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第33話 side 犬神:2. 諏訪 羊という男(2)

 酒も、食事も、進んで。諏訪とふたりきり( 部長と事務長が同じ空間にいるが席は離れているのでふたりきりという事にしておいてほしい )で会話をしながら食事をするなんて初めてで、最初は緊張したけど次第にお互いにアルコールが入っていたこともあって砕けてきていた。  そんな中、諏訪がホッと溜息を吐きながら安心したかのように声を上げた。   「はあ~、でも、仕事。落ち着いて良かったあ。明日、実家、帰れないかと思ってた」 「諏訪の実家って、ここらへん、だっけ?毎週末帰ってるの?」 「うーん。都内ではあるんだけど結構遠くてさ。電車乗り継いで1時間はかかるんだよねえ。就職して、あんまり帰れてなかったんだけど、うちのワンコ……あ。そういや犬神に話したことなかったな。実は実家にポメ太っていうポメラニアンがいてさ!めっちゃ可愛いんだ~!見る?写真、見て!」  諏訪は、凄い勢いでスマホを取り出して、待ち受けを俺の前に出した。  そこには真っ黒のふわふわな毛に茶色のまろ眉のポメラニアンが今にも飛び出しそうな勢いで画面に映っていた。 「かわいーッ!ポメ太、最高!」 「ほんとだ。かわいいな。( ポメラニアンもだけど、お前の方が断然 ) ……で?この子に何か、あったのか? 」 「っ。……うん。病気が、見つかって。もう長くなくって、さ。なるべく週末は帰るように、してる」 「……そっか。でも偉いな、諏訪は。往復2時間だろ?ポメ太も、きっと喜んでる」 「そうだと、いいけど。俺はさ、ポメ太をウチの子にするって決めた時から、なるべくポメ太に寂しい思いはさせないようにしようって決めてるんだ。だから、就職して、ひとり暮らし始めて……後悔、してる。もっと実家に帰っておけばよかったって。だから、今、週末実家に帰ってるのは自己満足でしかないんだ。罪滅ぼし、みたいなモンなんだよね」  そう言って、鼻にツンと来たのか少し赤らんだ鼻。薄く水膜が瞳に滲んで、眉をハの字にして微笑む彼が愛おしくて。抱きしめたい衝動に駆られたけど、グッと耐えた。  そんな俺の心情を悟られまいと、諏訪の過去も気になって、俺は口を開いた。 「……そっ、か。それにしても、黒いポメラニアンなんて珍しいな。ポメ太って……どういう経緯で諏訪の家に?ペットショップで?」 「んーん。ポメ太はさ。ポメ太が赤ちゃんの頃に、近所の人から貰ったんだ。5匹の内、母ポメも含めてみーんな茶色だったんだけど。1匹だけ真っ黒で。端っこで……寂しそうにしてたから放って、おけなくて。母さんとふたりで『この子をウチで倖せにしよう』って行ったその日に即決で連れて帰ったんだよね」  その言葉に、過去の記憶が蘇る。  まさか、そんな。有り得る筈がない。  それでも気になって、諏訪の台詞に次いで質問をした。 「……っ、……諏訪の、実家って……八王子……?」 「え、そう、だけど」 「……俺も、実家……八王子、なんだ」 「えっそうなの?すご!もしかしたら、小さい頃どっかで会ってたかもしれないなー」  ふわふわの、茶色い髪の男の子。  あの時の、あの優しい眼差しは……いまだに忘れられない。 「……っ、諏訪、だった、のか」 「へ?」 「……な、んでも、ない。気にしないで」  言われて、16年前の記憶が蘇る。  毎日寂しそうにしてた、あの子を……両手で優しく抱き上げてぎゅ、っと愛おしそうに抱きしめた、あの。 『この子は俺が倖せにするから、この子を俺にください』   ──── あの時の約束をずっと、守ってくれていた。  嬉しさの余り、涙が出そうになって「花粉かも。ちょっとごめん」と俺は持ってたハンカチで慌てて目元を隠したのだった。

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