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第23話 第2営業部にて

「えっ!い、犬神も、第3に?!」 「はい。それが叶うなら、諏訪が第3へ助っ人に行くのを ── 渋々ですが、受け入れます」  俺より先に、第2営業部に戻った(あらた)は早速、立木部長に話を持ちかけていた。  その話に、うむむと部長は唸っていたが、そこはさすが、営業部のエースだ。彼は言葉巧みに、部長の言葉を捻じ伏せていった。 「いや、しかし、なあ」 「それに。向こうへの引き継ぎもまだ終わっていない。諏訪と俺が念入りに打ち合わせして諏訪が作った資料で、俺が獲得()ってきた仕事ですし。俺がサポートに入った方が、引き継ぎもスムースにいくでしょう?」 「ま、まあ。そう、だが。しかし、犬神の:第2)こっち)の仕事は」 「それなら心配いりません。小口ばかりでPCを第3へ持っていけば何とかなりますし、新規受注分は既に捌いてあります。部長は ── 俺を、誰だと思っているんですか?」 「いっ、犬神様……!流石だな……!それなら、まあ。一週間程度、抜けても、大丈夫か」  立木部長と新のやり取りを、部内のみんなは微笑ましく見ていて、仲の良さがよく分かる。    そんなふたりを横目に、俺は直属の上司である洲崎さんの元へ向かった。 「おかえり諏訪くん。わお。顔、まっか」 「っ、ただいま、戻り、ました」  洲崎さんが俺の顔を見るなり、したり顔で出迎えてくれた。  分かる。理解(わか)ってるんだ。この人の思惑通りに事が進んでいるのは。  それでも、抗おうとはしたんだよ?きっと、この気持ちは違う、間違いだって。流されてアイツの気持ちを受け入れてしまったら、きっとお互いに後悔するって。  理解(わか)って、いたのに。  初めて、手放したくないって。俺からちゃんと気持ちを伝えたいって彼に、思ってしまったのだ。   「で?どう?彼氏、納得した?」 「ぶっ!か……っ!か、彼氏、じゃあり、ません……っ!」 「えっ。付き合って、ないの?!」 「っ。付き合っては、いません ── まだ」 「」 「~~~!まだ、です。俺の気持ちが、定まってるけど定まってないんで。こんな状態で、返事、なんて」 「!認めたわね?ふふ。嬉しい。しかしほんと諏訪くんって、真面目。あの子は手に入れば、そんなの気にしないと思うけど。ま。そんなとこも含めて諏訪くんがいいんだろうなあ」  ◆    ミーティングルームであの後。俺に沢山キスの雨を降らせた後に、おでこにコツンとおでこを付けながら、苦しそうに新は口を開いた。 「 ── 羊の、気持ちは、わかった。きっと、お前の話は、俺にとって最高に嬉しい話、なんだろ……?」 「っ、う、ん。多分 ── そう、だと、思う」 「はぁ。ホント。そんなことしなくても。すぐにでも話して欲しいけど。わかった、待つよ。その代わり。羊が第3へ行くのには、条件がある」 「条件……?」 「俺も、行く。助っ人として」 「え゙っ゙!いや、第2の仕事は?!忙しいんじゃ?!」 「PCあれば何とでもなるし、今は落ち着いてるから。小口の管理や書類作成なら、羊も……いける、だろ?」 「ま、まあ。出来ないことは、ない、けど」 「それに。第3には今、が、いる。あんな場所にひとりで行かせられない」 「へ?」  一瞬不穏な空気を纏った新に、意味が分からなくてコテンと首を傾げると「いや、こっちの話。気にしないで」と言われて。気にする事じゃないならいっか。と新の話に改めて耳を傾けた。 「それよりも、羊が。俺と別の空間にいるのが本当に無理だから。特に、こんな話 ── お前の気持ちを、聞かされた後だと、余計。」 「っ!」  熱の籠った視線を向けられて。ゆっくりと新の口唇が俺のソレに落ちるのを目を閉じて受け入れた。  ちゅ、と優しく音が鳴って。すぐに離れた口唇に寂しさを覚える俺は相当、この目の前の男に、嵌っている。そんな自分に戸惑うけれど、嬉しくもあって。こんな気持ち初めてで何だか、こそばゆい。  ゆっくりと俺に巻きついていた新の腕に力が入って、密着する感覚にふわふわする。  そんな俺を見てフ、と微笑んで新は「立木部長に、商談してくる」と言って俺の頬に口唇を落として。  彼は先にミーティングルームを後にしたのだった。  ◆ 「部長の仕事は任せて。犬神くんも第3に付いてくなら、犬神くんの仕事は、大丈夫そう、かな?」 「犬神の仕事は小口だけなんで。第3の助っ人も今週、一週間くらいで終わらせるんで、大丈夫だと思います」 「そっか、了解。じゃ、とりあえずは、返事、持ち越しなのね?残念」 「んぐっ!……そ、うです……」  突然の話の振られ方に、思わず喉が詰まった俺を「もうホント、この手の話慣れてないのね。諏訪くんたらウブなんだから」とニマニマしている洲崎さんはとっても嬉しそうで。  そんな彼女に一矢報いたくて(?)、俺は口を開いた。 「 ── でも、付き合うことに(そう)、なったら。洲崎さんには、一番に報告します」 「ほんと?!よし!お姉さんに、第2(こっち)の事は全て任せてっ!やる気出て来た……っ!働くわよ~っ!」  その日の洲崎さんの仕事っぷりは、立木部長も唸る程で。「洲崎に何したの?『過去イチ仕事してるな』って声かけたら『諏訪くんのお陰』だって。洲崎って……まさか、諏訪の、事」とか意味の分からん勘繰りをされたので否定しようとしたら、横から新が「絶対あり得ないのでやめて下さい」と一刀両断していた。  そして、その新の圧に立木部長は「ひぇっ」と声を上げていて。  ふたりのやり取りを、部内のみんなは微笑ましく見ていて、仲の良さがよく分かる。  新の気持ちを認識した今なら、部長への新の行動は " 嫉妬からくる行動 " なのが手に、取るように分かって。 ( なんか。こそばゆいような、嬉しいような、恥ずいような…… )  そんなふたりを横目に、俺は頬をポリポリと掻いたのだった。    

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