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第28話 晩餐
昼のうちから少しずつ支度していた食事の中から、水で戻して柔らかく煮込んだ動物の腸や、味をつけて炙った干しパンにチーズや川魚のペーストを添えたものなど、携帯食で賄いにくい栄養を補えるものを選んでアーネストに持たせてやった。
「ローグさん……、こんな警戒地でこんないいもん食ってたんですか……!」
「ああ、おかげで連中の舌が肥えて、こいつが来年泣きを見るぞ」
ローグに指差されて泣きそうな顔をしたロアンが、ノアにすがりつく。
「やっぱり来年も来てえぇぇぇ」
あはは。と声を出して笑うと、ローグがそんなロアンを見て鼻を鳴らした。
「来年どんなことになるかわかってんだろ、甘えんな」
それからノアを見て、目を合わせた。
「……お前も、こんなとこ二度とくんじゃねえ。邪魔になる」
「あっひどいそんな言い方!」
即座に返したアーネストの言葉が、ノアの耳の上を通り過ぎた。
――邪魔になる。
川の流れる音は静かで、誰の声もかき消してくれなかった。
アーネストが騎士の向こうに戻り、ノア達も拠点へと戻った。
少し、浮かれていたのかもしれない。
一人でなんとか拠点を回して、ちょっとした危機にも対応した。
騎士達には惜しまれ、ローグに守ってもらえていた。
だからなんだ。
自分の身も守れない人間が、本来足を踏み入れるところじゃない。
ローグに守ってもらってはじめて、やっとなんとかなる程度のノアが、足手まといじゃないなんてこと、あるわけもなかった。
すでに支度を済ませていた食事を出し、桶に水を溜めて、ノアはそのまま倉庫に向かった。
泣くつもりなんてなかった。
自分の甘さを泣くつもりなんてなかった。
ただ、浮かれた自分を反省したかっただけだ。
倉庫の垂れ布を上げて外のかがり火の明かりを取り入れながら、持ち帰ると決まっている大きな荷物をどんどんと鞄に詰めていく。
今日の日中にもずいぶんやっておいたが、明日に持ち越す必要もない。
「ノア。ご飯食べないの。……食い尽くされるよ」
倉庫の外から、トッドの控えめな声が聞こえてきた。
「うん。食べ切ってもらえたら嬉しいなあ。俺の飯食ってもらえるのも今日で最後だし」
手を止めずに返す。
大物は全て片付けきった。
続けて弓矢に手を出す。
明日自分たちで担ぐ分は、すでに確保してもらっている。
これも片付けていいだろう。
「……ローグさんも、心配してるよ」
予備の矢筒の中で、からからと矢が音を立てた。
「あは、大丈夫。指示に反したりしてないよ」
矢筒を開けて、矢を補充しておく。
何かあった時にすぐに使えるように。
「俺、手伝うことある?」
トッドの声に少し笑った。
トッドはいつも、ノアにそう言ってくれる。
いいやつなんだということは、もうすっかりわかっていた。
「ありがとう、大丈夫。もう少ししたら俺も戻るから。」
それでも、今は放っておいて欲しかった。
「……わかった。邪魔してごめん」
「ううん」
弓矢を片付けてしまうと、それらを収納するための枠なども片付けられる。
手早く解体し、鞄へと詰める。
装備の手入れのための備品などは日中に片付けており、
今日明日の分の薪と、最後に盛大に焚き上げるためのホーリークローブの山だけが倉庫の中に残っていた。
がらんとした天幕の中が、なんだか今の自分によく似ていた。
さすがに、この天幕を夜の闇の中一人で畳むのは無理があった。
それは明日、誰かに手伝ってもらって畳もう。
そう決めて、自分の収納量を再確認する。
全ての天幕と毛皮や桶などの設備品、あとは数人分の衣類や予備の装備品程度ならばまだ入れられそうだった。
安心して息をはく。
最後までちゃんと役に立てる。
そのことが、ここでのノアの価値だ。
人気の減った拠点の中を通って、消えかけの火の元へ向かう。
火の前にローグがいるのに気づいて、足を止めた。
「遅えよ、何やってた」
こちらを見ないままのローグに声をかけられる。
「……倉庫の片付けを」
ノアの答えに、ローグが火をかき混ぜた。
細い薪を差し込み、位置を整える。
「飯食え」
ローグの言葉に虚をつかれて、言葉を失う。
「連中がずっとお前のこと待ってたぞ。うまい飯の礼が言いたかったんだと」
こっち来い。そう言われて、火の元へ近づく。
差し出された器には、ノアが用意しておいた食事がちゃんと取り分けられていた。
ちょっとだけ、多かった。
「……こんなに食べられません」
ふっとローグが笑う。
「そりゃもったいねえ。残ったら俺が食うさ」
ローグが天を仰いだ。
中天には白い月。
ローグの顔を白く照らしていた。
「今日で最後だな」
その横顔を、しばし眺める。
器を手に取って、口を開いた。
「はい」
「――よくやった。助かった」
ローグが差し入れた薪に火が燃え移り、小さく音を立てていた。
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