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第30話 門出
「……悪ぃ」
くったりとしたノアをひっぱりあげたローグの腕が、ひょいとノアを持ち上げて、寝床に放り投げた。
「――っ」
仰向けに放り入れられて、ローグと目が合う。
ローグの動きが止まり、唾を飲み込む音が小さく聞こえた。
「……寝るぞ」
「はい……」
毛皮を手渡されて、顔からかぶる。
自分がどんな顔をしていたのかは、わかりたくもなかった。
今日。
今日で忘れるから。
翌朝。
まだ薄ら暗い時間帯に目が覚めた。
背後で眠るローグはぐっすり眠っているのか、ノアが身じろぎをしてもぴくりとも動かなかった。
できるだけ音を立てないように、ローグに触れないように、そうっと体を起こす。
毛皮からはみ出した肩と背中。
自分に被せられていた毛皮を剥いで、ローグにかける。
少しだけ、毛皮の上からその背中を撫でた。
もう少しだけ、自分が聞き分けの良くない人間だったらよかった。
寝床を出て、服を着替える。
ベルトを通し、ローグから貰った服は鞄に収めた。
体を横向けにして眠るローグは、静かな寝息を立てていた。
もしかしたら、起きているのかもしれない。
だけど――。
「……ありがとうございました。」
垂れ布をあげて外に出る。
東の空、朝焼けが空を染め上げていた。
デイッカーの魔法は、一言で言えば規格外だった。
川原の石や倒木を使い、ものの三十分程度で簡易的な足場を作り上げた。
その上を、ディッカー達が騎乗で通り、拠点の騎士達、馬達に安全性を示してみせた。
拠点の荷物の多くをノアの鞄に納め、いつもより身軽だという騎士達は、軽々とその足場を通っていった。
ノアの馬だけは、最後まで足場に踏み出すのを躊躇っていたが、ローグの馬に寄り添われて、恐る恐る向かい岸へと渡ることができた。
この日。
橋の倒壊により断絶されていたダイアウルフの警戒拠点メンバーは、全員無事に解放され、巻き込まれて閉じ込められていた兵站部の一名を含めて、本隊へと帰還した。
拠点の指揮官であるローグ・オルブライトは、帰還早々に統括本部へ警戒期間中の報告書を提出し、同時に、ノア・ブラントルに対する惜しみない賞賛を添えて、統括本部への推薦書を提出した。
ノアは、二十三歳にして初めて、役職付きで中央へ任官することとなった。
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