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第6話 気づき

 顔を洗って戻ってくると、すでに騎士らが数人起き出してきて、ノアが出しておいたハムやらチーズやらを適当に炙って朝食を食べ始めていた。 「おはよう、昨日はよく眠れた?」  トッドとは別の若い騎士が、戻ってきたノアに気づいて声をかけてくれた。 「はい、ありがとうございます」  ローグやトッドよりは体の大きくない騎士に、なぜかほっとして返事をすると、トッドがちらりとこちらを見て、体ごと少し向きを変えた。  さっき話をした時のムカムカはとうに消え失せており、ノアは知らぬふりをして食事の支度の続きをした。  夜番で出ていた人数は二名とのこと。  二名分の朝食を皿にとりわけ、食べ終わった騎士たちから食器を集め直す。  運んできた桶の中の水にどんどんとつっこんで、後でまとめて川で洗うことにした。 「君名前なんだっけ」  先ほどの騎士に尋ねられ、ノアですと簡単に返す。 「ノアくんね。多分だけど、かなり煙あびたんじゃない。」 「えっ、匂いますか。臭いですか」  ほんのりと微笑んだままの顔が答えだった。 「俺らも人のこと言えないけど、その匂いは人の汗と混じると蜂が寄ってくるから、洗ったほうがいいよ」 「――――えっ!」  薪を出しておかなかった自分も悪かったけれど、恨めしい気持ちになるのは止められなかった。  結局、急いで食事の支度を終えてから、ノアは騎士たち全員から、昨日の服を集めて回ることになった。  自分のを洗うなら、全員分洗ってしまえ。  そう思ったからだ。  たかが服と言っても、騎士たちの服はでかいしかさばる。  次々集めては鞄に放り込み、それから自分もローグの天幕に戻ってから服を着替え――煙たいまま天幕に入るのに、ローグにはちゃんと断りを入れた。ものすごく笑われた。  着替えて天幕を出たら、すぐにローグにとっ捕まって、服の首の後ろを手近な革紐で縛られた。 「脱ぎにくかったら呼べよ」 「はい。ありがとうございます」  食器を突っ込んだ桶を持ち、川へと向かう。  お下がりの腰履きは少し大きくて、ノアは途中で腰の紐を結び直した。 「俺らも手伝うよ。」  川でまず食器を洗っていると、先ほどの騎士と数名がやってきた。 「あ、ありがとうございます。でも仕事ですし」 「俺ロアンね。蜂が来る前に水に浸かっておいでよ。俺も蜂嫌いだし、寄ってきて欲しくない」 「行ってきます」  すっくと立ち上がったノアに、ロアンと一緒に来た他の騎士たちも「俺もー」などと言いながら次々服を脱いでいった。  その様子に苦笑いしたロアンも、桶を下に置いてノアに笑いかけた。 「これ後でいっか。俺らも体流そうぜ」 「――うん!」  なんだか楽しくなって、ノアも羽織に手をかけた。  一瞬だけ、昨日のことが頭をよぎったが、そんなことばかり気にしていては、ここではやっていけない。  さっと羽織と腰履きを脱ぎ去ると、近くの木の枝に引っ掛けて、冷たい川の中へと飛び込んだ。 「冷たい!」 「そら!」  冷たさに声を上げると、先に入っていた騎士に頭から水しぶきをかけられて、ぎゃあと声を上げる。  お返しにえいやと水をかけて、かけあっているうちにもみくちゃになって笑い合った。  水遊び――もはや水浴びではなかった――に付き合ったロアンら若い騎士たちは、トッドや他の騎士も含めて、ローグとはもう三年ほど二なるという。  毎年このエリアへ警戒に来て、二月ほどを少人数で過ごすという。  話の中で、彼らにとってローグは上官のような、年長の家族のような存在だと知れた。 「なあ、ノア。昨日ローグさんと寝たんだろ?」 「あ?うん」  騎士の一人——ルガークが、耳の下をとんとんと指差すので、ああ、と気づく。 「そうだった。痒くないけど虫刺されかもなんだった。あとで薬撒いとかないと」 「ぶっは、違うだろそれ」  ルガークが吹き出して言うので、何がだ?と思いながら、体を拭いて、羽織をかぶる。 「ローグさんの牽制だろ。見えるとこだけって、普通逆だし。」 「……は?」  話がよく見えなくて耳の下に触れ、それから昨晩のことを思い出した。   「わざわざ言うなよ……。俺らへの警告なんだろうし」  ため息をついたロアンの言葉に、昨晩のことが一気に繋がった。 「ノアにも言ってないんだろ」  ルガークも黙り込み、水の流れる音だけが辺りを支配した。  その静けさに、ローグの声が耳元でよみがえった。 「――は、……え?!」  耳の下を押さえた手に、触れる耳たぶが熱くなっていた。  

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