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第11話 朝餉

 無性に喉が渇いて、ぱちっと目が覚めた。  何か温かいものにしがみついていたのに気づき、体の下にローグを敷いていたと知って跳ね起きた。 「……起きたか」  すぐ近くからローグのかすれた声がして、起こしてしまったことに申し訳なくなった。 「す……みません、重たかったですよね」  慌てて寝床から撤退しようとして、ローグの腕に引き止められた。  ローグの方を向いて転がり、明け方の空気に冷えた肩が、寝床の温もりにじんわりとゆるむ。 「まだ早い。寝とけ」  それからローグは、目の上を手のひらで揉んで、顔を撫でおろした。 「俺も、もう少し寝る……」  大きくあくびをして、ローグが体を横に向けた。  目の前に現れた喉仏が小さく動くのを見て、ノアは目を伏せた。  天幕の外は確かにまだ暗く、早い時間帯だと知れた。  あまりに早い時間から動き出せば、他の騎士達を起こしてしまいかねない。  喉の渇きは気になったが、ノアはもう少し転がっておくことにした。  再び意識が浮上すると、あたりは薄ぼんやりと明るくなり、そろそろ起き出す時間だと知れた。  目線だけでローグの様子を伺う。  眉間からは力が抜けて、口元は薄く開いていた。  胸がゆっくりと上下して寝息は深く、ノアの腕を掴んでいた手のひらからも力が抜けていた。  よく寝ている。  そう判断して、ローグのふくらはぎに絡めていた足をそうっと外した。  毛皮からはみ出した足が冷えていたらしい。  こんなところですっかり甘えていたことに、気恥ずかしくなった。  できるだけ静かに寝床から抜け出して、そのまま靴に足だけ突っ込んでから天幕を抜け出す。  天幕から離れながら、緩んでいた襟元を直していると、消えかけた火を掻き回していたルガークが振り返った。 「おぉ……、ノアおはよう」 「おはようルガーク。昨日はお疲れ様。お茶でも淹れようか」 「あー、……先服直せよ。あと、スープかなんかがいいな」 「ん」  薪をルガークの隣に置いてやって、それから裾をしまう。  下衣のボタンを止め直してから、ベルトのないのに気がついた。 「あれ」  腰回りをなで探ってから、昨日ローグに取り去られたことに気がついた。  鞄は持ってきたのに、すっかり忘れていた。  せっかく抜けてきた天幕に戻る気になれず、ひとまず放っておくことにした。  一杯水を飲み、昨晩仕込んでおいた汁物の鍋を持ち上げ、ルガークが調整してくれた火にかける。  少し味をみて、塩気とスパイスを足しなおしてから、ぐっと腰を伸ばした。 「へそ見えてんよ」  火の前から見上げたルガークに指摘され、伸びをやめる。   「ベルト忘れてきた」 「えっろ」 「……はあ?」 「俺も女のとこにそういう置き土産する朝が欲しい」  薪を足しながら言うルガークに、ちょっとだけ笑った。 「騎士が装備忘れてきたらダメだろ。大失態じゃん」 「わあ、確かに!」  徹夜明けのテンションなのか、妄想に意識を飛ばすルガークは置いておいて、ふつふつ煮立ってきたスープをかき混ぜる。  少し火から遠ざけて、それから朝食用のパンを取り出した。  鞄の中に入れておけば傷みにくいとはいえ、そろそろ硬くなってきていた。  手でちぎって器に入れ、スープを注いで沈める。 「食いなよ。あと一人ももう戻ってる?」  受け取りながら礼を言ったルガークは、ノアの斜め後ろに向かって大きく手を振った。  振り返ると、拠点の外から騎士が一人こちらへ向かって歩いており、手を振りかえしていた。  人数分の器を出して、次々とパンを放り込んでいく。  あとは勝手にやるだろう。  そう判断し、昨日の片付けの続きをするために火のそばを離れた。  ぞろぞろと起き出してきた騎士達は、食事を終えると次々と装備を整え出した。  特に、本隊から指定して持たされた枯れ木の束を、各々が腰にくくりつけており、不思議に感じた。 「ロアン、これなんなの?」  先に装備を整えてから火のそばでスープをすすっていたロアンに尋ねると、ロアンは枝をほんの少し折りとって、火の中に放り込んだ。  ツンとした、スパイスのような香りが漂い、ノアの胃袋を刺激する。 「なんの匂い?」 「魔獣が嫌がる匂いだよ。ホーリークローブっていうけど、まあ、ようは狼よけ」 「狼よけ」  頷いたロアンは、パンを口に運んで、飲み込んでからまた口を開いた。 「この時期はあくまで警戒だから、人里に出さない、奴らの縄張りに帰す、拠点のエリアを守る。これが一番。  だから、基本的には嫌な匂いで追い返すんだ。」 「……へえ、そうなんだ」 「だけど、雨が降ると匂いが流れるだろ。だから俺らはまたマーキングして回るんだよ」  そう言いながら、ロアンはまた少し枝を折りとって火の中にくべた。 「あっはは。こっちがマーキングするんだ」 「そうそう。小狼とか、魔獣でもかわいいしなあ。なんか愛着いちゃうんだよな」 「それはどうなんだよ」  しゃべりながらも、ノアは残ったパンをスライスして、遠火で少しずつ干していた。 「パン全部干しちゃうの?」 「カビるからね。持ち歩き用に少し味つけたのも作っとくよ」 「やりぃ」  森のにおいは軽く、風は穏やかで、その向こうに動き回る魔獣たちの気配は、まだここまで届いていなかった。

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