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第10話 ぬくもり
戻ってきたロアンから樽を受け取り、鞄の中にしまい直した。
ここの騎士達を信用していないわけではないが、酒は時に判断力を奪ってしまう。
おそらく、あの時のトッドも同じだ。
鍋に残った汁物を、自分用に器によそい、空になった鍋の中に川の水を流し込んでおいた
泥水は実は油汚れに強い。
獣の肉を使った鍋も、これで明日楽に洗えるはずだ。
それから洗い桶を出してきて、火の周りに集まる騎士達に声をかける。
「寝る前に濡れた服替えといてください。明日洗うんで、ここに入れてくれますか」
「おー、ありがとう」
ロアンがそう応えて、それから幾人かも手をあげたりして反応してくれた。
体を拭くための布も用意して、タープの下に置いておく。
少し考えてから、在庫に余裕のある木の実も器に盛っておいた。
「おい」
そこまでしたところで、後ろから声をかけられて振り返る。
手首を取られて、それからその手を指先に持ち替えられた。
「お前が冷えてんじゃねえか。こっち来い」
ぐいと手を引かれて、そのまま背中を押されて少しつんのめった。
まだ、朝の水の用意ができていなくて、慌てて体勢を持ち直そうとする。
「っあ、まだ明日の、水の準備が」
しかし、ローグの腕がそれを許さず、腰に手を回されてずるずると引きずられた。
「お前まだ飯も食ってねえだろ、どれだよ」
「よけてあります、大丈夫です」
ローグの足が止まり、それから器によそった汁物を手に取り――、
「ちっ、冷えてんじゃねえか」
器ごと火の前に連行された。
不様な格好で火の前に座らされ、いく人かの騎士から笑って出迎えられた。
「ノア、あと何が残ってんだよ」
騎士の言葉に、ローグが返す。
「朝の水がまだだとさ」
「俺やっときます」
騎士がさっと立ち上がると、ノアの頭がローグに押さえつけられた。
「お前は食え。」
逆らっても何もできない空気を感じ取って、目の前に突き出された器と、カップを手に取った。
「……はい」
冷えた汁物を口に含み、少し残っていた肉を喰む。
ローグの手はまだ頭上にあった。
それが少し気になったまま、ノアはカップから飲み物を飲んだ。
「っぶ、――これ、お酒ですか」
先ほど騎士達に配ったはずの酒が、お湯で薄められて入っていた。
「トッドは今日はいらねえんだと。もったいねえから飲んどけよ」
横からデルタさんが言い、火の向こうでトッドがそっと目をそらした。
「えっ、トッドさんお酒ダメでしたっけ……、って」
ローグから軽く頭をはたかれた。
痛みにむっとしてローグを睨みあげると、ローグが少しだけ顔を寄せて、小声で言った。
「あれで反省してんだ、ほっとけ」
思わずトッドの方を見そうになり、もう一度はたかれた。
「……すみません」
「ん」
今度は逆らわずに、カップから温かい酒を含み、口の中で転がす。
甘いわけでも、香りがいいわけでも、泡立ちが口の中をすすぐわけでもない。
ノアにとって、この手の蒸留酒のうまさはまだ未開の領域だった。
戻ってきた騎士が他の者に声をかけ、それからデルタが立ち上がった。
「ノア、だっけな。俺らはもう休むから、あんたもそこの王様の言うこと聞いて、さっさと食って飲んで寝てくれ。
そろそろそいつも休ませてやんねえと」
「ほっとけ」
デルタの言葉にローグが返して、デルタがまた肩をすくめた。
「頼むぜ」
頭を下げて応えると、デルタはきびすを返して自分たちの天幕へと戻っていった。
「……気にすんな。ゆっくり食え」
――そういうわけにもいかない、けど。
「はい」
カップの中身を減らすのは、ノアにとっては少し荷が重かった。
「寝るぞ」
手元からカップを取り上げられて、赤く息づく熾火に焦点があった。
取り上げられた先を見上げると、ローグがこちらを見下ろしていた。
「寝てんのか、立てるか?」
頷いて、立ち上がる。
まっすぐ立てなくて、一歩足を踏み出すと、強く腕を掴まれた。
そのまま腕を引かれて歩く。
掴まれたところが温かくて、引かれるままについていくと、頭を押し下げられて天幕に押し込まれ、世界がぐあんと回った。
「ぅ……わ」
両手をついて天幕の中に転がり込むと、そのまま足を取られて、靴を脱がされた。
「ひやあ」
「飲み慣れねえなら言えよ……。ほら、そっちも」
促されてもう片方の足を曲げると、そちらも靴を脱がされて、乾いた布で足の裏をぐいぐいと拭かれた。
「ひははっ、くすぐったい」
「我慢しろ」
言いながら脚を叩かれて、笑い声が漏れた。
足を解放されて、それから体を起こされる。
鞄を取り上げられて襟元を緩められ、
ベルトを外されて、上衣の裾を上げられる。
「……お前、危機感って知ってるか?」
目の前のローグの鎧の繋ぎ目が歪んでいるのが気になって、指でその歪みをなぞっていると、頭上からため息が降ってきた。
「はい?」
見上げたローグの顔は、明かりの影になって暗かった。
「……寝ろ。」
ローグはそれきり黙り込んで、ノアは寝床に押し込まれた。
冷えた寝床が少し嫌で、ノアはぬくもりの方へと身を寄せた。
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