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第37話 side 犬神:6. 相馬との確執(2)
俺が相馬を壁に勢いよくぶつけたせいで廊下にいた人が「大丈夫?!なにしてるの?!」とミーティングルームに入って来たのを見て、溜息を吐きながら、相馬から手を離した。
ゴホゴホ咳ばらいをする相馬に、俺はもうひとつ、伝えておきたかった話をした。
「あと。お前がこの前、ひとりで担当した小口案件だけど。お前はひとりで完遂 させたと思っているだろうが、それ。完全に勘違いだからな。あそこの資料、本当は事務長 の担当だったが、彼女の手が回ってなかったから、誰の指示でもなく諏訪が進んで全てを用意して管理してくれている」
騒ぎに気付いた立木部長が駆けつけて、事の経緯を、最初に駆け付けた従業員へ聴取していた。
イライラしすぎて、王子の仮面をすっかり忘れてしまった俺に部長は「犬神、やりすぎだ」と苦言を呈する。
分かっている。分かっているけど、どうしても許せなかった。
「あと、これだけは言わせて。相馬。お前は、周りに対して感謝の気持ちが足りなすぎる。イチから出直せ。そんなんじゃ、営業部隊 ではすぐに使い物にならなくなる」
すると、相馬は俺に今まで見せたことのない鋭い目を向けて、口を開いた。
「分かり、ました。じゃあ、俺がひとりで大口の処理を誰の手も借りずに完遂させたら。犬神さんは俺のこと、認めて、くれますか」
「いいよ。お前のやり方で、大口がこなせるなら。今日の事は頭を地につけてみんなの前でお前に謝ろう。立木部長、今度、河瀬さんと俺でやる予定の鷲宮。あそこを相馬にひとりでやらせてみてください。誰のサポートも入れずに。よろしくお願いします」
「はぁ。取り敢えず、犬神。話を聞こうか。鷲宮をどうするかは、それからだ」
「わかりました」
そして、あの3年前の事件が起きた。
当時から目立っていた相馬にやっかんだ同僚が、俺と相馬のいざこざをダシに、仕上がったデータを改竄 したのだ。
相馬が相手企業の元へ打合せに行く朝。流石に心配になって、こっそりと諏訪に相馬の作成した資料チェックをしてもらった。そこで、資料の改竄を見つけたのだ。
諏訪は「改竄の仕方が、明らかに相馬がやらなさそうなミスだったんだよね。彼、仕事は完ぺきだからさ。しかし、あの膨大な量をひとりで完ぺきに仕上げるなんて、ほんとに凄いよなあ。あ、相馬のミスかな?って誤字は幾つかあったけど。それは、俺が内緒で直しておいたから。ふふ。その事は、さ。相馬には、内緒にしといてあげて?アイツ、変にプライド高いから」だなんておどけてみせる君が、堪らなく愛しくて。
俺はずーっと、頭が上がらないんだよ?諏訪。
ほんとに、君はどこまでも。俺の心を離してくれない。
諏訪の優しさは、底が知れなくて……溺れてしまいそうだ。
あんなに若い奴に、あんな嫌な態度を、される理由もないのに取られて。本当なら相馬の失敗を喜んでもいいだろうに。
でもそんなこと、諏訪は微塵も考えないのだ。
だから、俺はいつまでも君を好きでいるのを、やめられない。ずっと、君を離したくないと。
俺の元へ置いて、囲ってしまいたいと切望してしまう。
そして、それは。アイツも同じだったようで。
あの事件がきっかけで、思わぬ伏兵が生まれてしまった。
「おはよう、ございます。羊、さん」
「?!、お、はよ」
「うわ、ヤバ。めっちゃ、かわい……!なんで、今まで気付けなかったんだ、俺の馬鹿……!」
「へ」
「羊さん。今日、俺の資料、手伝ってほし」
「相馬!コッチ。お前は今からコッチで打合せあるから。諏訪、おはよ。相馬、つれてく」
「犬神さん?!え、今日打合せの予定なんて、なかったはず」
「あるの。今、この瞬間に打合せの必要性が出来た。お前はコッチ」
「っ!羊さん!また、後で!」
「お、おう……???」
慌てて相馬をミーティングルームに引き摺り込んで。
意味の分からない行動の意図を問いただした。
「ちょ、犬神さん、なん、ですか?打合せって、どこの」
「お前、どういう、つもり?」
「え?」
「さっきの。羊さん、って、なに」
俺の言葉に、フ、と愛おしそうに微笑んだ相馬の顔に、間違いなく脳裏に彼がいると理 解 ってしまった。俺も彼を思い浮かべて、たまに顔が勝手に綻んでしまう時があるから、よくわかる。
間違いなく、コイツは。
「ああ……俺、あの人が。羊さんが、好きです。恋愛的な意味で。男が恋愛対象になるなんて、初めての事で自分でも戸惑ってるけど……でも。あの人のこと、誰にも、渡したく、ない」
「……へぇ?」
「勿論、貴方にも。絶対、負けない」
「俺も……お前にも、誰にも。負けるつもりは、ないよ。ただ、諏訪を困らせるつもりも、ない」
「そんな生温い考えなら、俺が横から奪いに行きます。俺はいきますよ。羊さんを、絶対に手に入れたい。でもあの人、恋愛対象女性だから……頑張りましょう?お互いに」
ニッコリと、明らかに表向きの笑顔で相馬は俺に宣戦布告をした。
諏訪を誰にも渡したくない気持ちとは裏腹に、諏訪にこの気持ちを伝える勇気も持てなくて。
ここから俺のストレスは……加速度を、増した。
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