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番外編:ふたりのその後 ①
「ちっさ……」
「あぅあー」
「……っ!かんわい……っ!」
俺の腕の中には、宇宙語を話す愛くるしい生物。ほんの少しでも力を強めたら壊れてしまいそうな、そんな存在を俺は今ドキドキしながら優しく両腕で抱えながらその可愛さにメロメロになっている。
じっ、とそのクリクリの大きな瞳を持つ小さな存在を見つめると、その子は小さな口唇を少し開けて、俺と新の顔をじーっと見つめている。そして、柔らかく、ふにゃ、と微笑んで愛らしい笑顔を見せたその天使は、洲崎さんと立木部長の生まれたばかりの赤ちゃんだ。
「めちゃカワ……!それにしても事務長がお母さんなんて……!まじで考えられないです!」
「ちょっとちょっと日下部くん……?失礼だぞ、撤回しなさい!」
「まあ……洲崎さんがお母さんってイメージないよな。分かる」
「諏訪くんもいよいよ遠慮がなくなってきたわね……?」
今日は立木部長の家に、出産祝いを渡しに来ている。本当は俺と新のふたりだけで伺う予定だったのだけど。
そこへ、俺たちの週末の予定を聞きつけた洲崎ファンである堂前が「洲崎さん の赤ちゃんを拝みたいです!」と日下部を引き連れて勢いよく名乗りを上げたのだけど、生まれたばかりの赤ちゃんがいる家に、ぞろぞろ4人も見知らぬ大人が伺っても大丈夫なのか?と堂前が名乗り出たその流れで横にいた立木部長に確認した。
「堂前たちを先にして、俺たち……俺と犬神、行く日程ずらしましょうか?」
「ああ、何だ。気にしてくれたのか。大丈夫。堂前と日下部と一緒に、4人でおいで。玲 もきっと喜ぶ」
言いながら、倖せそうにふわっと微笑んだ部長は、恰好良い旦那さんの風格そのもので。部長の株が少し上がったのは記憶に新しい。
しかし。しかしだ。
まさか、立木部長と洲崎さんが……結婚。しかも、お子さんまで産まれるなんて。誰もが予想できなかった事態に2人から結婚&妊娠、そして洲崎さんが産休に数か月後に入るという報告に営業部の当時のどよめきったらなかった。
唯一、新だけは気付いていたようで。俺と新だけミーティングルームに呼び出されて、今後の話をしていた時に新が口を開いた。
「部長、ずっと……洲崎さんの事、愛してましたもんね」
「ちょっ!犬、神……っ?!」
「ええええ……?!新、知ってたの……?!」
「知ってたも何も。見てたら分かるよ?部長……態度に出まくってたから」
「うっそぉ。犬神くんいつから気付いてたの……?」
「4人で戦場を潜り抜けた辺りくらいからですかね。あの後からふたりの空気感、変わりましたよね」
「……っさすが……!営業部エース……!」
「え?えええ?あの時、何か、あったの……?!」
ちょいちょい、と洲崎さんに手招きされて。俺は誘われるままに彼女の方へススス……と移動する。
「あ、犬神くん誤解なしで。大きい声じゃ言えないの。耳打ちするだけだから」
「いや、俺もそこまで嫉妬深くありませんよ」
「そ?じゃあ、遠慮なく」
洲崎さんは俺の耳に手を当ててコッソリと小声で「あの時酔っ払った勢いで立木くんと関係持っちゃって。それからずっとセフレだったんだよね」と爆弾発言を放ったのだ。
「……っ!そ、う……だったん、すね……!」
「犬神くんの病気――ワンちゃんの。あの病気の事がキッカケで立木くんが何を勘違いしたのか立木くん『お前を誰にも獲られたくない』って言い始めて」
「えっ」
「ちょ!玲!」
「れい」
「こら。立木くん?ココ、会社。会社では洲崎って呼んで」
「わっ!分かっている!しかしなにもそんな赤裸々にだな!」
「あ、そういえば部長、前に……俺に洲崎さんとの仲を勘繰ってきたことあったな……もしかして、あの時……?」
「ああ。羊が第3にヘルプに行こうとしていた時のことか」
「犬神、記憶力が良すぎる……」
「有り得ない勘繰りでしたからね。苛つくことをされた記憶は鮮明に残ってるんですよ」
「こわいこわいこわい」
どうやら話を紐解くと。立木部長は入社当初から洲崎さんのことが気になっていたらしい。まあコレだけ美人で仕事も出来て気さくな人が同期だと……あてられてもしょうがないかもしれない。しかし、彼女は生粋の腐女子。現実世界の男子に興味がないと言われてしまえば部長も出鼻を挫かれる。
そして部長は、洲崎さんじゃない別の女性と何度も交際をしたらしいのだが、しっくり来ず別れるを繰り返していたらしい。部長の頭に浮かぶのはずーっと洲崎さんしかいなかったそうだ。
その内、洲崎さんも相手を作らないなら自分も作らないという方向へシフトチェンジして数年。あの戦場の後、4人で居酒屋へ行き、テーブルが分かれ、2人で飲み明かし。俺たちと別れた後、部長の家で飲み直す事になり。
その時に「立木くんとなら……寝れるかも。試しにキスしよっか」と酔っ払った洲崎さんにキスをされてプツンと理性が切れたらしい。
そこから6年……「付き合うとか重い事したくないし、身体を繋げるだけのラフな関係でいいよね」と彼女に提案されてそれをオッケーしていた部長。その間、彼女に寄っていこうとする悪い虫をしごでき部長は彼女が気付かないところでキレイに取り払っていたらしい。すごい。
6年。片想いし始めて10年。なんたる激重感情。ありえない。すごすぎる。
洲崎さんが病院に行くために早退した時。あの時には妊娠していたらしい。
お互いに同意の上で、何も纏わず肌を重ねたのがキッカケで、やって来てくれたこの子には感謝している、と2人ともが顔を真っ赤にしながら話していて。
洲崎さんは包み隠さず全てを話ししてくれたのだけど、横で「合ってる?立木くん」と聞くたびに部長は顔を真っ赤にしながら「む……いや、そう、だな」と言って否定も肯定も丁寧にしている様子を見て、何だか胸がじわじわ暖かくなった。
「――羊……?」
「へ?なに?」
「嬉しそう、だな」
「うん……嬉しいよ。大好きな2人が、倖せそうだから」
「そっか。俺も、お前が嬉しそうで、嬉しいよ」
「こらこら、そこ2人。目の保養なんだけど、目の前でイチャイチャしない。こういうのは隠れてコッソリ見るのが楽しいの。でも……諏訪くん。犬神くんも。子供が生まれたら、遊びに来て。2人に抱っこしてほしい」
「分かりました。行きます。必ず」
そうして、7か月後。
洲崎さんは元気な女の子を産んだのだ。
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