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第36話 side 犬神:5. 相馬との確執(1)
俺が諏訪に想いを告げられないまま、胸の奥深くに気持ちを溜め込み始めて1年が経とうとしていた時のこと。
俺と諏訪が入社して3年目の春。その時、入社をしてきた者の中で、突出して目立っていたのが、相馬だった。
入社1年目の相馬 慧 。
4分の1、英国 の血を持つクオーター。
二重に翡翠色の瞳。スッと通った鼻筋。綺麗なブロンズヘアのこの男と俺は、相馬が大学時代に、我が社の企業説明会で初めて会った。らしい。
らしいというのは、相馬の存在が、俺には記憶の片隅にもなかったのだ。
去年の夏ごろ、合同企業説明会が都内某所で行われた。
何十社も、何百人も集まったその会場に駆り出されたのは、俺と諏訪と数名の総務のメンバー。朝から夕方まで対応に追われ、気付けば終わっていたそのイベントに、どうやら相馬も参加していたらしいのだ。
参加していた総務の子たちは「あの時の子、入社したんだねー!」と黄色い声を上げていて。何百人もの対応に追われていた筈なのに、記憶に残るとは、相当な印象付けがあったのかもしれない。
俺はといえば、初めて諏訪と外に出掛けることが出来る喜びで頭がいっぱいで。その時の事は、諏訪とどんな会話をしたかとか、ランチは一緒に何を食べたかとか。そんな事しか記憶に残っていなかったのだ。今思い返してもつくづく諏訪バカだな、と思う。それは今も変わらないんだけれど。
そんな相馬が、第2営業部へ配属されて早々、俺の元へ駆けてきた。
「初めまして……!犬神さん、俺、貴方に憧れて、この会社を志望しました!」
「そう、なんだ。よろしく。犬神 新です。君、名前は?」
「っ!相馬、慧といいます!よろしくお願いします!」
相馬は、抜群のセンスと勘の良さと頭の良さと呑み込みの速さで、河瀬さんの下で、メキメキと力をつけていった。
ただ、河瀬さんと俺に懐いている反面、営業事務のメンバー、特に諏訪に酷く当たりが強くて。あまりに気になって、俺は相馬をミーティングルームに呼びつけた。
「相馬。営業事務のメンバー、特に諏訪に対しての態度を改めろ。どうしてあんな態度を取る?理由があるなら教えてほしい」
「あー……、なんていうか」
俺の質問に、答えを逡巡した相馬は「誤魔化しても意味ないし、本音で言いますね」と口を開く。
「諏訪先輩……ヘラヘラしてて、イライラするんですよね。自分がないっていうか。それに、他の営業事務の人たちも。何のためにいるの?って感じ、しません?あの人たち無しでも、営業部隊 が全部出来る。それを、わざわざ。あの人たちに仕事を頼む意味が分からない。そんなことするくらいなら、書類関係は全部、自分で何とかします」
相馬の、諏訪たちを見下すような態度に、ブツっ、と何かが切れた音がした。
俺は、相馬の胸ぐらを掴んで、相馬を壁に打ち付けていた。
打ち付けた衝撃で、ガタン!と大きな音が部屋中に響く。
「ッ!いっ!」
「 ──── いい加減に、しろ」
「……っ、く、るし……っ」
「営業部隊 が伸び伸びと営業に回れるのは、営業 事務 の補助 のお陰だ。履き違えるな」
「……な、ん、だって……?!意味、わか、な……っ、かはっ」
俺は、何度彼らに助けられて、何度彼らと力を合わせて成果を上げただろう。
その全てが、彼らなしには成し得なかったモノで。
それらを全て否定された気持ちになって、胸が苦しくて。
何よりも、諏訪の存在を否定された事に腹が立って、入社して初めての対人トラブルを俺は引き起こしたのだった。
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