28 / 44

第28話 赤いしるし

「大阪に、出張?」 「突然で悪いんだけど。犬神は、今日の15時出発で今日と明日。俺と柿崎(かきざき)の3人で白川(しらかわ)の本社がある大阪で引継ぎの挨拶をするために同行してほしい」  新と一緒に戻った第3営業部で、河瀬部長から発せられたのは、新の出張命令だった。 「俺が商談して、話を進めたのは東京支社の担当者で。確かに途中、白川(しらかわ)社長も交えてやり取りはしましたけど、今後もその担当者とやり取りするって話になっていたので……引継ぎの挨拶も東京(こっち)で問題ないのでは?」  新の質問に、河瀬部長は新が獲得()ってきた大口の『白川物産』とのやり取りを説明してくれたのだけれど。    どうやら、河瀬部長が担当変更の挨拶をしたいと相手方に連絡を入れたところ、最初は東京支社で、となっていたアポイントが急遽、本社への来社要請に変わったらしい。  それというのも、白川社長が新に、最後に直接挨拶したいと言ってきているというのだ。そして、多忙な白川社長の予定が日本にいるのが明日のみ、という結構タイトなスケジュールで。  それとは別に今日の夕方、先方の担当者も直接打ち合わせをしたいとのことらしく急遽出張が決まったようだった。  白川物産の白川社長といえば、人嫌いで有名な社長だ。  仕事を獲得()ってきただけでも凄いのに、その社長に好かれるなんて流石すぎる。   「そういう事なら……承知、しました」 「一泊だけだから、そんなに荷物もいらないだろうけど出張の準備はいるだろ?犬神は今からもう帰っていいから。今日と明日は出張扱いで、いいんですよね?立木(たちき)さん」  構わないよ、と言いながら俺たちより先に、第3営業部に到着していたらしい立木部長は、新に心配そうに視線を向けていて。  きっと、出張命令が出されることは、立木部長も想定外だったのだろう。 「犬神……気持ち的には複雑だろうが、頼むな」 「分かっていますよ。大丈夫です。部長、その代わりといってはなんですが。今から諏訪のこと、お借りしても?」  立木部長はあっけらかんと「諏訪が16時までに戻ってくれたら大丈夫だから」と俺が抜けるのを了解してくれてホッとする。    出張命令が言い渡された時、俺と離れた場所で、新が変身してしまわないか、俺はそれが少し心配だったのだ。  少しでも、新の不安を解消しておきたい。    まあ、俺も彼と離れてしまうのは寂しいっていうのが、本音ではあるけど。    ◇   「 ── ん、……あ、らた?そろそろ、準備、しないと、ん」 「分かってる。わかってるよ?……ん、……でも、もう、ちょっと」  新の部屋の、今朝まで新と裸で抱き合っていたベッドの上で。  彼に覆い被されながら甘い口唇を落とされ続けてどれくらい経っただろうか。  口唇に、頬に、耳朶に、瞼に。  彼の口唇が優しく落ちて、俺を求めてくれていると胸がじわじわと高鳴った。 「俺のモノだって、しるし、付けたい」といつの間にかシャツのボタンを外されていて、露わになった俺の鎖骨に新が指を這わせる。  その刺激に甘い声が漏れると、熱い荒い息が深くなって、俺の肌にかかる。  鎖骨から首筋に向かって熱い舌が這う感覚にゾクゾクして身震いする俺に「好きだよ」と言いながら彼は俺の口唇を指でなぞった。    首筋に何度か柔らかい感触が降り注いで。  「は、」と熱い息がかかったと思った瞬間ジュ、と吸い付かれる感触に思わずビクン、と身体が揺れてしまった。 「っ、」 「 ── 羊は、俺の、モノだよ。誰にも、渡さない……ね、羊?俺にも(あと)、つけて……?」  自らボタンを外して、彼はシャツをはだけさせた。  露わになった肌は白く透き通っていて、そんな彼の鎖骨を、指でそっとなぞった。   「恥ず、かしいん、だけど……言わなきゃいけない事が、あって」 「ん?」 「その、実は。キスマーク……誰にも付けたことない、から。その。失敗、する、かも」  俺のその発言に、新は固まってしまった。 ( この歳で、つけたことない、とか。流石に引いたか? )  そんな事を考えていたら、新が「は ──── ……」と深い溜息を吐いた。面倒臭いやつだと思われただろうか。 「な、なんか、ごめんな。経験足りなくて。引いた、よな?」  すると、俺のその言葉に「え。何、言ってるの?」と新が吃驚した顔をして。その後、微笑みながら、ゆっくりと俺の耳元に声を落とした。   「最高、だよ。羊がキスマつけるの、俺が初めての人間ってことだろ? ── 今からじっくり。付け方……教えて、あげる」 「ん……っ!お、俺、が付けるん、じゃ……っ、あっ!」    それから、俺の肌を使ってのレクチャーが始まり。  何か所も俺の肌には、赤い痕が散らされ。  俺も、何度も新の肌に必死に吸い付いて。  やっとの思いで成功したのは、20回目のことだった。

ともだちにシェアしよう!