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第13話 証
率直に、子供だとはとても思えない大きさだったと思う。
その感想を口にすると、騎士たちは微妙な顔をした。
森の奥、狼の縄張りの向こうまでの遠出だったので、この日は馬も活躍しており、数名の騎士たちとその世話にあたっていた。
「成獣はもっとデカいんだよ。群れのトップ、アルファ狼になるともっとデカい」
騎士が腕を広げて示す大きさは、ほとんど馬と同じくらいだった。
「そんなに大きいんだ」
「群れの中でも、とりわけ体が大きくて、強いやつがアルファ狼になるんだ」
ルガークが言った。
「……あとは、アルファ交代の時期に出てくるはぐれもデカいな」
デルタがルガークの言葉を引き継いで言う。
「はぐれですか」
はぐれ狼というと、弱くて痩せ細った個体なのかと思っていたので、驚いて聞き返す。
デルタが、頷いた。
「覇権争いに負けて、アルファになり損ねた若くて強い個体だ。中にはアルファより強いのもいるかもな」
馬の体を拭いていた手が一瞬止まった。
「……えっ?一番強いのがアルファになるんじゃなくて?」
騎士たちの顔を見渡して尋ねるノアに、全員が首を振った。
「とりわけ強い連中から、オメガの狼に番いに選ばれたのがアルファになるんだ。一番強いからってことじゃない」
馬が体を揺らして催促したので、ノアはまた手を動かし始めた。
ホーリークローブの匂いが染みついた馬体は少し煙っぽくて、馬は忙しなく尻尾を振っていた。
「知らなかった。いっちばん強いのがアルファなのかと思ってた」
川から水を運んできた騎士が、ノアに応えた。
「あいつら仕留めた時に取れる魔核で言ったら、オメガが一番すごいぞ。デカくて真っ赤できらきらだ」
「そうそう、オメガのはすごくきれいなんだぜ。オメガレッドって、聞いたことあるだろ?」
騎士たちがにわかに色めき立ち、ルガークが手のひらを何かを掴むような形にした。
「ごめん、オメガレッドってわかんない」
話についていけなくて、素直にわからないというと、ルガークがその手にブラシを持ち直して、ノアのところへとやってきた。
「んー、ウルフレッドはわかるだろ?あれの、一番いいグレードのやつなんだけど」
「ああ、そうなんだ……」
ウルフレッドなら知っている。
魔核から削り出される石のことで、宝飾品としても魔道具の核としても最上位の高級品だ。
「えっ、あれってダイアウルフの魔核だったんだ。知らなかった」
ノアの言葉に騎士が笑って応えた。
「ここはウルフレッドの狩場でもあるんだよ。来年頃にはアルファ交代だろうから、オメガレッドも出るな」
「団に宝石商が詰めかけそうだな」
口々に騎士達が言うので、ルガークに尋ねる。
「――アルファのは、アルファレッドって言うの?」
「まさか」
軽く笑ってルガークが言った。
「アルファのはクズ石みたいなもんだよ。デカいけどスカスカでぼろぼろ。体の方に全部栄養取られてんのかな」
ブラシを受け取って、たてがみを梳る。
馬の体が、ノアに寄り添うようにその身を近づけていた。
騎士たちが全員拠点に戻ってきたのは、その日の夜遅くなってからだった。
ローグともう一名は、群れの縄張りを超えたところまで行っていたそうで、夜の闇の中、かがり火をつけてノアたちは馬の世話をしていた。
「小せえのが出たらしいな」
ローグの言葉に、はいと応える。
「お前の対応、ルガークがほめてた」
その言葉に、少しだけむっとする。
ノアは、言われた事を言われた通りにやっただけだ。
何か特別すごいことをしたわけでもない。
「ローグさんから言われた通りにしただけです」
「騒ぐな逃げんなってな」
外した馬具を持ち上げ、ローグが鼻で笑って続けた。
「騎士でも、言われててもできねえ奴もいる。ま、お前はしっかりやったってことだ」
ローグから馬具を受け取って、拭き清める。
汗などがついたままだと、どんどん錆びていってしまうのだ。
「でも、無理かもなって思われてはいたってことですよね」
空いた手を、頭の上に乗せられた。
頭のてっぺんから頸筋まで、ぴりぴりとしたくすぐったさが走り抜けて首をすくめる。
「無理だと思ってたら言わねえよ。こんだけ前線回せる奴だ、入って一年二年じゃ無理だろ。自信持て」
上からノアの頭を押さえつけて、ぐしゃぐしゃと頭をかき混ぜてから、手が離れていった。
「ボサボサになったんですけど!」
「ははっ、悪いな」
同じように馬の背を撫でてやるローグは、ノアの抗議を気にした様子もなく笑っていた。
かがり火が風に揺れて、二人の影をゆらゆらと混ぜた。
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