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第30話 改めて実感する想い

 出発前、新から渡された部屋の合鍵(カードキー)。  俺はそれを手に持ち、彼のマンションのオートロックを解除しようとしている。  本当は自分の家に、久し振りに戻ることも考えたんだけど。  今日は、新のベッドで。新の香りに包まれて眠りたくなってしまったのだ。それも、そんな気持ちになってしまったのは彼から聞いた、ロック解除番号のせいだった。  新のマンションはカードキーを翳すと、部屋番号を押下する流れで。その後、続けて『PassCord?』と表示されるので、そこで4桁の数字を押す必要があるのだけれど。   『引かないで、聞いて、ほしい』  そこで、新から告げられた数字の羅列をタッチパネルに向かって押した後、Enterボタンを押した。 ( 0、4、3、0……、うわ。ほんとに、開いた )  新が設定したコードは、俺の誕生日だったのだ。 『4年前に、引っ越した時に設定したんだ。羊の誕生日がどうしても良くて。羊に教えることもないだろうからって、この数字に、したんだけど。あー……本当、勝手に、ごめん。引いた、よな?』 『っ!そんな、こと……っ!ね、新。あのさ。今日、ココに帰ってきて、いい……?』 『ん、いいよ。いつでも自由に出入りして?そのために合鍵(それ)、渡したから』  駅まで見送ろうかと提案したけど「そのまま大阪まで連れて行きたくなってしまうから」と言われて。  新は俺の口唇に軽くキスをすると「じゃ、行ってくる」と部屋を出たのだった。   ( 同期の男相手に、こんな気持ちになるなんて。数週間前の俺じゃ考えられない……ほんと、底なし沼、だな )  風呂から上がって、新に買ってもらったパジャマを纏って。  新がポメラニアンに変身してから今までのことを、彼の部屋のソファに(もた)れながら反芻した。  俺の部屋で繋がって。  このソファ(ココ)で、何度もキスされて。  ミーティングルームで、産業医ルームのベッドで、新のベッドで。  何度もキスと言葉を降り注いでくれた。  本屋で、ポメラニアンカフェで、路地裏で。  俺にひたすら気持ちを伝え続けてくれた。    同期で、仕事ができて、イケメンで。誰にでも分け隔てなく優しい彼。  そんな彼が、俺にだけ熱の籠った瞳を向けて。俺にだけ嘘っぽくない、少年のような微笑みをくれる。  我儘なんて言っているのを聞いたことなんかこれまでなかったのに、俺に関してのことだけは我儘を放つそのことに、嬉しさが込み上げて。心臓がぎゅぅっとなって、堪らない気持ちになった。  時刻は20時過ぎ。今頃、会食も兼ねての打ち合わせ中だろうか。  彼の香りは感じるのに、本人がいない。その現実が無性に寂しさに拍車を掛けた。 「 ── 逢いたい」  ボソッと放ったその言葉は(くう)を彷徨って。そのことに更に寂しさを覚えた。 「 ── 新が、……、好き」  きっと、彼がここにいたら「俺もだよ」と言いながら、優しく激しくキスを落としてくれるだろう。  浴室の鏡に映った、俺の鎖骨から首筋にかけて散りばめられた無数の赤い痕を思い出して、そっとその赤い痕をゆっくりと指でなぞると、さっきまで這っていた彼の口唇や舌の動きが蘇った。  嬉しさと気恥ずかしさと、そして彼の愛を感じて。  お腹の奥が、何だか切なくて、俺はもっと新の香りに包まれたくなって。  俺は、彼の寝室へと移動した。    

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