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第43話 伝えたい言葉
「っ、新……っ!」
「え、このワンコ、まさか、犬神さん……!?ほんとに、犬に……?!」
驚いている相馬に向かってキャンキャン!と黒いポメラニアンは吠えている。
そこへ、出張から帰ってきたらしい河瀬部長と柿崎が息を切らしながらやって来た。河瀬部長の手には、昨日新が来ていたスーツ一式がある。
「犬神……っ!ちょ、おち、つけ……っ!」
「ウーッ!ワン!ワンワンッ!」
俺は、ポメラニアンが好きだ。
だってあんなに小さくて可愛くてふわふわな見た目なのに、勇敢にご主人を守るために吠えるその様 は、とてもかっこいいから。
でも、それよりも。もっと、ずっと。
── 大切な人が、できた。
「相馬、ごめん。俺、お前の気持ちに応える事は、絶対にできない。俺には大事な人が、もう、いるから」
「え……?」
俺の言葉に、相馬の手の力が緩む。
ちゃんと自分の言葉で。彼 ── 新 に、伝えなくちゃいけない。
「おいで。新。俺に新のこと、抱っこさせて?」
はっ、はっ、と荒い息遣いで。尻尾を左右に揺らしながら俺のところへ駆け寄ったポメラニアンを俺はそっと抱き上げた。
俺を見つめるその表情は、瞳がキラキラしていて。口角が上がっていて嬉しそうで。
愛しくて、しょうがない。
「不安にさせて、寂しい思いさせてごめん。あと、返事も。遅くなってごめん」
ポメ太のことも、あの写真のことも。
聞きたいことはたくさんあるけど……でもそれよりも。
「こんな感情、生れて初めてで。答えが分からなくて、自分に自信もなかったから……でも、今ならハッキリと言えるよ」
俺は、この気持ちを ── ずっと、君に伝えたくてしょうがなかったんだ。
「好きだ、新。俺のこと、これからずっと ── 離さないで、いて……?」
見つめながら、そう伝えると、目の前のポメラニアンはぺろっと俺の口唇をひと舐めして。
ぼふん!とヒト型へ変貌を遂げた。
全速力で仮眠室にあるシーツを持ってきてくれた立木部長が、煙が消える前に新の身体をシーツで隠した。
立木部長がどうしてここに?!と吃驚してる俺に「洲崎から連絡もらったんだ。間に合って、よかった」と立木部長が教えてくれた。
新がポメ化することを伝えた際に、ヒト型へ変わる時は真っ裸だというのを伝えてあった事も功を奏した様で、さすがというべきか。部長クラスともなると察し力が桁違いだなと改めて感心したのだった。
「部長、ありがとうございます。さすがですね」
「犬神、これ。服も着た方がいい。諏訪。大事なシーンで水を差して悪かった……!しかしな、犬神の身体を他人に見せるのは諏訪に悪いと思ってだな……!続き、どうぞ!」
「続き、って、」
そういえば、相馬に抱き着かれてからずっと。第3営業部にいるみんなには見られていて。
一連の流れを思い返してあまりの恥ずかしさに、顔に熱が集中した。
「うあ、ちょ、ごめ、俺なにやって……!」
「 ── 羊 ……?」
新に名前を呼ばれて、嬉しくて咄嗟に顔を向けると。
いつの間にか服を着ていた新の顔が目の前にあって。
ちゅ、と音を立てて口付けをされた。
「っ!」
「嬉しい。やっと気持ち……聞けた。俺もお前が好き。ずっと、ずっと、昔から。お前がどれだけ離れたがっても俺はお前のこと、一生離さないから ── 覚悟、して」
熱の籠った瞳で見つめられて、新のことしか見えなくなる。
ゆっくりと落ちてきた口唇を抗えずに、何度も、何度も口唇を啄まれた。
口唇がゆっくり離れたと同時に「いますぐ帰ろう。羊に話さないといけないことが沢山ある」と言われて、俺は職場でみんなに見られながら告白とキスをしてしまったことが今更になって恥ずかしくなって、新の胸に顔を埋めながらコクンと頷いた。
「部長、今日は諏訪と早退します。明日また挽回するんで、すみませんが。」
「お前の病気のことも関係しているんだろう?産業医には『この病気は未知すぎるから、病気絡みはそっちを優先させるように』と言われていてな。大丈夫。今日はもう帰りなさい」
その言葉を受けて、新とふたりで営業部を後にしたのだけれど。
エレベーターに乗った瞬間、叫声がエレベーターを揺らした。
「うお、なに、すご」
「羊」
呼ばれたその声に顔を向けると、口付けが待っていて。
「ん、あらた」
「好きだよ。今夜は、寝かさないから」
「 ── っ!わか、ってる。そのつもり、だし。それに……俺も、新とシた、かっ、ん」
「……っ、好きだ。離さない。ずっと」
エレベーターが下に降りるまで続いたキスは、会社の前に停まっていたタクシーの中でもずっと続いて。
新のマンションのエレベーターの中でも、何度も降り注いだ。
そして。
「昨日の電話のキスも良かったけど……やっぱり羊の口唇に直接触れられる方が俺は好きだ。 ── 口、開けて……?」
「……っ、……俺も……ん、」
新の部屋に入った玄関先で、壁ドン状態で見つめられて。
お互いに何度も、口唇を求め合ったのだった。
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