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第14話 犬神の猛攻(4)
夜ご飯は居酒屋で食べた。
犬神は珍しく饒舌で。でも俺もすごく楽しくて。生ビールで乾杯したあと、適当にツマミを数点頼んで、ウーロンハイを煽る。
" 今日のおすすめ " と書かれたボードを見ながら、次は何を頼もうかなあと考えていると「諏訪、ごめん。触るよ?」と言われて、俺の口の横に犬神の指が触れた。
「へっ、な、に」
「や、米粒。付いてたから」
そう言いながら、その手に取った米粒を自然と自分の口に運んだのだこの男は。やばい。突然の事に心臓がギュッ、ってなった。痛い。
固まってしまった俺に「あ、ごめん。つい」と照れた犬神に更に心臓が潰された。えっ?この子こんなにかわいかったっけ?ええ?
ていうか、俺はだいぶ。酔っぱらってるかも、しれない?
居酒屋を出たその足で、百貨店へ向かった。俺のお泊まりセットと数点の「きっと諏訪に似合うと思う」と犬神が選んでくれたパジャマと私服を購入。
「プレゼントしたいから ── 俺に買わせて」
「えっ!そんな、悪いよ」
「俺が、そうしたいの。お願い。諏訪に、プレゼント、したい」
そう言われて、そこまで言うならと渋々頷いた俺に嬉しそうに微笑む犬神に、これまた酒のせいで胸がぎゅ、っとなった。やっぱり痛かった。
◇
犬神の家の風呂に入って百貨店でプレゼントされたパジャマに袖を通すと、何だかむず痒くて、変な気分だ。
他人の家にお泊りするのなんて、初めてでもないのに。なんだか、ふわふわした気持ちになっている自分に気付いた。
風呂から上がるとリビングに犬神の姿はなくて。
リビングのソファに腰掛けて、今日の事を思い返すと、乙女な俺が顔を覗かせる。朝から、言ってしまえば昨日の昼間から今迄。犬神の愛情を正直めちゃくちゃ感じていて心臓がへこたれていた。
( いや。普段、王子といえど淡泊 なアイツが、こんなに甘重になるなんて想像してないから……っ! )
身体の相性も最高に良くて、口唇を触れ合わせるとじわじわと胸が熱くなる。彼の必死な態度に心臓はうるさくて。
俺のこの気持ちは、気持ちいいことをしたいだけなのでは?という疑問に未だに答えが出ない。でもきっと、犬神から誘われたら、絶対に断れない自信がある。そんな自信持つなバカタレ。どこまでクズなのだ。
でも自分の気持ちを自覚するってどうやって?全然分からない。
好きって、どこからがLOVEの好きなのか、恋愛初心者の俺には理解が出来ないのだ。
ううんと、ソファで唸っていたら、俺とは別の風呂( なんて金持ちなのだ……さすが営業部エース )に入っていたらしい犬神がやってきた。風呂上りは、妖艶さに磨きがかかっている。いや、俺が彼をそういう対象に見てしまっているから、なのもあるのかも。
「諏訪、っ……パジャマ、似合ってる。かわいい。ね、最後までは、絶対しないから一緒に、寝よ?」
「な、んか。その言い方、逆に、エロいわ」
「俺の気持ちが、漏れ出てるからかも…… ── ほんとは、諏訪と気持ちいい事、たくさんしたいけど。諏訪が判断して気持ちが通じるまでは絶対に最後まではしないから。おいで」
犬神に手を取られて、寝室へ向かう。
誘 われるままにベッドの中に入ると、ぎゅ、と抱き締められて。「諏訪の匂い、大好きだけど ── 俺と同じ匂いするのも、俺のモノみたいで、めっちゃいいな。さっきの続き、したい」と言いながら俺の口唇を必死に啄むその仕草に、心臓が悲鳴を上げる。
「明日。土曜で休みだし、家でダラダラするか、出かけるか。起きてから決めよ……?」
「ん……、わかった」
犬神の香りとキスにふわふわして、普通じゃない状況だからか、俺が俺じゃないみたいで。
このまま、また犬神と繋がっても、いいな、なんて働かない脳みそが考え始めたその時。
目の前から優しい寝息が聞こえた。
「え、寝、てる……?」
そういえば、犬神は俺が会社のベッドで爆睡してる間も起きていた。きっと疲れがピークだったんだろう。
すやすやと気持ちよさそうに目の前で眠る犬神に、堪らない気持ちになった。むず痒くて、ふわふわした、そんな気持ち。
その気持ちを持て余して、どうしようも出来なくて、思わず俺は目の前の彼の口唇に、優しく口唇を落とした。
── ん?
俺、あれ。待って。今、普通に。自然にキス、してしまった。
うわ。ちょっと待って。これは。
「これは、ヤバい、やつでは……???」
無意識にした自分の行動に冷や汗が止まらなくて。
俺はその日、眠りにつくまで犬神の綺麗な寝顔と、ひとりにらめっこ大会を開催したのだった。
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