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第13話 犬神の猛攻(3)
結局あの後。何度も犬神とシングルベッドで抱き合いながら口唇を重ねてしまった。
耳に指を入れられて、くちゅくちゅと唾液が交わる水音と荒い呼吸と、俺と犬神の甘く漏れ出る声が脳内に直接響く。
もう気持ち良すぎるし、ドキドキするし、このままここで抱かれてしまえよと俺の中の俺の顔したイカつい悪魔が、にょっと現れかけた。
その時。
コンコンコンとノック音が聞こえた後「もうすぐ終業の時間だよ~起きて~」という産業医の先生の声が飛び込んできて、慌ててベッドから飛び出して「今起きました!もうすぐ出ます!」と大声を張り上げて、大慌てで退散したのだった。
産業医からは「発症してしまった場合は、抑制剤を服用しても犬化しやすくなっているから。なるべくストレス、取り分けトリガーになる事象には気を付けて。その原因となるストレスに晒されないことが大事だからね」と言われていて。
会社を出てすぐ、犬神に手を引かれ連れていかれたのは薄暗い路地裏で。壁ドン状態で犬神が俺に向かって口を開いた。
「犬化の原因は分かってるんだ。諏訪にお願いがある。今日から俺と、一緒に過ごしてくれないか。出来れば……俺の部屋で寝泊まり、して、ほしい」
「それって」
「俺のトリガーになってるストレスは、きっと。お前に気持ちを言えなくて、お前に触れられなかったことだから。今から、この週末。諏訪が俺と離れて、しかも俺の知らない誰かと過ごすことを想像しただけで、胸がザワザワする」
「っ。だ、誰とも過ごす予定ないし……!それに俺まだ犬神と俺の気持ち、判断、出来てない、けど」
「セックスしたい訳じゃないって言ったら大嘘だし、本音は諏訪のこと滅茶苦茶にしたいけど。諏訪と一緒に過ごせるだけで、安心するんだ。一週間、絶対、最後までしないって約束するから」
そう言いながら、ふわっと抱き締められて「人助けだと思って、お願い」と至近距離でお願いされれば、NOとは言えなくて。犬神の匂いにクラクラしながら、こくりと頷くと「っ、嬉しい。ありがと……好き」という言葉と共にギュッと抱き締める手に力が入って、胸が、苦しい。
「あと……最後までは、しない、けど。でも、抱き締めたりキスしたり。少し、諏訪の肌は感じたい。それだけは、赦 して……?」
「っ、わ、かった。いい、よ。俺も、犬神とキスしたり触れ合ってるの気持ちいいから。逆に、俺も、してほしい、かも。気持ちハッキリしてないのにクズ発言で、ごめん」
「っ、クズじゃない。俺はそう言ってもらえて嬉しい。ね、キス、して、い?」
「 ── い、いよ……ん、」
酔っ払ってポメ太のことで辛気臭くも、面倒臭くもなってる俺を、嫌な顔しないで優しく相手くれた犬神を夢で思い出して。あの頃から俺を想っていてくれていたという事実。しかも、犬化になる原因が俺への想いを俺へ伝えられなかったことと、俺に触れられなかったことという、いじらしい理由に正直絆されまくっていて。
犬神からキスしたい、と求められて嫌だとは思わなくて寧 ろ俺からも彼に キスしたい と思い始めていた。
「 ── 、は、好き、愛してる……」
「っ、……?、ね、犬神?電話、鳴って、ない?」
「部長、からだ。ちょっと、ごめん。急ぎの要件かも」
離れた口唇に少し寂しさを感じた俺は、相当ヤラれているようだ。さっきまで触れていた犬神の口唇をもっと欲しい、なんて。脳みその中は犬神とキスすることで埋め尽くされている。ただのスケベ野郎すぎて悲しくなった。電話を終えた犬神が、そんな俺の元へ戻ってきた。
「部長、大丈夫、だった?」
「ああ。予想してたとはいえ、ふたり揃って早退したから心配して連絡くれただけだった。あと、仕事のことで変更になったことがいくつかあるって。月曜に諏訪と話聞いてほしいから9時半頃、ミーティングルームで打ち合わせの予定飛ばしたから、カレンダー確認しておいて欲しいって」
「変更?なんだろ」
「あの例の、第3に振る予定だった案件。第2 で引き取っただろ?それのことらしい。まあ。月曜、だな。それより……」
と言いながら、俺の手を引いて。「続きは、家に帰ってからいっぱい、しよ?」と軽く口唇を指でなぞられて。
俺は思わずコクリと頷いてしまったのだった。
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