17 / 44

第17話 休日デート(3)

 カフェでの時間は、あっという間だった。  ポメたちと(じゃ)れている間に、犬神が頼んでくれたカフェメニューが届いた。  犬神はポメラニアンの焼き印が入ったパンで作られたサンドイッチとコーヒーセット。俺はオムライスにポメラニアン型のハンバーグが乗ったポメランチ。それにオレンジジュースをセットで頼んだ。俺たちがご飯を食べてる間、ポメたちは大人しく待機していて、躾がよくできた店だとふたりで感心した。  唯一、端っこでしょぼくれてた白ポメは、俺が撫で繰り回した結果、俺に凄く懐いて。  俺が動くと一緒に動いて、常に俺の後を追いかけて。ご飯食べてる間もソファに座った俺の横にくっついてちょこんと座っていた。 『はーい!犬神さま、残り時間5分でーす!』のアナウンスに、そろそろ帰り支度をするか、と立ち上がったその時。  白ポメが俺の足に両前足を伸ばして、後ろ脚だけで立って、俺の動きを全身で止めたのだ。 「い、いぬ、犬神っ!この子、かっ、可愛いっ。ど、どうしよ、どうしたら……!」 「 ── 諏訪から、全然離れないな」  すると、犬神と白ポメがジーっと見つめあう。 「妬けるな。諏訪は、渡さない、よ?」 「へっ」  そう言いながら、犬神は白ポメをゆっくり抱き上げて自分の目線に白ポメを抱えた。 「羊は今、俺が必死に口説いてるところだから。お前には、やれない。その代わり。羊と恋人になって、ふたりでココに来た時は……お前も一緒に、帰ろうな」 「くぅん」  ぺろ、と白ポメが犬神の口唇を舐めて。犬神が床に降ろすと、納得したかのように俺には近づかず、おすわりをして待機した。  「お前、賢いな。偉いぞ」と言いながら犬神が白ポメの頭を優しく撫でると、白ポメは嬉しそうに目を細めた。 『犬神さま、ありがとうございました!お時間でーす』のアナウンスで、俺たちはその店を後にしたのだった。  ◇  ポメラニアンカフェから犬神の自宅へ向かう道すがら、俺は最後の犬神の台詞の意味がよく分からなくて、口を開いた。 「なあ、犬神。あの白ポメに言ってた『一緒に帰る』って、どういう意味……?」 「ああ。気に入ったポメラニアンが居たら譲渡してもらえるシステムらしいよ?あの店にいる子、みんな破綻した多頭施設で飼育されてた保護犬みたい。譲渡させてもらえるのも、会員になって何回か面会する必要があるけど」 「そう、だったんだ、って、え。もしかして ── 会員に、なったの?」 「勿論。諏訪はアイツに、あの白ポメに。また会いたい、だろ?」 「会、いたい、けど……」    すると、犬神は俺にスマホを見せた。その画面には " ポメラニアンカフェ " の会員証。『No.0023 Name:ARATA INUKAMI』と表示されている。  優しさと嬉しさと ── 何だかよく分からない初めて感じる気持ちがドバドバと溢れて。  普通に、泣きそうになった。 「っ、うそ……。もしかして、俺の、ため、なの」 「?当たり前だろ?俺が動くのは、お前のため、だけだよ。また一緒に。アイツに会いに、行こうな?」 「っ、」  心臓が、いたい。  俺はずっと、女の子が好きだと。そう、思っていて。  でもそれは、世間一般の流れから反れるのが怖かっただけなのかもしれなくて。  でも、俺が今、犬神に感じている気持ちは、今まで付き合ったどの女の子にも感じたことのない気持ち。  あの時の。ポメ太を見つけた家の、あの女の子に感じた、ふわふわした気持ちに似ている。  あの子に感じて以来、感じたことのなかった胸がきゅぅっとなる、不思議な感覚。  あ、これ。もう。俺、多分。  きっと……もう。  犬神に、心臓、もってかれてる。  俺、これから先一緒にいるのは。  コイツじゃないと、ダメかも、しれない。  どこまでも俺のことだけを考えてくれて。  どんな俺でも、愛してくれる。  俺への気持ちが暴発して、  ポメになっちゃう。  そんな、君が。     ── 好きだ。とても。 「……、諏訪?」  どうしようもなく、目の前の犬神に触れたくて。  俺は、犬神の服の裾をゆっくりと摘まんだ。 「っ。俺……今、すごく」 「……?」  顔が、熱い。心臓が、バクバク、バクバク、音をかき鳴らしてる。  恥ずかしくて、合わせられない目線。俺の視界には犬神の細い綺麗な大きい手。  その手で、キツく、抱き締めてほしい。 「……っ、犬神を抱き締めたい。いい……?」 「 ── いいよ。こっち、おいで」  犬神に手を引かれて移動した先は、人通りが全くないビルの路地裏。「こんな可愛いお前を、誰にも見られたく、ないから」と言いながら、犬神は俺を優しく抱きしめた。  どくどく、どくどく。どっちの音かも分からないほど大きい音が、耳に響く。 「音、すご……」 「諏訪の音もすごいけど、……っ、俺の方が、すごいな。諏訪に触れる時、俺の心臓はいつもこんな調子。しかも今回はお前から望んでくれた。ヤバい。嬉しくて、爆発しそう」  犬神の声が、俺の耳元で低く囁く。犬神の香りと体温にくらくらしそうで。俺も爆発しそうで、少し落ち着きたくて軽く体を離そうと力を入れると、犬神の俺の背中と腰に回っていた腕に力が入る。 「っ、い、ぬ」 「 ── 羊、好きだ。昔から、ずっと」 「ッ!……ん……」  目の前の、熱の籠った瞳に抗えなくて。  ゆっくり落ちてきた目の前の口唇を、自然と俺は受け入れていた。

ともだちにシェアしよう!