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第29話 背中ごし
少々多かった食事をローグと分け合って、ノアは器を水に浸けた。
この日は前日まで煙だらけになって走り回っていた騎士達が水浴びをしており、ノアも付き合って結局水遊びになっていた。
さっぱりした体と、騎士達の感謝、それからローグの言葉を胸に、ノアは天幕の前で足を拭いていた。
ローグはとっくに装備を外し終わっており、本当にこの拠点が警戒を解いたことが、その姿形からも見てとれた。
天幕の中は片付けられていて、外に出ているものは、ローグの装備と着替え、それからノアのための着替えと寝床の毛皮だけだった。
「こうなると、なんだか天幕の中も少し広く見えます」
「そうだな」
天幕の中へ後ろ向きに入って、垂れ布を下げた。
少し風が出始めており、ノアは鳥肌がのたった腕を撫でさすった。
そのまま、ベルトを外して腰履きに履き替え、上衣も羽織に替える。
「ローグさん、色々とありがとうございました。
俺、こうして拠点や前線に一人で出るのははじめてで、色々と経験させてもらえて、とても勉強になりました」
脱いだ服を畳みながら言うと、背後でローグが身じろぎする気配を感じた。
「……こういうところで、俺は一人でやっていくのが難しいこと、よくわかりました。
でも、前線の整え方とか、そういうのは周りに共有していけますし、
兵站の人間が騎士に安心を提供できるように、俺のできることをしていこうと思います。」
畳んだ服を下に置いて、ローグを振り返ろうとした。
そこを、後ろから引き寄せられる。
驚いて身をすくめると、肩に重みが加わった。
「……お前は有能だよ」
耳のすぐ後ろを、ローグの低い声がなでる。
いつものお守りの場所。
そういう場面じゃないとわかっていても、そこから背中へ向かってぞくぞくと震えが走った。
「俺が保証する。飯のうまさだけじゃない。胆力もある、機転も効く、ちゃんと騎士を制御もできる」
ローグが口をつぐんで、ふっと鼻で笑った。
「……まあ、条件付きだが」
「大きなお世話です。……とは、言えないですよね」
くっくっと背後でローグが揺れて、少しだけむっとした。
「……最後だ」
低い声で、ローグが呟いた。
「つけとくぞ。まあ、もう必要なさそうだが」
「……はい」
少し首を傾けてその場所をさらすと、ふっと鼻から息をはいたローグが、そっと耳の下、お守りの場所に唇を寄せた。
チリチリと、産毛が逆立つように肌が震え、それが耳の後ろを通って脳天までをくすぐった。
目の前がくらくらして、手のひらで口元を押さえた。
それでも、喉が小さく鳴って、耳の奥が痛いほど顔に熱が集まった。
少し舌が這わされて、それから、軽く吸い付かれる。
肌の震えが大きくなり、びりびりとした刺激が広がっていく。
いつもより、ずっと優しく。
「――――っ」
耳の後ろ、やわく唇が離れた。
その刺激すら、ノアの背骨を溶かしていく。
こんなの、まるで愛撫だ。
耐えきれなくなったノアが崩れ落ちそうになるのを、後ろから回された腕にとどめられ、引き寄せられた。
もたれた背中が、ローグの胸にぴったりとくっついて、ノアの息が上がっているのがもうばればれだった。
ノアを離したくないとでも、言っているように思えた。
お前はここに来る人間じゃないと、言い切ったその口で。
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