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第15話 休日デート(1)

  「 ── はよ……いま、なんじ……?」 「おはよ。9時過ぎ、だな。今日、どうする?出かける?それとも ── ずっと、こうしてる……?」  目の前には俺を愛しそうに見つめる犬神がいて。そう言いながら俺の髪を優しく梳きながら俺の頬に、目尻に、壊れ物にでも触れるかのように優しく口唇を落とした。  俺は今、犬神の部屋のベッドの中で犬神に抱き締められている。  諏訪の綺麗な顔を前に、ひとりにらめっこ大会を開催していたのだが、すやすや気持ちよさそうに眠っている犬神を前に俺にも睡魔がやって来て、気付けばこの時間だ。目の前のうっとりと俺を見つめる麗しの貴公子に、じわじわ胸に暖かいものを感じた。  付き合った女の子にも感じたことのない初めての感覚に自分でもどうしたらいいのか分からず、自分の気持ちを安定させたくて犬神の首元に顔を埋めて匂いを感じると、心が落ち着いてくる。 ( 外に出かけるのもいいけど、犬神とこうしてまったりしてるのも、いいかも )  目の前にある犬神の肌に、じゃれる様に顔をぐりぐりすると「諏訪」と上から声が聞こえて顔を上げると、ゆっくりと上から口唇が柔らかく落ちる。  ちゅ、ちゅ、と何度か口唇を重ねて、心が満たされていくのを感じた。このままの流れだと、気持ちも確定してないのに朝っぱらから身体を赦してしまいそうになる。でも、犬神とのキスは気持ちがよくて、安心するから……自分から止めたくなかった。  犬神の動きに身を委ねていると「倖せすぎ……」と声が聞こえて。俺がゆっくり目を開けるのと同時に、犬神の口唇が名残惜しそうに離れる。 「諏訪。このままこうしてると、歯止め利かなくなりそうだから外、一緒に出掛けたい」 「ん……そう、だな。俺も、そう、思ってた」 「っ。 ── 煽ってる?」 「そ!そんなつもり、ないよ!じゅ、準備!出掛ける準備、しよ!」  真っ赤になって大慌てで離れた俺に「残念」と言いながらくすくす笑う犬神は、いつものクールな彼じゃなくて。きっとこんな彼は誰も知らない " 俺だけが知ってる犬神 " という事実に、何だか胸の辺りが むずむずして変な感じがした。  ◇    出掛ける、となったけど、さてどこへ行こうか?と準備しながら考えた結果。  休みの日に犬神とふたりでどこかへ遊びに行くことなんて今までなかったことに気付いた。 「そういや。休みの日に出掛けるのって、俺たち、初めて?」 「だな。外で会う約束なんてしたこと、ないかも。あ、 ── だからか。俺、昨日会社出てから、ずっとテンション高かっただろ?諏訪とふたりきりで行動するなんて初めてだったから、嬉しかったんだ。なんだ、そっか。自分でも、なんでこんなにテンション高くなってんだ?って不思議だったけど……納得したわ」  思い返すと、昨日の犬神は居酒屋へ向かう道すがらから、やけにニコニコしていて。  居酒屋ではいつも以上に饒舌で、酒が回ってテンションが上がっただけなのかとも思っていたけど……夢で見て久し振りに思い出した同期会の飲みの場でも、もう少し落ち着いていたなと考えて。 ( 嘘だろ?俺と外で食事と買い物しただけなのに。そんなことで、浮かれちゃうのっ?)    普段の冷静でクールな彼からは、到底想像できない理由に心臓が雑巾絞りをされた感覚に陥った。  やばい。めちゃめちゃ心臓が痛い。痛すぎて心なしか呼吸が浅くなってきた。  こんな状態を悟られないように、俺は慌てて今日の行き先を「見たい本があるから本屋に行こうぜ」と見たい本もないのに決めてしまったのだった。  犬神の家の近くの本屋は結構大きい店舗で品揃えも豊富だった。  見たい本はなかったけれど、元々本屋自体好きだったから、あれやこれやと見て回っていたら気付けは2時間経っていて。  犬神は俺にぴっとりくっついて行動するわけでもなく、犬神自身も「見たい本があるから、あとで」と別行動になった。  正直に言おう。俺的に、自分の時間で動けて、めっ、ちゃ!よかったのだ。    女の子とデートで本屋に行こうと俺が提案して、行ったことが3回ある。その度に俺の行く先にぴっとりくっついてゆっくり本を見られないという状態に行動を制限されているような気分になって。3回、別の子と本屋デートしたけど、3回とも別行動は許されず、3人ともずーっと俺の横にいるのだ。ゆっくり本を見たい、ただそれだけなのに。  別で行動しよ?と提案しても「えっデートだよね?なんで一緒に行動しないの?」と3人が3人ともに同じ返答。  それ以降、デートで本屋には行かない、と俺の中で決めていたのだ。    俺は、最近ハマっている小説家の新作と、仕事の資料本を数冊購入。俺が会計をしている時に犬神も本を数冊持ってレジにやって来た。 「いいのあった?」 「ん。ありがと。めっちゃいい時間だった……」 「ははっ。そんなに?本当に本が好きなんだな。諏訪のこと、またひとつ知れて嬉しい。ちょっとコレ、会計してくるから、待ってて」  ポン、と俺の頭に大きな手を置いて、犬神はレジに向かう。じわじわ、手を置かれた箇所と頬に熱が集中するのを感じた。 ( ほんと。あんな、少年みたいなかわいい笑顔、会社で見たこと、ない )      会計が終わって俺のところにやってくるまで、ずっと。    俺は犬神を、見つめ続けたのだった。

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