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第16話 休日デート(2)
「うあ……!か、わ……っ!」
俺たちは今、ポメラニアンカフェに来ている。
最近オープンしたカフェらしい。らしい、というのはこのお店の存在は、ついさっき知ったのだ。ここの情報は、さっき寄った本屋に置いてあった犬神が偶然見つけた情報誌に載っていたのだ。
◇
「な、諏訪。お前、ポメラニアン見るの、まだしんどい?」
「へっ。急に、なに」
「ほら、見て。この店。先週オープンしたばっかりらしいんだけど」
そう言って、犬神が俺に見せた情報誌の一面に " New Open!" と大きく印字された文字の下には、お店紹介ページがでかでかと掲載されていて。
そこには " ポメラニアンカフェ "の文字がでーんと載っていた。
「ポメラニアン、カフェ……っ?!」
「カフェの中にポメラニアンが沢山いて触れ合えるらしい。俺、ポメラニアンに変身するのにポメラニアンのこと、よく分かってないし気になって。行ってみたいんだけど、さ。でも、諏訪がポメ太のこと思い出して辛くないかなって、そっちも心配で」
「行く!大丈夫!めっちゃ行きたい!」
「ほんと?そっか。じゃあ ── 付き合って、くれる?」
「うん!付き合う!めっちゃ付き合う!わー!楽しみだなー!ここから、結構近いな?行こ!犬神!早くっ!」
俺はポメラニアンに触れ合えるという天国みたいな場所の存在に浮かれまくって、早く行きたくて犬神の手を引いて本屋を出た。
雑誌に載ってたカフェの場所は徒歩で5分の距離。俺はルンルンしながら歩いていると、自分の手の感覚に変化があって歩幅を緩める。
する、と俺の指と指の間に犬神の指が滑り込んできて。ギュ、と恋人繋ぎに変わった。
そこでやっと、自ら進んで犬神と手を繋いでいることに今更ながらに気付いたのだ。
「い、ぬかみっ!ご、め」
「なんで謝るの?俺は、めちゃくちゃ、嬉しいけど?」
そう言いながら、俺の手をグ、と引っ張って。俺の甲に犬神はちゅ、と口唇を落とした。
「ッ!」
「顔、真っ赤。かわいい ── さっき『付き合う』って言ってくれたのも、嬉しかった」
「そっ!そういう意味で、言ったんじゃ……!」
「分かってるよ。でも、嬉しかった。一瞬でも勘違い、できた」
そして、俺の腰を引き寄せて、犬神は俺の耳元に低くしっとりと声を落としたのだ。
「諏訪から付き合ってって、言ってもらえるように、頑張る、な?」
「~~~~ッ!」
◇
真っ赤になりながら到着したカフェは満席だったけど、仕事のできる犬神は俺が行くって即決したその流れでネット予約をしてくれていたらしい。さすが仕事のできる男は行動もスマートだ 。きっと俺に足りないのは、こういうさりげない優しさなんだろうな、なんて。
俺の手を繋ぎながら「諏訪、こっち。個室の予約、取ったから。こっちおいで?」と俺に向かって、ふんわり微笑む犬神を見て思う。
ていうか ── そもそも。なんで、俺?
犬神なら相手なんて、ごまんといるだろうに。きっと、というか間違いなく選びたい放題だろう。
犬神が「付き合って」と言えば遍 く数の人間が彼にOKをするのは間違いない。
身体で流されているだけのクズ野郎の俺なんかよりも、もっと、ずっと。犬神を愛して、尽くしてくれる人が間違いなくいる筈だ。
「犬神って。人を見る目だけは、ないよなあ」
「……?どうした、急に」
俺は案内されるままにソファへ腰を下ろすと、犬神が隙間を作らず俺の横にぴっとりと座る。犬神が首を傾げたことに返答しようとしたその時、ピンポンパーンと部屋に設置されてるスピーカーからチャイムが鳴った。
『犬神さま、いらっしゃいませ~!ご来店ありがとうございます~!』
うお。びっくりした。とても元気な店員さんだな。
『時間制限は90分です~。終了5分前になったらアナウンスしますねー!ポメちゃんがそちらに行くまで、少しお待ちくださーい』という店員さんのアナウンスが入って「分かりました!」と俺が答えたところで、話の続きをしようと口を開いた。
「センスの話。服も、食事も、仕事も。ぜーんぶ完璧なのに……なんで、俺?俺なんて、身体で流されてるだけのただのクズ野郎だよ。犬神には、もっと似合う人が、どっかに」
「いないよ」
俺の台詞に被せる様に犬神が口を開いた事に吃驚して、俺は伏せっていた視線を犬神に移すと、犬神はすごく真剣な表情で俺の瞳を見つめていた。
視線が、苦しい。
「諏訪以外、考えられない。俺はお前しか、いらない」
「……っ、」
犬神の表情に、動けなくなって。
ゆっくりと近付いてくる犬神から、目が逸らせない。
心臓が、痛い。
「諏訪……」
「わんっ!」
と、目の前には、白いポメラニアン。
白ポメがソファを伝って俺の肩のところから俺たちを覗き込んでいた。
「っ!かっ!かわいっ!犬神!犬神みて!白ポメ!かわいい~!」
「 ── そ、う、だな」
その後、茶ポメ、黒ポメとポメたちが、ぞくぞくと現れて。俺はめろめろになって、ソファから移動してポメたちと戯 れた。
そんな中、俺の周りにいるポメ達と外れて、端っこでちょこんと伏せってる白ポメが気になって、低姿勢でその子に近付いた。
「こんにちは?……俺と、遊ぼ?」
「くぅん」
白ポメはぺろぺろと俺の手を舐めて、クンクンと匂いを嗅いだ後、俺の背中に乗ってだるんと寝そべってくれて。
可愛さに、胸がきゅんきゅんする。
「~~~!うあ、かわいすぎ……っ!あーマジで天国すぎる。かわいーっ!」
「あの頃から、何にも変わってない。ほんと……愛しくて、しょうがない。かわいいよ。ポメラニアンより ── お前の方が」
俺は、かわいいポメたちと、戯 れていたから。
犬神の小さな独り言は、俺には聞こえることがなかったのだった。
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