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第22話 重くて甘い、愛しい気持ち。

「納得、できない」 「犬神が、納得できなくても、俺は、やる」  結局あの後。俺の決断により絶対零度の空気となった犬神を「諏訪が説得してくれ!」と河瀬部長と立木部長に頼まれて( ていうか両部長と事務長がOKなら助っ人してもいいと思うんだけど、それをも凌駕する犬神の力恐るべし )、俺と犬神ふたりだけになったミーティングルーム。  ドアがぱたんと閉まるやいなや、内鍵をガチャと閉めた犬神はギュ、とキツく俺を抱きしめた。    今朝振りの犬神の体温に胸がじんわりと暖かくなる。 「っ、嫌だ。我儘言ってるって、()()ってる。でも。立木部長と仕事してるのを見るのでさえも嫌なのに。羊が、俺の知らない俺以外の人間と、しかも俺の見えないところで、ずっと一緒にいるなんて。耐えられる、気がしない……!」  俺の背中と腰に回った犬神の腕の力が強くなる。  その行為に、じわじわと嬉しさが込み上がるのを感じて。俺って、完全にコイツに堕とされたんだなあ、なんてふわふわした気持ちを感じていた。  犬神とこんな風に過ごす前の俺だったら、この力加減に「痛いから離して欲しい」と訴えていたに違いなくて。それが、今の俺は。この痛みさえも犬神の俺への必死さを感じられて。嬉しくて、おかしくなりそうなのだ。  今まで付き合った子から受けた束縛は、鬱陶しいとか、息苦しいとか、開放してほしいとか。マイナスな気持ちにしかならなかったのに。  犬神にされると胸がじわじわ痛くて。もっとしてほしい、なんて。大概俺は、犬神にのめり込んでいるって自覚せざるをえなかった。  こんな気持ち、今まで付き合った、どの子にも感じたことが、ない。  それと同時に、犬神の俺への感情も疑いようがないなと思う。  吊り橋効果だと俺は最初、彼の気持ちを突っぱねたけど。そうであってほしい、という俺の理想を押し付けているだけだったように感じて。  思わず、犬神の口から俺への気持ちの大きさを聞きたくなってしまって、質問した。   「お、前。どんだけ、俺のこと、好きなの」 「どれだけ?表現なんて、出来るわけない。でも、羊のこと、いますぐ。誰の目にも触れないところに閉じ込めて隠してしまいたい、とは思ってる」 「っ……ん、」  そう言って犬神は、俺の口唇に、ゆっくりと口唇を落とした。  ちゅ、と触れ合うだけのソレはすぐに離れて。そして目の前には、泣きそうな表情の、彼。   「好き、なんて言葉じゃ足りないくらいなんだ。羊、いかないで、ほしい。俺の傍にずっと、いて……?」 「っ、」  犬神は『ストレス性犬化症候群』なんていう珍しい病気を抱えてしまうくらい、自分の中で全てを抱え込むタイプの人間で。  そんな彼が、俺に対してだけ。俺のことにだけは我儘を貫くそのことに、ジワジワと言いようのない気持ちが(あふ)れて(こぼ)れてしまいそうだ。  俺への甘くて重い彼の感情や、そんな彼の行動が嬉しくて、愛おしい。心臓が押し潰される感覚に、堪らなくなって。  ゆっくりと、犬神の口唇に、俺の口唇を押し当てた。 「よ、ぅ……ん、」 「っ、犬神に、聞いてほしいことが、ある」 「……なに?」  ギュ、と俺から犬神を力強く抱きしめた。俺は恥ずかしくて、きっと真っ赤になってるであろう俺の顔を見られたくなくて、犬神の胸元に顔を埋めた。俺の本心を今、ちゃんと犬神に伝えなくちゃ、いけない。 「俺、自分に自信がないんだ。お前みたいにテキパキ仕事が出来るわけでもないし。容姿が整ってるわけでもないし。ポメ太のこといつまでもグジグジしてるし。気持ち良さに流されて、簡単に身体、赦しちゃうし。」 「いや、身体赦してくれたのは、俺得だったから別に構わないし。それ以外のことは、そんなこと、ない。けど……それで?」 「うん。俺は、さ。ちゃんと自信を、つけたい。自分に。第3営業部の事務を手伝ったら、俺もっと自分に自信がつく、気が、する」 「……うん」  俺は基本的に、自分に自信がないのだ。だから、今までずぅっと流されてきて。でも初めて、流されたくないって思えた気持ちに……気付かないフリしてたこの気持ちを今やっと、確定できた。  この気持ちは大事にして、ちゃんと自分の言葉で伝えたい。そのためには、自信を、つけたい。 「この仕事、こなせたら俺自身、成長出来る気が、してる。それでその時は、さ。犬神に俺と話する時間、作ってほしい」 「話……?」  ちゃんと、()を見て伝えたくて。  俺はゆっくり顔を離して犬神を見上げる。さっきまで絶対零度の冷え冷えした空気を纏っていた犬神は、俺の言葉に耳を傾けようと、穏やかな表情で俺を見つめてくれていて。その視線に、胸がいたい。   「俺、犬神、に……、っ。(あらた)に、伝えたいことがあるから。聞いて、ほしい」 「ッ!」 「聞いてほしい、から。その。俺が ── 第3で頑張るの、応援、して……? っ、」    犬神を説得したくて、喋る言葉を探そうとした口唇は彼に塞がれて。  何度も、何度も。彼に口唇を切なく求められたのだった。    

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