6 / 12
第6話 気づき
顔を洗って戻ってくると、すでに騎士らが数人起き出してきて、ノアが出しておいたハムやらチーズやらを適当に炙って朝食を食べ始めていた。
「おはよう、昨日はよく眠れた?」
トッドとは別の若い騎士が、戻ってきたノアに気づいて声をかけてくれた。
「はい、ありがとうございます」
ローグやトッドよりは体の大きくない騎士に、なぜかほっとして返事をすると、トッドがちらりとこちらを見て、体ごと少し向きを変えた。
さっき話をした時のムカムカはとうに消え失せており、ノアは知らぬふりをして食事の支度の続きをした。
夜番で出ていた人数は二名とのこと。
二名分の朝食を皿にとりわけ、食べ終わった騎士たちから食器を集め直す。
運んできた桶の中の水にどんどんとつっこんで、後でまとめて川で洗うことにした。
「君名前なんだっけ」
先ほどの騎士に尋ねられ、ノアですと簡単に返す。
「ノアくんね。多分だけど、かなり煙あびたんじゃない。」
「えっ、匂いますか。臭いですか」
ほんのりと微笑んだままの顔が答えだった。
「俺らも人のこと言えないけど、その匂いは人の汗と混じると蜂が寄ってくるから、洗ったほうがいいよ」
「――――えっ!」
薪を出しておかなかった自分も悪かったけれど、恨めしい気持ちになるのは止められなかった。
結局、急いで食事の支度を終えてから、ノアは騎士たち全員から、昨日の服を集めて回ることになった。
自分のを洗うなら、全員分洗ってしまえ。
そう思ったからだ。
たかが服と言っても、騎士たちの服はでかいしかさばる。
次々集めては鞄に放り込み、それから自分もローグの天幕に戻ってから服を着替え――煙たいまま天幕に入るのに、ローグにはちゃんと断りを入れた。ものすごく笑われた。
着替えて天幕を出たら、すぐにローグにとっ捕まって、服の首の後ろを手近な革紐で縛られた。
「脱ぎにくかったら呼べよ」
「はい。ありがとうございます」
食器を突っ込んだ桶を持ち、川へと向かう。
お下がりの腰履きは少し大きくて、ノアは途中で腰の紐を結び直した。
「俺らも手伝うよ。」
川でまず食器を洗っていると、先ほどの騎士と数名がやってきた。
「あ、ありがとうございます。でも仕事ですし」
「俺ロアンね。蜂が来る前に水に浸かっておいでよ。俺も蜂嫌いだし、寄ってきて欲しくない」
「行ってきます」
すっくと立ち上がったノアに、ロアンと一緒に来た他の騎士たちも「俺もー」などと言いながら次々服を脱いでいった。
その様子に苦笑いしたロアンも、桶を下に置いてノアに笑いかけた。
「これ後でいっか。俺らも体流そうぜ」
「――うん!」
なんだか楽しくなって、ノアも羽織に手をかけた。
一瞬だけ、昨日のことが頭をよぎったが、そんなことばかり気にしていては、ここではやっていけない。
さっと羽織と腰履きを脱ぎ去ると、近くの木の枝に引っ掛けて、冷たい川の中へと飛び込んだ。
「冷たい!」
「そら!」
冷たさに声を上げると、先に入っていた騎士に頭から水しぶきをかけられて、ぎゃあと声を上げる。
お返しにえいやと水をかけて、かけあっているうちにもみくちゃになって笑い合った。
水遊び――もはや水浴びではなかった――に付き合ったロアンら若い騎士たちは、トッドや他の騎士も含めて、ローグとはもう三年ほど二なるという。
毎年このエリアへ警戒に来て、二月ほどを少人数で過ごすという。
話の中で、彼らにとってローグは上官のような、年長の家族のような存在だと知れた。
「なあ、ノア。昨日ローグさんと寝たんだろ?」
「あ?うん」
騎士の一人——ルガークが、耳の下をとんとんと指差すので、ああ、と気づく。
「そうだった。痒くないけど虫刺されかもなんだった。あとで薬撒いとかないと」
「ぶっは、違うだろそれ」
ルガークが吹き出して言うので、何がだ?と思いながら、体を拭いて、羽織をかぶる。
「ローグさんの牽制だろ。見えるとこだけって、普通逆だし。」
「……は?」
話がよく見えなくて耳の下に触れ、それから昨晩のことを思い出した。
「わざわざ言うなよ……。俺らへの警告なんだろうし」
ため息をついたロアンの言葉に、昨晩のことが一気に繋がった。
「ノアにも言ってないんだろ」
ルガークも黙り込み、水の流れる音だけが辺りを支配した。
その静けさに、ローグの声が耳元でよみがえった。
「――は、……え?!」
耳の下を押さえた手に、触れる耳たぶが熱くなっていた。
ともだちにシェアしよう!

