11 / 44

第11話 ポメ太との過去

 ポメ太の名前は、俺が決めた。ポメ太を引き取ってすぐのこと。  俺がヨウって一文字で女の子とよく間違えられて悲しい気持ちになるから、ポメ太にはそんな思いをしてほしくなくて、男の子とすぐ分かる名前にしたかったのだ。 「ポメ太郎?うーん。ちょっとダサい?ポメ太……、ポメ太かわいいな。男の子って名前で分かるし。なあ、お前の名前、ポメ太ってしようと思うんだけど、どう?気に入った?」 「わんっ!わんわんっ!」 「っ!へへ、嬉しそう……! ── よしっ。母さーん!名前決まったよ!ポメ太!ポメ太にする!」  これは、ポメ太が我が家に来たばかりの思い出だ。    小6の時。知り合いの知り合いから話が回ってきたポメラニアンの里親探し。  俺の家から少し離れた場所にあるお家で飼われているポメラニアンが、赤ちゃんをたくさん産んで。  そのお家の人が里親を探していたところで、ご近所さんが「ちょっと遠いんだけど。5丁目にワンコ飼いたいお家を探しているお家があるらしいんだけど、諏訪さん家どう?」という話を母さんとしていたのを、犬をずっと飼いたかった俺が、その話に割り込んだのだ。  父さんと母さんを説得して「見に行かせてください!」と、そのご近所さん伝いにそのお家へお邪魔する事になった。  ご近所さんに連れられてお邪魔したお家は大豪邸で。5丁目は裕福な家庭がでっかい戸建てを建てるところで有名な場所だったらしいけど、俺も、母さんも5丁目に知り合いなんかいなくて、案内された場所に圧倒されるばかりだった。  だから、デカい家だったことは覚えているけど、そこのお家がなんて名前だったかまでは記憶にない。    ポメ太以外に赤ちゃんは4匹。みんな茶色いポメラニアンで、お母さんを見るとお母さんも茶色。  何故かポメ太だけは真っ黒な毛に茶色いまろ眉だったのだ。見た目の色が違うからなのか他の兄弟も、何故かお母さんポメも、ポメ太に心なしか冷たくて。俺は悲しくなって、その光景を一緒になって横で見ていた母さんに、すぐ声をかけた。 「母さん、あの子。あの真っ黒い子がいい。俺、あの子をウチの子にしたい」 「母さんも同意見。連れて帰りましょ。いますぐ」  端っこでシュンとしている小さな黒いポメラニアンを、俺の手で掬い上げた。  今でも覚えてる。あの悲しそうだった瞳が、俺を映した瞬間にパチパチと光輝いて。キラキラした瞳の中に、俺を映してくれたポメ太がめちゃくちゃに可愛かったことを。   「おいで。俺のウチに、一緒に帰ろう?今日からもう、寂しくないよ」と声をかけると「きゅぅん」と鳴きながら俺にすり寄ったポメ太。  そんなポメ太の仕草に俺は、胸が締め付けられたのだ。  そして、その黒ポメのことを心配して陰で見守っていたの子に気付く。  その子も黒髪で。一重だったけど目は大きくて。すごく可愛い子で、あまりの可愛さに一瞬だけ息が詰まった。  初めて人を見て胸を鷲掴みにされた感覚を覚えて、正直戸惑ったけど、ポメ太を貰い受けるために俺はその子の元へ駆け寄って、口を開いた。 「この子は俺が倖せにするから、この子を俺にください」 「お願い。この子を……倖せにしてあげて、ほしい」  その女の子は少し涙を浮かべて。本当にこの子(ポメ太)のことを心配しているのが伝わって。  あまりの存在の儚さに、俺は少し固まって、頬に熱が集まるのを感じた。 「っ!うん!約束する!俺がこの子をいっぱい、倖せにするから!……だから、そんな、泣きそうな顔、しないで……?」 「っ、大丈夫、だよ……!この子をよろしくお願い、します……!」    女の子は、頭を下げてくれたあと、少し涙を浮かべながら微笑んでくれた。  俺はその女の子に、一瞬で心を奪われたけど、その子とはそれ以来会うことはなかったのだった。    ◇      俺が社会人になってひとり暮らしをするようになってから数年、ポメ太はみるみるうちに元気がなくなって。最初は俺がいなくなって寂しいだけかと思っていたら去年、病気が見つかって。  彼は、15歳でその生涯を閉じた。俺たち家族は闘病生活を送ってしんどい思いをしてまで長生きするのは何だか違うと延命を選ばず、彼のありのままの寿命を受け止めた。ポメ太は俺たち家族に看取られて今年、静かに虹の橋を渡ったのだった。  愛しくて、大好きだったポメ太。どうしてもっと傍にいてやらなかったんだろう。ひとり暮らしを始めて、仕事が忙しくて。ポメ太が病気だって聞かされてからも数えるほどしか会いに行かなかった。  言い訳になるけど、実家は会社から電車で1時間はかかる場所にある。俺は、平日は仕事に忙殺されていて、週末くらいしか実家に足を運んでいなかったのだ。  会う度に弱っていくポメ太を見るのがすごく辛くて。でも出来るだけ顔を出すようにはしていたけれど、ポメ太がいなくなってから後悔ばかりが俺を襲った。 「 ── 逢いたいなぁ、ポメ太。おれ……あの子に、もっとなにか、してあげられたんじゃないかって……ぐずっ。まじ、ごめん。ごめんなぁ。ごめん、ポメ太ぁ。おれ、だめな、にいちゃんだった……!もっと、顔だしてあげてれば ── う……っ、うー……!」  同期での飲み会。ポメ太が虹の橋を渡って四十九日を迎えて久し振りに解禁したお酒。  みんなが各々酒を楽しむ中、俺は精神的にかなりヤラれていて。それはもう、ぐでぐでに酔っぱらった。  亡くなった飼い犬のことで涙を流してしんみりしている面倒な奴。みんなが面倒くさがって理由を付けて離れていく中、唯一ひとりだけ。嫌な顔をせず、残って俺の相手をしてくれた人物、それが。   「そんなこと、ないよ。お前は、よくやってる。」    何を隠そう、犬神だったのだ。

ともだちにシェアしよう!