉は俯きながら、どうにかして曽良に生きる希望を持たせてやれないかと考えた。 曽良は、この旅で人生を終わらせるつもりで江戸を出てきたと言った。 一緒に出立したのに、そんな覚悟を持っていただなんて想像すらできなかった自分が恨めしい。 曽良に死んでほしくない。 死ぬことを旅の終わりになんて考えてほしくない。 旅の終わりは、僕と一緒に江戸に戻ってきたときであってほしい—— 「あのさ……おこがましい話かもしれないけど」 芭蕉はおずおずと顔を上げた。 「もし曽良が今生きていることに目的を見出せなくなっていると言うのなら—— 僕と旅することを目的にしてくれないかな?」 「え?」 曽良が目を見開くと、芭蕉はにこっと笑みを浮かべた。 「生きている理由が分からなくなったら、僕と旅するために生きているんだって考えて欲しい。 僕は今まで曽良に命を救ってもらってきたこと、再会できたこと、そして一緒に旅に出られたこと——全部感謝してる。 僕にとっては、曽良は生きていて欲しい存在なんだよ」 「……芭蕉……」 曽良が戸惑いの色を浮かべると、芭蕉は曽良の手を両手で握りしめた。 「その——僕ではかさね殿の代わりにはなれないけれど、 それでも曽良が生きていく糧になれるなら、 僕のことを生きる目的にして欲しいんだ。 これは僕のわがままでしかないけれど…… 曽良が生きていてくれるだけで、僕は嬉しいんだ」 芭蕉がそう言って手を離すと、曽良は握られていた手のひらを見つめた。 温かい—— 曽良は手のひらをぎゅっと握り締めると、唇の端を上げた。 「そう、だな……。 少なくとも、旅の道中で芭蕉を一人にしてしまうのは俺も本意じゃないしな」 ——二人は石段を降り、東照宮から下山すると その日は近くにある旅籠に泊まった。 翌朝からは早速次の目的地に向けて旅立ち、暫く歩いたころ—— 「あっ!見てよ、曽良」 芭蕉はふと足を止め、道端に咲く花を指差した。 「あんなところに綺麗な花が咲いてる」 「撫子だな」 芭蕉がしげしげと花を見つめていると、後からやって来た曽良がそう言った。 「これが撫子?曽良って花に詳しかったの」 「大奥の中庭に色々な花の樹が植えられていてね。 かさねが、それぞれの花の名前を教えてくれたんだ」 「へえ、じゃあこの花も大奥に咲いていたんだ」 「ああ。……かさねが一番好きな花だった」 曽良が寂しげにそう口にしたのを見た芭蕉は、 どうにかして曽良を元気付けてあげられないかと考えた。 「——あ!ねえ、良かったら曽良も一句詠んでみない?」 「俺が?」 曽良は驚いたように目を見開いたが、 芭蕉は言うが早く紙と筆を取り出して曽良に押し付けた。 「ねっ!この綺麗な撫子を見て感じたことを詠んでみるなんてどうだろう?」 「うーん……、俺はあまり風情が分かるような人間じゃないからな……」 曽良は遠慮してみせたが、芭蕉は尚も力強く言った。 「風情が分かるかどうかじゃないよ! 綺麗なものを綺麗だなって愛でる心一つあればいいんだよ。 どうせ旅をするなら——日光の時のように、時には見たくないものだってこれからも見てしまうだろうから—— それ以上に沢山の、美しいものや素晴らしいものを見て回ろうよ」 「……俺は別に……」 「まあ聞いてよ!僕の場合は、だけどさ。 俳句を詠むことを前提に旅をしているからか、 句に詠みたくなるようなものを無意識に目で探してしまうんだ。 だから曽良も、綺麗なものを見た時にそれを自分の言葉に直して紡ぐことをしてみたら、 きっと旅が少しだけ楽しくなると思うんだよ」 芭蕉に説得された曽良は、苦笑いを浮かべながらも筆を手にした。 この撫子の花を見て何を思うか。 明るく色鮮やかで、道端に儚げに咲く姿と偶然出会って、それを見ていると懐かしい思い出が呼び起こされて—— 『かさねとは八重撫子の名成べし』 曽良はそう記して筆を置くと、途端に肩の力が抜けるような思いがした。 何故だろう。 芭蕉にかさねのことを話した時にも感じたが、 かさねを思いながら句を詠んだ途端、 力んでいた身体中の筋肉がふっと緩むような心地がした。 自分の心の内に抱えていた、もやもやとしたものを 文字として外の世界に吐き出したからだろうか。 「……素敵な句だね」 曽良が不思議な感覚に戸惑っていると、 句を覗き込んできた芭蕉が口にした。 「かさね殿のことを想って詠んだ句だよね。 曽良の気持ちが沢山伝わってきて、胸を打たれる句だと思う」 かさねという名は、何重にも花びらをかさねて咲く美しい撫子に喩えるに相応しい。 かさねは俺に人を愛する心を教えてくれた初めての相手だった。 そんなかさねのことを何かに比喩するなら、きっとこの花以外にはあり得ない。 「……ぅ」 曽良は、今自分が詠んだ句と目の前に咲く撫子を見つめているうちに 自然と瞳から涙がこぼれ落ちていった。 「っぐ……、うぅ……!」 これまでの人生で泣いたことがあっただろうか? それも人前で、情けない声まで漏らして—— 曽良は、自分の身体の現象が不思議でならなかったが、 これまで堪えてきた悲しみが堰を切ったように溢れ出し、 信じられないほどの涙が瞳から流れ落ちていくのを止められなかった。 「……っ、芭蕉……」 曽良はひとしきり涙を流した後、 何も言わず側に立っていた芭蕉を見上げた。 「こんな姿を見せてすまなかった」 「謝らないで。僕は曽良が心の内を見せてくれたことが嬉しいんだから」 「……確かに、こんな風に感情を人に曝け出したのは芭蕉が初めてだな……。 でも、お陰で幾分か楽になれたよ」 曽良は顔に残った涙の跡を拭いながら言った。 「ありがとうな、芭蕉」

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