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第21話 第3営業部に異動?(2)

 ポメ化する前の犬神なら、きっと。どんな状況でも笑顔でふわりと微笑んで、上手く躱していただろう。犬神の周りだけ絶対零度に凍ったミーティングルーム。  ハラハラしながら、様子を伺っていると犬神に視線を振られた立木部長が冷や汗まみれで口を開いた。 「い、犬神、落ち着け、な?や、この案件はさ、諏訪が資料を全て作っているだろう?営業事務が力不足っていうなら、諏訪に手伝ってもらったら問題ないと思ってだな」 「その間の、俺と貴方の仕事に係る管理はどうするんですか?」 「そ、それは洲崎にお願いしてある!洲崎の担当の仕事は庄内(しょうない)間宮(まみや)がサポートに入ってくれる流れになっていてだな。えっていうか、ほんとに落ち着いて……!怖!こんなに怒気を孕んだお前は初めて見る気がするぞ?!」 「まあ、怒り狂うでしょうねえ。犬神くんは、諏訪くんが大のお気に入りだから」 「すっ、洲崎さん……っ!」 「あれ?諏訪くん~?いつもなら『何言ってんスか?阿呆らし』って言ってスカしてるのに今日は、真っ赤になって。わー!絶対この週末なんかあったんでしょ!お姉さんに週末何があったか聞かせなさいよー!」 「っ、!」  洲崎さんに指摘されて。週末から今朝までのことが脳裏に駆け巡ってボッと頬が赤くなった俺に、更に輪をかけてちょっかいを掛けられて言い訳も思いつかず固まっていると、犬神がス、と俺の前にやって来て「これ以上は減るから。あんまり見ないで」と俺を隠した。    気分は(あま)(てらす)(おお)(みかみ)だ。犬神は俺よりも頭一個分大きいし、体格も少しばかりいいから、俺は犬神にすっぽりと隠れてしまった。  すると犬神の顔がゆっくりと俺の耳元に近付いて。犬神は俺の耳元で、囁いた。 「嘘、つかないでいてくれて嬉しいよ。ありがと、羊……好き、だよ」 「~~~!」  特に後半は俺にしか聞こえないボリュームだったけれど、みんなに聞かれていないか、とか。犬神の美声めっちゃ腰にクる、とか。  なんか脳みそが訳わかんなくなってパンクしそうだ。だいぶ犬神にヤラれている。俺ってヨワヨワすぎ。へなちょこだ。   「犬神くんいいわ~!目をつけてたけど、やっぱり私の勘は間違ってなかった……!犬羊、眼福……っ!」 「何が、どうなってんの???」 「んー、まあ。色々あってなあ。あの他人に興味ないとばっかり思ってた犬神がこんなに諏訪に執着してたなんて、想像以上だよ」  立木部長には、電話があった金曜に事の経緯を洗い(ざら)い話したと週末、犬神から報告を受けていて。  洗い浚いってどのくらい……?!と俺が固まっていると「お前のことも、お前への気持ちも、全部報告済だから」と言われて。ますます固まった俺に「ごめんな。でも隠したくなかったし嘘つきたくなかったから」と。ごめん、許して、好き。と言いながら何度も口付けされて、うやむやになっていた( そのまま延々とイチャイチャしてしまいました…… )のを今になって思い出した。    俺は昔から流されやすい。流された方が楽だし、それに、自分にそこまで自信がないのだ。だから、時の流れに身を任せ状態で事が進んでしまう。自分の中の常識はあって、そこだけは譲れないって部分だけは否定出来るけど、それ以外は「まあ、いっか」って進んでしまうのだ。  だから、好きでもない子と平気で付き合えたり、身体を繋げたりしてきた。  でも、この数日。犬神と過ごして、俺は少し自分の気持ちが分かりかけていて。最初は同情?まではいかないにしても、助けてあげたいって気持ちの方が強かったと思う。  でも、彼と数日過ごして。彼の存在を愛しいと感じている自分が居て。自分の中の常識とか、全部が関係なくなって、彼だけが欲しいと感じたことには変わりはなくて。  自分で自分の気持ちを認めたいって初めて思った。けど。犬神と洲崎さんに流されているだけなんじゃないかって、勘違いなんじゃないかって思う自分もいて。  だから、俺はもっと。自分に、自信を付けたい。  俺は部長ふたりに話しかけようと、犬神の身体の横から顔を出した。「諏訪?」と怪訝そうな顔の犬神が少し気になるけど、このままじゃ犬神に甘やかされすぎてダメ人間になってしまう。そうなりたくなくて。俺は両部長に声を上げて、進言をした。   「立木部長、河瀬部長!俺、第3営業部、手伝いますっ!」 「 は 、 ? 」      俺の発言によって目の前にいる犬神の温度が、急激に冷え込んだ。  そのことに、ここにいる全員が固まったのは言うまでも、ない。

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