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第27話 愛しい、体温。
「取り敢えず、俺と洲崎で河瀬と話してみるよ。今から一緒に第3へ行こう。犬神が相馬と対立して、立ち上げ準備に支障が出たりしたら、大変だ」
そう言って、立木部長と洲崎さんが会議室から出ようとしたから、第2の仕事は大丈夫なのか心配になって質問をした。
すると、ふたりから返って来たのは、入社4年目の相馬と同期の庄内 と間宮 が、営業事務部隊で頑張っているという報告だった。
彼らが頑張っているのは、俺もよく知ってる。俺も最近は彼らにサポートしてもらうことも増えたからだ。きっとこの期が終わって次の期からは管理職候補 になるだろう。俺ももっと、しっかり仕事をしなければ。俺の目指す先は、洲崎さん なのだから。
「そういや、諏訪は。キャリア枠で、よかった、よな?」
「あ、はい。大丈夫、ですけど。え、部長?何か、ありましたか?」
「いや。念のための再確認。気にしないで」
そうして、立木部長は俺との話を切り上げて。洲崎さんとふたりで、俺の前を歩きながら、作戦を練り始めた。
本当にこのふたりは、ふざけてる様でとても頼もしい。素敵な上司だな、とふたりの後ろを歩きながら、そんなことを考えていた。
その、瞬間。
「へっ」
グ、と横から腕を取られて。身体が横に引っ張られる。
ふわっ、と。俺の大好きな香りが香った。
◇
「でも立木くん、それはー……、ん?あれ、諏訪くん?」
「?どうした?」
「や、諏訪くんが、いな、くて?」
「俺たちが喋ってたから、気を遣って何も言わずにトイレでも行ってるんじゃないか?俺たちは先に向かって、河瀬に現状を確認しに行こう。策を練りたい」
「そう、です、ね?」
ふたりの声が遠くなっていくのを感じながら俺は、引き摺り込まれた真っ暗な会議室で、誰かに抱きしめられていた。
誰か、なんて。確認しなくても分かる。だって俺を包んでいるのは、俺の大好きな香りなのだから。
真っ暗なのに、安心する匂いに、体温に。じわじわ胸があったかくなる。
彼の存在に張りつめていた気持ちが、ゆるゆると解けていくのを感じた。俺を張りつめさせていた原因でもあるのに。それでも、やっぱり。彼の体温は安心するのだ。
俺を包んでいる身体に、ゆっくりと腕を回して。ゆったりと目の前の愛しい彼に体重を預けると俺の首元に顔を埋めた彼が、俺の存在を確認するかのように深呼吸をする。
その彼の熱い息遣いに少し体をビクッと揺らすと「たまんない、」と切ない声が聞こえて。その台詞の動きに俺の皮膚と彼の口唇が触れ合ってゾクゾクした。
俺を誰もいない部屋へ連れ込み、抱き締めたのは俺の、大事な、人。
「っ、あ、らた」
「はー……羊のこと、抱き締めてると安心、する」
「ん、俺、も」
「ふふ。嬉しい。それにしても長かったね?資料、見つかった?」
「えと、ごめん。嘘、吐きたくないから言うけど。資料なんか、取りに行って、ないんだ」
「うん。知ってる。そうだろうと、思った。カマかけて、ごめん」
「アッ……バレてた、のね」
「勿論。俺がお前のことで分かんないことなんか、ないよ?」
その台詞にぎゅぅっと、心臓が潰されて。切ない気持ちになって、どうしようもなく新に触れたくなる。
新の肩口に埋もれていた顔をゆっくり動かして、目の前の彼の頬に口唇を落とした。
俺の動きに応える様に、俺の方を向いてくれた新と、鼻と鼻がゆっくりと触れ合う。
( 頬に触れるだけじゃ……なんか、物足りない )
自分から、目の前の彼の口唇に顔を近付ける。
ゆっくり、彼の口唇に自分のソレを触れ合わせて。
わざと、ちゅ、と音を立てながらゆっくり口唇を離すと「そんなかわいいこと、いつ憶えたの……?」と低く、切ない声を俺の耳元に落とした後すぐ、口唇を優しく塞がれて。
何度も、何度も。ねっとりと口唇をお互いに触れ合わせた。
お互いが口唇を触れ合わせる度に、わざと音を立ててるせいか。ふたりだけの暗い空間に、ちゅぱ、ちゅ、と卑猥な音が響く。
( 気持ち、い……新とずっと、こう、してたい…… )
何回目かの触れ合いで、新の口唇が俺から離れて。「倖せ、すぎ」と俺の首元に彼が顔を埋める。
「早く……羊の気持ち、聞きたい……」と溜息混じりに溢された愚痴は、俺にも刺さって。一瞬、悪い顔した俺の中の悪魔が『正直なところもういいんじゃねぇ?もう全部言っちゃえよ』って俺に囁いた。
だけど、真面目な俺の中の天使が『絶対ダメだよ!自信つけてから言うんでしょ!』って怒り出してしまった。相変わらず俺の顔してぶりっ子しやがる。キモいぞ、俺の顔した天使。
頭の中で、天使が圧勝してしまった。へんなところで頑固で真面目な俺。
「自分に自信、持ちたいって言っただろ。第3の子たちに処理の仕方引き継ぐまでは……俺の気持ちダダ漏れだけど、言えない。ごめん。なるべく早く終わらせて……新に、伝えるから」
「はー……。生殺し、だけど。でも……約束してたことは、絶対だから」
「え、と。……約、束?」
「忘れたなんて言わせない。お前が俺に気持ちを伝えてくれたその時は ── グッチャグチャに抱き潰す。どれだけやめてってお願いされても、やめないから。覚悟、しといて?」
「……ッ!」
暗闇でも、ニヤ、と新の口角が上がっているのが分かって。
めちゃくちゃに抱かれる未来を想像して、真っ赤な茹蛸状態になってしまった俺の頬に「かわいい。すきだよ」と言いながら。
新は何度もその柔らかい口唇を、俺の口唇に優しく落としたのだった。
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