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第12話 犬神の猛攻(2)

   同期会で、ポメ太の事でずっと凹んでいる俺の横で、優しく対応してくれる犬神は、まさにみんなの言う " 王子 " そのものだった。 「そんなこと、ないよ。お前は、よくやってる」 「うぇ?」 「ポメ太は嬉しかったと思うよ。お前が救ってくれて世界が辛いだけじゃなくて、優しさもあるって知れたんだろ?最後は、逢える頻度も少なかったかもしれないけど。それでも時間を見つけてお前は実家に帰って、ポメ太と過ごした。充分だよ。アイツは絶対に喜んでる。『すわ、ありがとう。すわにあえてしあわせ』って言ってたよ?」  瞳に溜まった俺の涙を、そっと犬神の細長い指がなぞって暖かい粒を掬ってくれた。  その仕草はまるでどこかの絵画の様で、一瞬見とれて固まってしまった。  犬神の優しい言葉に、余計涙が出そうになったけど、ぐっと堪えた。   ( 俺も、ポメ太に逢えて倖せだった。ポメ太、俺に出逢ってくれて、ありがとう。いつまでも、泣いてちゃダメだよな。俺もちょっとずつ、前を向いていかなくちゃいけない ) 「っ、ぐずっ。なに、その言い方。ポメ太と、お前……連絡とれんの」 「まあな。俺、ポメ太と繋がってるから」 「なんだよそれー!なんで犬神と繋がってんだよぉ!?俺とだろ?!普通ー!あっ!あとポメ太は絶対『すわ』じゃなくて俺のこと『よう』って呼ぶからー!訂正しろ!」 「ッ!……よ、(よう)に逢えて倖せで ── 羊が好き、だって、いってた」  口を開いた途端にどれだけ酒を飲んでも表情の色を変えなかった犬神の頬が紅潮した。  突然、急に酒が回ってきたのだろうか。  ていうか、あれ?さっき好き、なんてポメ太言ってたっけな???   「?んん?どうした?犬神。なんか、へん」 「っ!な、なんでも、ない……!」  真っ赤になった犬神を見つけて、同期の女子たちが、ワラワラと群がり始めて。  その店は会計を済ませ、俺は二次会に参加する気力もなく、そそくさと家に帰ったのだった。    ◇    懐かしい夢を見た。ポメ太の夢を見たのはどれくらいぶりだろうか。  ゆっくり目を開けると、俺を心配そうに覗き込む犬神の顔が、俺の目の前に飛び込んできた。 「諏訪、大丈夫か……?」 「っ、ごめ。ポメ太の、夢と ── 同期会の時の夢、見てた」 「同期会……?ああ。諏訪がぐでぐでになったやつ……?」 「そうだよ」といいながら寝起きのぼーっとした頭で、目の前にある犬神の首元に顔を埋める。  そうして大きく息を吸うと犬神の匂いが俺の鼻腔いっぱいに広がって、心が満たされるのを感じた。ゆっくり息を吐くと「ッ」と、か細い声が上から聞こえて、俺の身体に巻き付いているモノにぐ、と力が入って思考が停止した。   ( ん?えっと、あれ? )  俺は、犬神にベッドの上で抱きしめられている。ん?なんで? 「 ── ッ!ちょ、た、たんま?!へ?!なに、なんで?!」 「あぶな、暴れるなよ。ひとり用のベッドなんだから、そんなに暴れたら落ちるだろ?」 「い、いやいやいや!なんで?!なんで抱きしめっ?!」  ベッドで取り乱している俺を、掴んで微動だにもしない犬神は「慌てるお前はかわいいけど、ちょっと落ち着け」と言って目元や頬に口唇を落とす。   ( そ、そんなことされたら余計混乱するんですけど……っ! )   「なんでもなにも。お前が(うな)されてて、心配で様子を見てたら泣き始めたから。俺が抱き締めて、一緒に添い寝してただけだけど」 「ええええええ」 「俺が抱き締めたら安心したのか涙は止まったよ?寝ながら『犬神』って呼んでくれて嬉しかった。同期会の時の夢、見てたんだな」 「っ!う、うん」    すると、背中に回っていた犬神の手がするりと移動して、俺の頬を包んだ。  心なしか、顔の距離が近付いている気がする。けど、犬神の視線に目が逸らせない。 「お前は覚えてないかもだけど。あの時言った『羊が好き』って台詞。あれは、ポメ太じゃなくて ── 俺の、本音」 「ッ!」  そう言われて、改めて言葉の意味を認識した。意味が理解できると顔の全部の血流が巡って、自分でも顔が熱いと分かるほど顔面に熱を持つ。  そんな俺を見て、犬神は嬉しそうに口唇に弧を描いて。その後、熱の籠った瞳で俺を見つめて口を開いた。   「顔、真っ赤。かわい……やっと意識してくれた。好き。好きだよ。諏…… ── (よう)。お前が、好きだ」 「いぬ、か、み、っ。……ん、」      ゆっくりと落ちてきた口唇を拒めなくて。    ベッドの中で何度も犬神と口付けを交わしたのだった。

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