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第40話 食堂での出来事(1)
第3営業部の助っ人は、予定より大幅に短縮をして終える事が出来た。朝イチから、一番の大難関である書類の処理を、第3営業部事務の主力になるであろう日下部 と堂前 に叩き込んだ。
「諏訪先輩……っ、こ、これ……マジで今までひとりで……?!ありえないんスけどぉ」
そう涙ながらに放ったのは入社3年目の日下部だ。うわっ!と突っ伏した勢いのままに、ふわふわの天然パーマが揺れる。
その日下部の肩にポンと手を置いたのは堂前。長い黒髪を後ろで結えて団子にしている彼女は、入社3年目のメンバーの中でも群を抜いて美しい作画で、営業部隊に是非と内定時に言われていたが「尊敬する先輩の下で働きたいので事務がいいです」と芯の強さを見せていた。
そんな彼女が尊敬してやまない先輩こそ、我が部の事務長である洲崎女史、その人である。
「日下部くん、諏訪先輩のエゲつない処理能力は今に始まった事じゃないのよ?なんてったってあの洲崎事務長の右腕なんだからっ!諏訪先輩っ!私たちに!半日で!是非ご伝授願いますっ!」
「おっ、おう……!アツいな堂前……!が、がんばろ」
本来なら予定ではもう少し時間がいるかなと踏んでいた作業の指導も、ポテンシャルの高さと満ち溢れるやる気により昼休憩開始時刻である12時には終える事が出来た。このふたりがこの作業を理解してくれれば、大口も問題なくこなせるだろう。
「諏訪先輩……っ!本当にありがとございましたっ!最初は、大口なんてできる自信なくてどうなる事かと思っていたけど…!先輩のお陰で自信つきました!処理困る事まだまだあるかもなんで、その時は内線させてください!」
「諏訪先輩、私も。日下部とおんなじ気持ちです。先輩がいてくださって、心強いです。これからも、よろしくお願いします」
「うん、俺も。今回の件で自分に自信、つける事が出来たよ。ふたりとも、ありがとう。これからも部署は違うけど何でも俺でよければ力になるから、連絡して?」
きっと、先週までの俺だったら第3営業部での 指導 なんて、自信がなくて引き受けていないかもしれない。
俺に動くための力を与えてくれた彼の顔が思い浮かんで、心臓が少しだけキュッ、となった。
今夜逢ったら、俺の気持ちと……そしてあの写真のこと。直接、新の顔を見て話をしたい。
「諏訪先輩……っ!あざます!お昼!お昼一緒に食べたいです!」
「わたしも。行きましょ、今日の日替わりは鯖の味噌煮とハンバーグですよ!」
「うわー……どっちにするか、悩むな。よし、行くか」
この半日で一気に仲が良くなった俺たちは一緒に、食堂でランチを食べる事になった。
食欲旺盛な日下部は、唐揚げてんこ盛りのスペシャルランチ。堂前は日替わりランチAセット。今日のメニューは鯖の味噌煮らしい。
ふたりは先に頼んで、即座に出てきた昼食を持って「席取っておくんでゆっくり選んで下さい!」と4人掛けのテーブルに向かっていった。
俺はというと、日替わりランチのAかBかで悩んでいた。ちなみに今日のBセットはハンバーグらしい。究極の選択すぎる。
むむむ、と悩んでいた俺の横に、トントンと肩をたたく人物が現れた。相馬だ。
「羊さん?おつかれさまです。どうしたんですか?もしかして……ランチメニューで悩んでる?」
「おつかれー。そうなんだよー!ハンバーグか鯖の味噌煮……どっちも食べたいけどふたつも無理だしなあって……」
「っ。あー……もう。かわいすぎ……、んんっ。じゃ、俺Aにしますから、羊さんBにしたら?半分こしません?俺も、どっちも食べたいし」
「マジ?うわー!相馬いい男すぎる!ありがとうー!ほんと優しいな。仕事も出来て恰好良くて優しいなんて……モテるのも、頷けるわ」
相馬も新同様、社内でも付き合いたいと言っている女子や男子の声をよく耳にする。あんなに入社当時はトゲトゲしていた彼もここまで丸くなるなんて。人ってほんと変わるモノだなあと沁みじみして思わず口にしてしまった。
改めて出てしまった言葉が少しおじいちゃんくさかったかも?と恥ずかしくなった俺は「ごめん、気にしないで」と軽く訂正して、相馬から顔を逸らして社食が出来上がるのを待った。
「 …… ── こんなこと。貴方にしか、しない」
「へ?なんか、言った?」
「いえ。なんでも。あ、もう出来たみたいですよ。さすが、ここの社食は早いですね。取りにいきましょ」
相馬の台詞はイマイチ聞き取れなくて。聞き返したけど、何でもないと言われてしまえば蒸し返すのも変だしなと気にしないようにして。
俺は、Bランチをおばちゃんから受け取ったのだった。
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